パソコン、スマートフォン、タブレット――。

 消費者が利用するデバイスが多様化する中、既存のサービスを各デバイスに対応させる企業が増えている。ただ単に対応するだけでなく、同じブランド名のサービスを提供する場合にも、消費者がデバイスを利用する、その目的に合わせて企業サイドは臨機応変にサービス内容やマーケティング戦略を変えることも必要な時期に差し掛かっている。

 その点、衛星放送事業のスカパーJSAT(東京都港区)の番組表サービス「テレコ!」を巡る戦略には独自性があると言えよう。スマホ向けとパソコン向けで、同じサービスでありながら全く異なるマーケティング戦略を描いている。どちらの端末も、同社の稼ぎ口である衛星放送の加入者獲得という最終的な目的は共通。だが、そこに至るまでの道筋は全く異なる。

加入者を軸にソーシャルで番組情報を拡散

 まずスマホ。こちらは、ソーシャルメディア上での情報の広がりから、加入者獲得を狙う。

 2月29日、同社は放送中のテレビ番組にチェックインして、連携しているソーシャルメディアに投稿できるiPhone向けアプリのテレコ!の提供を始めた。その翌月には、Android版の提供を開始している。日本でも注目を集めつつある「ソーシャルテレビ」を、衛星放送の契約者獲得という目的のために活用する考えだ。

スマホ版テレコ!

 「スカパーの加入者は、『こんな番組を見た』ということを伝えたがる傾向がある」。こう分析するのは、スカパーJSATマーケティング本部デジタルコミュニケーション部運用チームの阿部元貴氏だ。「加入者でないと見られない。そんな優越感にひたりたいのではなかろうか」と阿部氏は言う。

 この分析に基づけば、番組を見ていることを簡単にソーシャルメディア上にシェアできる仕組みさえ用意すれば、加入者が番組情報をネットに広めてくれる期待が持てる。情報がネット上に広がれば、加入者のソーシャルメディア上の友人が、スカパーに関心を持つかもしれない。

 本誌が4月27日から5月4日にかけて実施した、テレビとソーシャルメディアの利用に関する消費者調査では、56.3%の人がテレビ番組を見ながらソーシャルメディアに番組に関する情報を投稿したという結果も出ている。ソーシャルメディアとテレビの相性が良いのは確かだ。

 そんなアイデアを具現化したのがスマホ版テレコ!である。「アプリで検索機能などはあえて省き、ソーシャルメディアとの連携に特化させた」(阿部氏)。

 スマホ版テレコ!は利用する前にまず、「Facebook」か「Twitter」のアカウントと連携させる。画面には現在放送中の番組名がずらり並ぶ。地上波、BS、CSの中から今見ている番組を選んでチェックイン。レストランや小売り店で位置情報を登録してチェックインするような感覚だ。するとその番組の情報が、連携しているソーシャルメディア上に投稿される。

 ソーシャルメディア上の友人もこのアプリを使って番組にチェックインしていれば、友人の何人がどの番組にチェックインしているかも分かる。番組情報を友人に伝えやすくするツールを用意することで、加入者の満足度を高める。同時に、ソーシャルメディア上での情報の広がりを加入者獲得へとつなげていく。そんな戦略を標榜する。

 まだ提供を開始して日が浅いこともあり、現時点ではまだダウンロード数は数万件、チェックイン数は1日当たり約1000件にとどまっている。スカパーJSATでは、利用者の拡大とチェックイン数の拡大を目指して、今後番組とアプリの連携にも力を入れていく考えだ。

 具体的な連携方法はまだ決まっていないが、阿部氏は「社内の編成部からの関心は高い。今年度には番組連動を実施したい」という。そして、「将来的にはテレビCMにテレコ!でチェックインして、クーポンをもらえるといった仕組み作りにも挑戦したい」と意欲を見せる。

番組表サービスで未加入者の利用狙う

 このように、スマホ版テレコ!は既存加入者などの利用を想定した施策であるのに対して、パソコン版テレコ!は、未加入者の利用をにらんだ作りになっている。

 パソコン版は、地上波からBS、CSまでを網羅した番組表サービスだ。各チャンネルを横断的に検索できる。若者の中には、新聞ではなくネットでテレビ番組表を探すような人も多いといわれる。こうしたニーズに対応したプラットフォームを用意することで、直接アプローチすることを狙う。

番組検索に重点を置いたパソコン版テレコ!

 スカパーの加入者でもない人がアプリをダウンロードしてくれる可能性は低かろうが、番組表なら検索エンジンからアクセスしてくれることも十分あり得る。

 また、「加入までの導線づくりは、パソコン版の方が向いている」と阿部氏。スマホでネットショッピングはしても、衛星放送に契約するのはやや想像しがたい。加入までの導線は、パソコン版の方が向いているとの考えだ。

 例えば、トップページには当日と翌日に放送する番組の中から、地上波、衛星放送を問わず、お薦めの番組を選んで画像とともに紹介している。番組表を訪れた人に、そこで「衛星放送ってこんな番組もやっているんだ」と関心を持ってもらう。詳しい情報は番組情報サイトで見てもらい、そこから加入へとつなげることを目指す。

 今後は、地上波の番組情報から、自然とスカパーの番組に興味をもってもらえるような仕組みを作る。例えば、あるサッカーの試合の生中継に興味を持ちサイトを訪れた人がいたとする。その時には、番組情報の下に、世界のサッカーが見られることを訴えていく。

 デバイス多様化の進展は、もはや疑いようがない。単純に表示を最適化するだけではなく、デバイス特性にあわせて、特定の機能に特化させる戦略も一考に値するのではなかろうか。