東京・下北沢に4月25日オープンした、お酒も飲める新形態店舗「ROUTE25」。日本ケンタッキー・フライド・チキンは、これにあわせて公式スマートフォンアプリの提供を開始した。このアプリが利用できるのはROUTE25店だけ。にもかかわらず、提供開始から1カ月足らずでダウンロード数は7万件を超えた。

AR機能を搭載したケンタッキーのスマホアプリ

 店頭にある「カーネル・サンダース」の立像などをスマートフォンのカメラで写すと、その画面内で関連映像が流れてきて店舗限定の特別クーポンが入手できる。そんなAR(拡張現実)機能を発案したのは渡辺正夫社長だったという。オープン当日は、決算説明会を終えたその足で店頭に駆けつけ、AR連携機能を確かめていた。

 アプリに関しては開発期間は1カ月程度と“超特急”のプロジェクトだった。そのため正直、アプリのユーザーインターフェースはこなれているとは言い難い。公式アプリとしては発展途上の段階だ。店舗限定と知らずにダウンロードしたユーザーもいたようで、アプリ配信サービスにおけるユーザー評価は低いが、それも期待の裏返しといえよう。

「食べたいから来てもらう店」で差異化

 それでもダウンロード数が急増したことから、6月6日からはKFCマーケティングユニットの下で全国展開、そして本格投資に踏み切った。新たなAR連携コンテンツとして、カーネル・サンダースの名言集を提供する。

 「どんどんやりなさい。新しいことはもっとやろう!」。渡辺社長から発破をかけられ、マーケティングチームは現在、スマートフォン、ソーシャルメディア対応を急速に強化している。

 同社は2012年度から3年間の中期経営計画「ABR2014 ―Achieving Breakthrough Results 2nd Stage―」を定め、ITを活用して顧客との新たな関係構築を目指す「リレーションシップマーケティング タスクフォース(RMTF)」と、共通ポイントプログラム「Ponta」データの活用をする「分析タスクフォース」を4月に立ち上げた。RMTFでは、モバイル会員などとの個々のニーズに応じた関係作り、そしてマスメディア、ソーシャルメディア、自社メディアといったクロスメディアの積極活用をテーマに掲げる。

 「タスクフォースは研究開発の役割を果たし、小さく立ち上げて感触がよければ、事業部のマーケティングに渡して広げていく」

 経営企画室マネージャーの干場香名女氏は、タスクフォースの役割をこう説明する。RMTFには経営企画室、広報、KFCマーケティングユニット、ピザハットのマーケティングユニットが参加する。外部企業からの様々な提案も受けながら、効果的と判断した施策はすぐに取り組む。アプリ開発もその一環だ。

 2012年度内は自社サイトの見直しも進め、今後は刷新も予定している。ポイントとなるのは、ケンタッキーの食の安心安全、おいしさへのこだわりという企業ポリシーを理解してもらうコンテンツの強化と、ソーシャルメディアとの連携だ。

 ケンタッキーの店舗は全国に1200店舗弱と、他の大手ファストフードチェーンと比べると少ない。「一般的なファストフードは立地がよく便利だから立ち寄る、という側面もあるだろうが、ケンタッキーは食べたいから来てもらう店」と、KFCマーケティングユニットKFCマーケティンググループ管掌執行役員常務補佐の鈴木孝尚氏は解説する。

 新商品やキャンペーンをテレビCMで告知すれば、確かに来店数は伸びる。ただし、定番のオリジナルチキンの売り上げはほぼ横ばいという現実がある。

 ハンバーガーチェーンやコンビニエンスストア各社も、チキンを使った商品に力を入れる中、“本家”としてはあらゆる機会で商品へのこだわりを訴求し、顧客数の拡大を目指したいところ。スマホのアプリにカーネル・サンダース名言集を盛り込むのも、クーポン提供で見込み客を多数集めて、ケンタッキーのこだわりを知ってもらう狙いがある。

 自社サイトにソーシャルメディア連携機能を加えて、ケンタッキーのこだわりをファンを通じて広めていく。既に取り組み済みの企業からすると、「そう簡単ではない」と思うかもしれない。高いハードルであるのは事実だが、ケンタッキーには1つの成功体験がある。それがソーシャルメディアへの大きな期待につながっているのだ。

 同社が今年2月に期間限定で発売した商品「チキンフィレダブル」は、Twitter効果で異例の大ヒットとなった。この商品の専門店に衣替えした池袋サンシャイン通り店では、通常商品の約4倍に相当する1日2000点が売れた日もあるほどだ。販売期間は当初の予定を約1カ月間延長して3月20日までとした。

TwitterでテレビCM並みの認知

 「淳の休日のフォロワーさんの為に、例の新商品の100名分の無料試食が行われる事になりました! 1月20日限定です(後略)」

 お笑いコンビ、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが70万人以上のTwitterフォロワーを抱えることをご存じだろうか。彼がファンに向けて投げかけたこのツイートは、数百人がリツイートし、試食会場となったケンタッキーの池袋サンシャイン通り店へは多数の人が訪れた。

ソーシャルメディア発のヒットとなった「チキンフィレダブル」

 実のところチキンフィレダブルは、発表前からネットで話題の商品だった。この商品は米国やオーストラリアで販売する「ダブルダウン」を日本向けにアレンジしたものだ。チキンフィレをバンズ代わりにして、チーズとベーコンを挟んで食べるという、わりと強烈な商品。ケンタッキー社内では「日本向けではない…」という評価だった。が、昨年1月に同社Twitterでその商品を紹介し、試作品を作って味の感想をツイートしたところ、話題は一気に広がった。

 そこで、低カロリー化などの日本独自のアレンジをして発売を決定。Twitterで田村さんに試食会への参加を呼びかけたことをきっかけに会話が弾み、「臨時マーケティングマネージャー」に就任してもらうこととなった。

 チキンフィレダブルをアレンジした限定商品を発売するなどの活動をし、ケンタッキーのTwitterアカウントをフォローするようなファン、そしてインフルエンサーである田村さんのTwitterなどを中心にネットでプロモーションを展開した。チキンフィレダブルの認知度はテレビCMで宣伝する商品と同等まで高まり、テレビ番組でも取り上げられたこともあり、ソーシャルメディア発の大ヒットとなった。

 「キャンペーンを考える際にデジタルを従来以上に強く考えるようになった。面白い情報、意味のあるものは伝わりやすい。ソーシャルメディアの特徴と威力を理解させられた出来事だった」と鈴木氏は振り返る。こうした成功体験があるからこそ、自社サイトとソーシャルメディアを強く連携させた刷新に臨むのだ。

 社長の強い支持を得て急速に進むケンタッキーのデジタルマーケティング強化策。注目を集めるメディアは1年もたたずに移り変わるが、それでも確信をもって進められるのは、ケンタッキーのこだわりを伝えることで店舗へ顧客を集めるという目標がぶれていないからだろう。