東急田園都市線の用賀駅から徒歩10分弱、閑静な住宅街を歩いた先に、レンガ造り風の住友スリーエム本社ビルが見えてくる。グローバル企業の日本法人の本社所在地としては、やや意外な立地にある。同社が昨年8月にいち早く従業員や関係者を対象にした個人向けソーシャルメディアガイドラインを策定したのは、実はこの立地条件が少なからず関係している。

 「私たちは24時間、3Mer(3M社の一員)であるという自覚が求められます」。そう説明するのは、同社マーケティング本部eビジネスグループの田中訓マネジャーだ。実際、3Mでは「すべての活動において妥協のない正直さと誠実さをもって行動する」ことを経営理念に掲げ、この方針の下、就業規則に当たる企業行動規範を定めているが、同社の場合これは単なるお題目ではない。

 例えば最寄り駅から会社までの道中、仮にタバコのポイ捨てをした場合、それが大手町であればどこの社員であるかは特定が難しい。だが、これが用賀駅からの道中となると、スーツ姿ならば確実に3Mグループないし関係企業の社員だと思われてしまう。

 そうした倫理観や行動規範に沿って日々活動している立場から見ると、ソーシャルメディアは魅力的だが、社員が個人の立場で自由奔放に使うと危うさも伴うことを察知するようだ。昨年2月に公式Twitter、4月に公式Facebookページを開設し、社員にも盛り上げてもらいたいと考えると同時に、リスクへの不安も湧き上がった。

 6月にeビジネスグループに異動してきた秋本義信氏がソーシャルメディアのトラブルを調べると、「やはり個人発の方が圧倒的に多い」ことが分かり、個人向けガイドライン策定に動くことになった。ちなみに米3Mでも個人向けはなく、日本独自の取り組みである。

 eビジネスグループが音頭を取り、総務部のリスクマネジメント担当、法務、知財、広報の横断チームで議論を重ね、役員の了承を経て、約2カ月で策定、公開にこぎつけた。

 7項からなるガイドラインの第1項には、経営理念の「正直さと誠実さ」を挙げ、これは「ソーシャルメディア上においても最も正しい態度あり、あらゆるトラブルを遠ざけることになる」と、同社の企業行動規範と連動した内容であることを社員に訴えている。そのほか、過去の投稿を手がかりに本人が特定される可能性について触れたり、「批判は推奨しません」と明記するなど、コンパクトで有用な内容に仕上がっている。これからガイドライン策定を検討している企業にとっては、1つの手本になるだろう。

ソーシャル積極活用が策定の目的

 手本として推奨する最大の理由は、リスク回避が主眼ではなくソーシャルメディアの積極活用を目的としている点にある。田中マネジャーは、「我々の部門で主導するプロモーションは、社員を挙げて盛り上げてほしいですし、今後は部門やブランド別のアカウントが増えていくことを考えると、個人利用を促すことが運用適任者を増やすことにもつながる」と至って前向きだ。

 5月13日にフジテレビ系で放映された「ほこ×たて」では、同社の強力両面テープ「スコッチ」がスーパー工業の「高圧洗浄機」と対決。Facebookページで番組予告を社員・関係者が拡散し、見事勝利を収めると、視聴者から祝福の声が寄せられた。BtoB(企業間)部門の売り上げが大半の非IT企業ではあるが、社員の積極活用を是とするガイドラインの策定で今後のソーシャルメディア展開に期待が持てよう。

住友スリーエムが作った個人向けソーシャルメディアガイドライン