第2回 テレビは「従」と位置づけ、ソーシャルと自社サイトに誘導
第3回 視聴の質が問われる時代、ガラリ変わる効果指標
第4回 広告主、テレビ局、視聴者それぞれにメリットがある
第5回 グリー、モバゲー利用者はテレビ好き、番組やテレビCMの内容を積極的に投稿する
「テレビCMはリーチは広いが効果は短い。放送することで瞬間的なブランド認知はとれるが、すぐに忘れられてしまう」
こう語るのは、リクルートの住宅情報サービス「SUUMO」のマーケティング担当者である、住宅カンパニー企画統括室事業推進部ブランドマネジメントグループの田島由美子チームリーダーだ。
住宅情報や耐久消費財などのマーケティング活動では、ブランドの刷り込みが重要だ。今すぐに必要としない消費者にも、普段からブランドを浸透させることで、いざ検討に入った段階で真っ先に思い出してもらう。
数十秒のテレビCMではブランドとの深いつながりは作りにくく、広く浅いリーチをとるにとどまり、出稿が終われば忘れられてしまいがちだ。テレビCMで得た効果を持続する方法はないだろうか。田島氏はそう頭を悩ませていた。
たどり着いたのがテレビCM、ソーシャルメディア、キャンペーンサイトの役割を統合的に考えるマーケティング戦略だ。昨年9月、新キャラクターを投入したプロモーションでは、この戦略に基づいた施策を展開した。
テレビCMはソーシャルメディア上に情報を広げるための興味喚起の役割に特化させた。ブランドとの深い接触を担うのはキャンペーンサイトとなる。さらに、そのキャンペーンサイトにもソーシャルメディアへの情報拡散を促す仕掛けを用意した。こうして、テレビCMの効果の持続を図った。
テレビの役割は興味喚起
プロモーションは、こんな内容だ。SUUMOのイメージキャラクター「スーモ」が喫茶店でくつろいでいると、突如現れるUFO。コーヒーカップが次々とUFOに吸い上げられていく。そしてついに、スーモもさらわれてしまう。首謀者は、「ドンスーモ」という新しいキャラクターのようで、「スーモを追え」というメッセージが表示される。
リクルートは昨年9月に2週間にわたって、こんなテレビCMを放送したが、そこには住宅情報サービスの根幹であるはずの家に関する情報は一切登場しない。テレビCMはソーシャルメディアにクチコミを広げるためのツールでしかないと位置付けたからだ。
ドンスーモ登場というメッセージを伝えることに役割を絞ることで、まず「ドンスーモって何なの?」という疑問に基づくクチコミの拡散を狙った。
さらに、FacebookとTwitterで運営していたSUUMOのアカウントも、ドンスーモに乗っ取られてしまう。当時FacebookとTwitterの合計で約7万人いた、コアなファンのクチコミ拡散を狙った施策だ。「Facebookのスーモページがドンスーモに乗っ取られた!!どうしよう」「スーモどこ行ったのかなぁ…大丈夫かなぁ」。そんなクチコミが増えた。
そして、ブランドの深い体験をしてもらう役目を担うのがキャンペーンサイトとなる。ちなみに、このサイトもドンスーモに乗っ取られている。ドンスーモ一家のアジトを探し出すクイズを使ったゲームを用意。ゲームを通じて、SUUMOブランドとの接触時間の増加を狙った。
ここまでは、テレビCMの興味喚起の効果を最大化させるためのソーシャルメディア活用と言えよう。田島氏の最大の悩みは、その効果の持続だ。そこで、もう1つの仕掛けを用意した。
「みんなで実現する『ドンスーモの野望!?』」という企画だ。この企画は、クイズゲームへの参加者数と、キャンペーンサイト経由でソーシャルメディアに投稿された数の合計値によって、プレゼントキャンペーンが段階的に進化するというものである。

参加・投稿数が1万件に達するとパソコン向けの壁紙がもらえ、6万件ではSUUMOグッズのプレゼント、そして最高位の15万件ではスマホ向けのゲームアプリの開発プロジェクトがスタートする。「キャンペーンの終了を待たずして15万件に達した」(田島氏)。
効果の持続性を狙って、この3つのプレゼントを小出しに提供していったことがポイントだ。
まず、キャンペーン終了と同時に壁紙の配信を始める。11月に、プレゼントするグッズの紹介ページを立ち上げた。そして12月6日からそのグッズのプレゼント企画を開始。20日にゲームアプリの提供といった段取りだ。段階的に展開することで、テレビCMをきっかけにキャンペーンに参加した人の関心を引きつけ続けた。
