スターバックスコーヒージャパンは来年度以降、購買履歴を活用して顧客の趣味嗜好や行動パターンなどに沿った商品提案をするモバイルクーポンを配信する。プリペイドカードの「スターバックスカード」と、ネット会員サービスを連携させて購買履歴を収集する。クーポンという形を取るが、値引きより商品の提案力で来店数を増やしたい考えだ。市場環境の違いを踏まえて、米本社とは異なる日本独自の手法でCRM(顧客関係管理)戦略を推し進める。

キャンペーンで提供するミニスターバックスカード

 同社は6月6日、約43万人が登録するWeb会員サービス「My Starbucks」にスターバックスカードの情報を登録してもらうことで、会員個別の購買履歴の把握を始める。登録者には、カード紛失時の残高保証、クレジットカード決済によるオンライン入金やオートチャージ、別のカードへの残高移行といったサービスを提供する。登録者から抽選で2万人に限定デザインのミニスターバックスカードをプレゼントする期間限定キャンペーンを実施して、早期の登録を促進する。

 2002年に提供を開始したスターバックスカードの累計発行枚数は約590万枚に達した。同社の調査では1人平均で2枚程度持っているという。ただ、スターバックスだけでしか使えないことなどから、全購買回数に占めるカード比率はしばらく5%程度にとどまり、一時期は4%を切るほどに低迷した。

 2009年以降は、女性を主なターゲットに定め、地域限定や季節限定などデザイン性が高いカードを次々と提供した結果、カード比率は8%まで高まった。カードを利用する顧客には来店頻度が高い「ロイヤルカスタマー」が多く、カード利用者の増加は売り上げの増加につながる。

 今回の機能強化でカードの利便性を高めて、全購買回数に占めるカード比率を現在の8%から3年後に15%まで高める。米国の17~18%の比率に近づける。

 しかし、同社の真の狙いは次のステップにある。

商品提案が「主」、値引きは「従」

 「値引きをやめたら来なくなる。そんなクーポンではなく、商品提案(自体が価値になるクーポン)でやってみたい」

 マーケティング本部WEB・CRMグループの長見明グループマネージャーは、2013年度以降に提供を開始するクーポンに期待をかける。

 飲食店チェーン業界では、日本マクドナルドの約3000万人を筆頭に数百万人規模の会員を集めて、値引きクーポンをモバイル端末へメールなどで配信して、店舗集客に結びつける企業が多い。

 スターバックスはそれらとは一線を画す考えだ。同社はCRMの拡充に向けてロイヤルカスタマーに調査したところ、ポイントサービスや値引きに対する要望は少なかったという。単なる値引きでは高い効果は望めない。そこで店舗での体験を再現した「デジタル上の接客」の実現を目指す。

 例えば、いつもドリップコーヒーを飲む顧客でも、そのときの気分や天気などで、レジで注文を迷うことがある。そのときに店員が商品を提案すれば、いつもとは違う商品を注文することもある。一度新しい商品を試した顧客は、また新しい商品を頼むなどリピートの機会が高まる。

 長見氏が実現したいのは、そうした接客をモバイル上で提供することだ。よく注文する商品、来店する時間帯、来店する店舗の地域など、顧客の購買動向を分析して、行動範囲が変わった時期など、最適な時期を捉えて最適な商品のクーポンをメールなどで提供する。画面にはバーコードを表示して店頭で読み取り、スターバックスカードで決済する。値引きはしても、新しい商品を試すきっかけの提供が「主」、値引きは「従」と位置づける。

 こうした施策によって、顧客生涯価値(LTV)の向上を狙う。具体的には、(1)ドリンクのカスタマイズ、(2)フードとの同時購入、(3)コーヒー豆の購入、(4)ギフト購入の4つの頻度や量を増やすことだ。

 カードを使うようなロイヤルカスタマーの重視は、全世界のスターバックスで共通の方針だ。米スターバックスも、カード会員向け特典サービス「My Starbucks Rewards」を提供するが、よりシンプルで、どちらかというと短期的な販促に寄ったものだ。年間の来店回数に応じて、無料トッピング、ドリンクの無料提供といった特典を提供する。

 日本独自の手法をとる理由について、長見氏は「マーケット環境が違うため」と説明する。米スターバックは商品の値段が安く、平均の来店頻度は日本の2~3倍も高いという。日本においてスターバックスは、コーヒーチェーン店の中では高級な部類に入る。顧客を飽きさせない変化や、サプライズが米国以上に重要であるため、様々な商品提案ができる会員サービスを目指す。

 購買履歴を活用した個別のクーポン配信では、日本マクドナルドが先行して実験を進めている。しかし、「ハンバーガー店以上に来店頻度が高い」(長見氏)というコーヒー店は、購買履歴を活用したマーケティングを展開するには絶好の舞台といえる。顧客との強い絆を生かし、コーヒーでの競争が激化するライバルにどこまで差を詰められるだろうか。

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