「『ニコンちゃん』って知ってる?」

 知人の女性から記者は最近、こう聞かれた。ニコンちゃんとは、ニコンイメージングジャパン(東京都港区)が「Twitter」で展開している女性キャラクターの名前である(@nikon_chan)。聞けば彼女は、ニコンちゃんのツイートを見るうちに、ニコン製品に興味を持ち始めたという。

 同社はニコンちゃんを通じて、Twitterでフォロワーとの対話を進めてきた。その結果ニコンちゃんには、フォロワーから毎週のようにニコンのカメラを買った報告が寄せられるようになってきているという。ソーシャルメディアでの対話が、売り上げ貢献という成果につながり始めている。

あえて、ニコンファンを排除

ニコンちゃんの「Twitter」アカウント

 カメラの専門家に支持される。それは、とても価値のあることではある。だが、一方で若い女性からは「私たちとは関係のないブランド」と思われてしまうジレンマをニコンは抱えていた。

 ニコンが女性の顧客を獲得したい理由は、写真を撮影するという行動が消費者の生活に根付きつつあることが挙げられる。それにより、女性のカメラユーザーも増えている。その大きな要因は2つある。

 1つがスマートフォンなどにあるカメラ機能の普及だ。カメラメーカーの売り上げを著しく奪っているという見方もある。だが、ニコンの考え方は全く逆。「カメラに対するハードルが大きく下がっている」と、ニコンイメージングジャパン広報宣伝部WEBマーケティング課の大塚拓マネジャーは言う。

 気軽に写真を撮ることができるようになったことで、カメラを使うすそ野が一気に広がった。それにより、これまで顧客になりにくかった若年層の女性も、ニコンの見込み客となっているとも言える。

 もう1つの要因が、ソーシャルメディアの利用者拡大だ。ソーシャルメディアでは利用者が買ったものや、食べた料理、行った場所を撮影した写真を日々投稿している。こうした流れも、写真撮影の促進に一役買っている。

 ケータイで撮影した写真をソーシャルメディアに投稿していくと、もっとキレイな写真を撮って友人に見せたくなる。あるいは、一眼レフを使っている友人の写真を見て自分も欲しくなる。そんな心理が働くことは十分考えられる。ミラーレスのタイプや初心者向けなど、軽くて女性でも扱いやすいモデルを中心に、女性の間でもデジタル一眼のユーザーが増えているのは、ソーシャルメディアの利用拡大と無縁ではなさそうだ。

 女性にニコンブランドをもっと身近に感じてもらいたい。課題解決のため取り組んでいるのが、ニコンちゃんというキャラクターを通じたTwitter上でのフォロワーとの対話だ。写真の共有が日常茶飯事のソーシャルメディアは、ニコン製品の特徴を伝えるのに相性が良い。そう同社は考えた。ニコンちゃんは、25歳前後の女の子で、初心者向けのデジタル一眼レフカメラを使い始め、今は最新機種のミラーレス一眼「Nikon 1 J1」に挑戦中という設定だ。

 キャラクターを立てた理由は、「若い女性と対話する」というTwitter活用の目的をはっきりさせるため。言ってみれば、「濃いニコンファンを足切りするため」(大塚氏)である。大塚氏は、緩いイラストの女の子のアイコンを見るだけで、本気のカメラ好きはフォローしないだろうと考えている。「当社製品の熱いファンの存在はもちろんありがたい。が、そういった人は当社のWebサイトから情報を取得してくれるはず」と大塚氏は考える。

 Twitterではなるべく女性目線での写真を投稿するように心がけている。例えば、作った料理の写真や、旅行した時の日常を切り取ったような写真など、女性がブログに使いそうなものを意識している。実際に撮影や投稿をするのはニコンの女性社員。だから、カメラの扱いは手慣れたもの。しばしばニコンちゃんに寄せられる「どうやって撮影するの?」といった質問に丁寧に返信することで、フォロワーとの関係を築いていく。

ニコンちゃんに寄せられる「ニコン製品を買ったよ」の声

 フォロワー数は約2万1000人程度と決して多くはない。だが、密接な関係は築けているようだ。「D3100買っちゃったよ!わたしも一眼デビュー(*^o^*) ニコンちゃんはレタッチとかしてるの? 難しそう…」「J1買っちゃった!(´∀`)」「P7100買っちゃいました!明日から毎日持ち歩きます」。こんな声がニコンちゃんの元には届いている。

 「週に1件くらいの頻度で『ニコンの製品を購入しました』という声が寄せられる。思ったよりも効果がある」と大塚氏。もちろん、ニコンちゃんのツイートが購入を左右したとは断定できないが、少なくともニコンちゃんに買ったことを伝えて、もっと会話をしたい。そんな風にフォロワーから思ってもらえているのは間違いないだろう。

カメラメーカーが撮影機能付きアプリ

 この5月からは、こうして築いたフォロワーとの関係をより強い結びつきとするために新しい施策に取り組んでいる。それが、iPhoneアプリの「ニコンちゃん」だ。

5月に提供を始めたiPhoneアプリ「ニコンちゃん」

 このアプリには、カメラ機能がついている。カメラメーカーが撮影できるアプリを提供するケースは珍しい。敵に塩を送るようなものとも考えられる。ただ、この機能もあくまでニコンちゃんのファンを喜ばせるもの、という意味合いが強い。

 このアプリでは単に撮影するだけではなく、撮った写真にニコンちゃんやニコンのカメラのイラストを合成できる。そうして作った写真をTwitterに投稿してもらい、ニコンちゃんとの会話のきっかけにしてもらう。アプリで遊んでもらうことで、ファンとのつながりをより強めていく。そんな狙いがある。

 既存顧客をあえて排除してみる。企業課題と照らし合わせて、自社の課題解決をするに当たって、こんな視点でソーシャルメディア活用をしてみるのも有効かもしれない。