第2回 テレビは「従」と位置づけ、ソーシャルと自社サイトに誘導
第3回 視聴の質が問われる時代、ガラリ変わる効果指標
第4回 広告主、テレビ局、視聴者それぞれにメリットがある
第5回 グリー、モバゲー利用者はテレビ好き、番組やテレビCMの内容を積極的に投稿する
ツイート数やリツイート(RT)数、ツイートの内容、クチコミに接触した人数…。商品の評判を把握し、競合と比較する上で、クチコミ分析サービスを利用する企業は増えている。これはそのまま、テレビ番組やテレビCMの評価に応用する。そんな取り組みをする1社がワコールである。
テレビCMで新たに起用した外人の姉妹モデルの反響はどうだろう。ダンスはやさしすぎず、難しすぎず、踊ってみたくなるだろうか。楽曲をアレンジした効果は出ているだろうか。
下着商品「リボンブラ

リボンブラは、女性の胸にしっかりフィットして、動いてもずれないのが特長。ワコールはこの商品の販促策で、胸にきちんと合っているかをチェックする体操を考案して、店頭での顧客サービスとして伝えてきた。その体操の動きが面白かった。音楽を付けてテレビCMで流せば、話題を呼ぶのでは。そう考えた大薮氏は、2010年春の新商品から、モデルが「リボンブラ体操」を踊るテレビCMを放送している。
これが当たった。クチコミで広がっていった結果、YouTubeに掲載したロングバージョンの動画は、2010年春の公開から4カ月で80万回の再生回数を数えたという。商品の売り上げは前年の同シリーズと比べ67%増加。その後のシリーズも数十万回再生され、顧客自身が踊った動画も多数投稿される、話題のテレビCMとなっている。
この話題性の持続には、ソーシャルメディアの反響を積極的に収集する大薮氏の姿勢が一役買っている。「テレビCMの反響をネット上のクチコミで確認することは習慣化している」。
こうしたテレビCMに関するクチコミを、ネット広告の出稿先の選定や予算の配分にも生かしている。これらの積み重ねにより、LALANシリーズの売り上げは順調に伸びている。昨年は震災の影響で広告を控えたため、ほぼ横ばいとなったが、今年は既に前年比で28%増の売れ行きだ。
ソーシャルテレビ測定ツールも
視聴の質を測りたい企業のニーズがさらに高まっていくことは、テレビ局サイドの声からも把握できる。TBSテレビのメディアビジネス局デジタルビジネス推進部の岡野恒部次長は言う。「1社スポンサー型の番組では、視聴率だけではなくTwitterやFacebookでの盛り上がりも求められるようになってきている」。
こうした要望に応えるため、番組とソーシャルメディアの連携にも積極的に取り組む。例えば番組の最後に、Facebookページのファン登録を促す告知を放送している。また、今春に放送したある番組の拡大版では、ハッシュタグを付けて投稿したツイートを番組中に表示した。「全体で数万件の投稿が寄せられた」(岡野氏)。
ソーシャルメディア上の話題性を広告効果として求める広告主の声は電通にも寄せられている。「視聴率やPOS(販売時点情報管理)データに加えて、ツイート数などを総合して効果測定するツールを広告主に提供する事例も既にある」と、電通総研の奥律哉研究主席は言う。
米国では、ソーシャルメディア上の情報から、テレビCMの広告効果を測定する調査をサービスとして提供する企業が増えている。米ブルーフィンラボもその1社。同社のツールを使うと、どの時間帯にテレビCMが放送され、そのときソーシャルメディア上でどれくらいそのCMについて語られたか、何人の消費者に情報が届いたのか、といったことが一目で確認できる。競合企業との広告効果の比較も容易だ。
ツイッタージャパンの牧野友衛パートナーシップディレクターによれば、「国内でもTwitterの全データを使ってテレビCMの伝搬力を測れるパートナーを作ろうとしているところ」。今後は「日本でも米国で起きているような『ソーシャルTVレーティング』の策定が進むだろう」と言う。ブルーフィンラボのようなサービスを提供する企業が、国内にも誕生するかもしれない。
テレビ連動型バナー広告の可能性
ソーシャルメディア上のクチコミから広告効果を測るだけでなく、ソーシャルテレビにひも付いたアプリと連携することで、直接キャンペーンに応募させる手法も将来的にはできるようになるだろう。そのプラットフォームとなる可能性を持つアプリとして注目したいのが、スマホ向けアプリの開発会社ジェネシックス(東京都渋谷区)のソーシャルテレビアプリ「tuneTV」だ。

アプリを開くと、画面中央に放送中の番組に関するTwitter上のクチコミが表示される。画面下部には、チャンネル番号が表示されており、この番号をタップすればクチコミを表示するテレビ局が切り替わる。各チャンネル番号の上にはグラフが表示されており、このグラフがソーシャルメディア上での盛り上がりを示す。盛り上がりや番組に関するクチコミを見て、興味があればチャンネルを変える。効率的にザッピングするような使われ方をされている。
同社はこのアプリを使った広告サービス、効果測定手法の開発に向けて実証実験を始めている。ある音楽番組の放送中に、出演するミュージシャンの順番を伝えるコンテンツへ誘導するなど、番組と連動した広告を配信すると、「無関係の広告よりもクリック率は1桁高くなる」(冨田憲二取締役)といった傾向も見えている。
今流れているテレビCMと連動したバナー広告をアプリに表示し、CMで特典の告知するなどしてアプリの利用を促し、そのバナー広告のクリック率やその後の成約数を分析すれば、テレビCMのアクティブ率を推測することも理論上は可能だ。ただ、tuneTVのダウンロード数は15万程度と、まだ利用者が少ないため大きな成果は見込みにくい。
また複数スポンサーの番組では、ある企業のキャンペーンに視聴者が熱中すると、ほかの企業のCMを見なくなることに関する利害調整も必要になろう。「興味を持つ広告主はいるが、越えるべきハードルが多い」(冨田氏)のが現状だ。

ソーシャルテレビ時代の到来は、マス広告を扱う宣伝部とデジタルマーケティング担当部門の距離を一気に近づける作用も起こす。両者が密に連携し、広告効果を最大化することが肝要だ。
第2回 テレビは「従」と位置づけ、ソーシャルと自社サイトに誘導
第3回 視聴の質が問われる時代、ガラリ変わる効果指標
第4回 広告主、テレビ局、視聴者それぞれにメリットがある
第5回 グリー、モバゲー利用者はテレビ好き、番組やテレビCMの内容を積極的に投稿する