テレビとソーシャルメディア──。

 企業のマーケティング責任者にとって、効果が見えづらいマス広告から、ある程度は効果測定が可能なデジタルマーケティングへのシフトが、ここ数年の潮流だった気がする。マス広告の代表格をテレビとし、デジタルマーケティングのそれをソーシャルメディアとすれば、テレビとソーシャルメディアは二項対立とも言える関係にあることになる。その狭間で、どちらへ重点的にマーケティング予算を配分すべきかで漂流する企業も多いのではなかろうか。

 単純な二項対立のときは過ぎ去り、企業の戦略に応じて、この2つを様々な形で織り交ぜたところにマーケティングの旨味があることを提案したい。それが「ソーシャルテレビ」というプラットフォームの考え方である。

 昨夏の出来事ではあるが、少しトヨタ自動車が取った戦略の紹介にお付き合いいただきたい。 

 ボルト失格─。

 昨夏のスポーツイベント「世界陸上」の2日目にそれは起こった。男子100メートル決勝戦、優勝の最有力候補だったジャマイカのウサイン・ボルト選手がフライングで、まさかの失格。その瞬間、世界陸上をテレビで見ながら「Twitter」を利用していた人たちが沸いた。投稿が殺到し、Twitter上の世界陸上に関連するツイート数はその日の最大に達した。

 同時に、生中継していたテレビの視聴率も最高を記録した。興味深いのは、その後数分間にわたって、視聴率が高止まりしたことだ。Twitter上に流れるボルト失格のクチコミを見て、慌ててテレビを付けたり、チャンネルを合わせたりする。そんな行動を喚起したことが、視聴率の高止まりを後押ししたのだろう。

 世界陸上に協賛したトヨタは、番組を盛り上げるためにTwitterの利用を促すテレビCMを、世界陸上の開催中に連日放送した。世界陸上のTwitterアカウントとページの画面を表示して、「Twitterでアツくなる!」と視聴者に呼びかけたのだ。

ソーシャルからテレビへバイラルで視聴者を増やす―step1

 ソーシャルメディアを活用して番組の視聴率や反響の増加を狙う。トヨタの取り組みは、ソーシャルテレビ活用のステップ1とも言えるものである。

ソーシャルテレビはソーシャルメディアの特性(縦軸)と主従関係(横軸)で4象限に分類できる

 ソーシャルテレビという新しい概念を説明する上で、本特集で取り上げるマーケティング事例を分類するマップを作り、4つの象限にプロットした。横軸にはソーシャルメディアとテレビの主従関係を示した。右方向は、ソーシャルメディアの情報拡散力を使ってテレビの視聴率を高める手法を指す。左方向はその逆の発想で、テレビというマスの力を起爆剤として、ソーシャルメディア上での情報の広がりを目指す。

 縦軸はソーシャルメディアに求める役割を表す。上方向は瞬間的にクチコミが爆発的に増える、ソーシャルメディアのバイラル効果、瞬発力に期待するケース。下方向は消費者とFacebookページなどで直接つながる特性を生かして、ブランドや商品のファンと長期的な関係構築を目指すといった感じだ。

 トヨタの事例をプロットしてみれば、ソーシャルメディアの瞬発力を生かしてクチコミを広め、視聴率向上を狙ったものとして、第一象限に位置することになる。Twitterへの投稿を事前に促すことで、ボルト失格というような“事件”が起きたときに爆発的なクチコミが生まれる土壌を作った。そのクチコミを見た人が慌ててテレビを付けたり、チャンネルを合わせたりすれば、視聴率の向上が期待できる。

 また、アディダスジャパンの取り組みもこれに近い。今年2月29日に開催された「2014 FIFAワールドカップ アジア3次予選」の日本対ウズベキスタン戦で、番組を見ながら日本チームを応援できるiPhoneアプリ「サッカー日本代表STADIUM」を提供した。アプリ提供開始が試合の2日前、そして既に予選突破が決まった後の試合にもかかわらず、約1万人が利用した。

 このアプリでは「シャウト」のメニューから「ゴール!」「やった!」といったボタンを押したり、メッセージを投稿したりしてソーシャルメディアに応援メッセージを投稿できた。友人の投稿で番組を知った人もいるだろう。

 ソーシャルメディアを駆使して、自社スポンサーのテレビ番組を見てもらう。それは何も、トヨタやアディダスという世界的企業だけが成し得る取り組みではないことを、本誌が実施した調査結果が物語る。

 4月から5月にかけてテレビとソーシャルメディアの利用に関する調査を、ジャストシステムのインターネット調査サービス「Fastask」を使って実施した。回答者は、20~40代の男女331人だ。

3割がソーシャル見てテレビ付ける

 まず、ソーシャルメディアの利用状況について尋ねた。69.7%がTwitter、Facebook、mixi、Google+、GREE、Mobage(モバゲー)といったなんらかのソーシャルメディアを利用していた。この人たちを分母として、ソーシャルメディア上の投稿を見て、テレビを付けたり、チャンネルを合わせたりしたことがあるかを聞いた。左ページの棒グラフがその結果だ。

ソーシャルメディア上で、今流れているテレビ番組が話題になっているのを見たことで起こした行動

 「テレビを付ける」と回答したのは30%。「チャンネルを変える」は21.4%だった。また、番組の開始以前にクチコミで話題になっているのを見て「録画予約をする」と回答したのは15.0%だった。このことから、番組の放送中に、ネット上でリアルタイムに話題になっていると、視聴につながりやすいことがお分かりいただけると思う。

 ちなみにこの調査では、逆方向の流れに関する質問もしている。つまり、テレビ番組を見ているときに、ソーシャルメディアを使うかどうかだ。 

テレビ番組の閲覧中に、Twitter、Facebook、mixiなどのソーシャルメディアに、その番組に関する投稿をしたことはありますか

 円グラフが、その結果である。実に56.3%の人が、テレビ番組を見ているときに当該番組に関する投稿をソーシャルメディアにしたことがあると答えている。テレビを起点に、ソーシャルメディアで楽しむライフスタイルが浮かび上がる。そこに照準を合わせたソーシャルテレビのマーケティング活用。それが、ステップ2の取り組みだ。

 テレビCM単体の成果に捕らわれず、ソーシャルメディアや自社サイトとの連携を強く意識してマーケティング戦略を組み立てる。こうしてキャンペーン全体での最適化を図る。主従関係で分かりやすく言えば、テレビを「従」とするマーケティングだ。

第1回 視聴率万能主義を変える「ソーシャルテレビ」
第2回 テレビは「従」と位置づけ、ソーシャルと自社サイトに誘導
第3回 視聴の質が問われる時代、ガラリ変わる効果指標
第4回 広告主、テレビ局、視聴者それぞれにメリットがある
第5回 グリー、モバゲー利用者はテレビ好き、番組やテレビCMの内容を積極的に投稿する

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