今年1月に始めた冬のキャンペーンでは、昨秋のキャンペーンの残存効果と相まって、「ドンスーモについての投稿件数はさらに増えた」(田島氏)。キャンペーン後の調査では、SUUMOを利用したことがあると回答した消費者の割合が、前回調査より20%増加する成果も得られた。
長期的視点に立ったSUUMOを巡る取り組みと異なり、1つの番組のテレビCMからソーシャルメディアの盛り上がり、ひいては商品の販促という直接的な効果まで狙ったのが、米ペプシコだ。ソーシャルメディアの利用者がネット利用者数の過半に達する米国では、テレビとの相性は日本以上に良い。
べプシコはアプリ連携で盛り上げ
アメリカンフットボール最大のイベント「スーパーボウル」を生中継する番組は、視聴率が1991年から22年連続で40%を超える。今年は2月5日(現地時間)に開催され、視聴率47.8%をたたき出した。スーパーボウルでの米有力企業によるテレビCM合戦は毎年恒例の行事になっている。
この合戦に参加したペプシコが今年放送した入魂のテレビCMは、米国の人気オーディション番組「THE X FACTOR」の優勝者が、歌手のエルトン・ジョンと競演するという内容だった。オーディション参加時の一般人が、優勝によってスーパーボウルのテレビCMで主人公になるシンデレラストーリーだ。このCMに、2つのスマホアプリを連携させて、ソーシャルメディアとの接点の役割を持たせた。

1つ目のアプリが、見ている番組にチェックインしてソーシャルメディア上に投稿できるソーシャルテレビアプリ「GetGlue」だ。近頃、Facebookやmixiなどで、レストランやレジャー施設などの場所にチェックインして友人との話題のきっかけにする人が増えている。GetGlueは、そのテレビ版と思ってもらっていい。
アプリの利用者に、CMにチェックインしてもらうための動機付けとして用意したのが飲料商品「Pepsi MAX」を1本無料でもらえるクーポンだ。GetGlueを使いペプシコのテレビCMにチェックインした人に提供した。
チェックインしてもらうことで、テレビCMに関する情報がソーシャルメディアを通じて広がる。アプリの利用者は約200万人で、スーパーボウルの番組全体では16万回のチェックインがあったようだ。ペプシコのテレビCMは、スーパーボウルで放送されたテレビCMの中では、最もチェックインされたという。
もう1つのアプリが「Shazam」。流れている音楽をアプリに読み込ませると、データベースと照合して、その音楽に関するアーティスト情報などを教えてくれる。ペプシコのテレビCMでは、画面の右下に小さくこのShazamのアイコンが表示された。その時、アプリを立ち上げて読み込ませるとペプシコのキャンペーンページに移動して、動画を視聴できるようにした。Shazam経由でもソーシャルメディアへ投稿できる。
米国の新聞社ボストン・グローブが実施した調査「Brand Bowl 2012」では、スーパーボウルで放送されたテレビCMのツイート数ランキングでペプシコは、競合の米コカ・コーラの2倍以上となる3万9577ツイートを導き3位に入った。クチコミでテレビCMが話題になった結果、YouTubeに掲載したペプシコのテレビCMは484万回も再生された。
テレビCM中心のマーケティングは落とし穴にはまる恐れも
こうした状況について前出のリクルートの田島氏は言う。「ソーシャルメディアでのシェアを狙うために、テレビCMのクリエーティブを考える。そんな逆転的な発想が起こっていく」。
今後、そうした流れは避けられないとしながら、こう続けた。「出稿費が高いのでテレビCMを中心にマーケティングを考えがちだが、それでは落とし穴にはまるかもしれない」。
テレビをソーシャルメディアへの入り口としたマーケティングが主流になっていけば、マーケティング戦略の効果測定は、Twitterなどの投稿数やその内容になることも考えられる。つまり、「視聴率万能主義」との決別ということになる。視聴率とは異なる新しい効果を可視化し、視聴の“質”を測ることも可能になろう。それを実現していくのがステップ3であり、ソーシャルテレビの本質とも言えるものである。
第2回 テレビは「従」と位置づけ、ソーシャルと自社サイトに誘導
第3回 視聴の質が問われる時代、ガラリ変わる効果指標
第4回 広告主、テレビ局、視聴者それぞれにメリットがある
第5回 グリー、モバゲー利用者はテレビ好き、番組やテレビCMの内容を積極的に投稿する