ロングセラーを出した企業にも、それ相応の悩みがある。これは、過去に起こった事象を表現する言葉であっても、将来を保証するという言葉ではないことだ。1988年に発売され、いわゆるロングセラーとなっている「果汁グミ」を製造する明治も、そこに不安を覚えていた。
発売当初から親しんで食べてくれた人たちのいくらかは、家庭を持った今でも購入し続けてくれているようだ。それは、スーパーの店頭においてグミ商品の中で最も高いシェアを誇っていることからも推察できる。しかし、スーパーより若年層の購買比率が高いといわれるコンビニエンスストアでのシェアは3~4番手と、他社製品に対して後塵を拝していた。
そんな課題解決のため、同社が昨年から取り組んだマーケティング施策では、初めてアニメを起用したテレビCMを流し、それを「Twitter」と連携させた企画を実施し、若年層を狙い撃ちした。その結果、20代男性からの売り上げが大幅に増加する成果につながったという。
タレントでは若者の心は動かない
明治はそれまでも、若年層の消費を掘り起こすために、果汁グミのプロモーションで若年層から支持されるタレントを起用したテレビCMを放送してきた。ただ、期待したほどの効果が出ない。
「売り上げはほとんど伸びず、購入属性に変化もあまり見られなかった」と、マーケティング推進本部宣伝部制作グループの森田次郎専任課長は振り返る。
グミのような安価な商品は一般的に、店頭で商品が目に入った瞬間に選ぶような消費行動が多いとされる。若者から商品を選ばれないということから、テレビCMの効果が弱いと、同社は分析した。
そこで、昨年から展開しているプロモーションでは、大胆な戦略転換に踏み切った。まずタレントの起用をやめた。代わりに使ったのが、若者に人気のイラストレーターが描いたオリジナルのアニメキャラクターだ。アニメ映画「サマーウォーズ」が、120万人超の動員となるヒット作となったことなどから、若年層にはタレントよりもアニメの方が親和性が高いと判断したからだ。
テレビCMの制作には、そのサマーウォーズを制作した会社を起用した。いずれも、「コアなファンを抱えているクリエーター」(森田氏)だ。
当時は、「Twitter」の強い情報拡散力が注目を集めていた時期でもあった。そこに、若者からの人気が高い制作陣によるテレビCMを投下する。それを見たファンがTwitterに書き込み、ネット上に話題が一気に広がっていく。そんな効果を狙った戦略が第1フェーズとなる。
効果はすぐに現れた。「テレビCMをオンエアした直後から、ネット上にクチコミが溢れた」(森田氏)。
優柔不断な「タイヨウ」を皆で応援

こうして得た関心を持続するため、Twitter上でユーザー参加型の企画も実施した。それが、Twitterドラマ「メグミとタイヨウ」だ。
テレビCMに登場する、女性キャラクターの「メグミ」と、彼女に思いを寄せる男性キャラクター「タイヨウ」が、Twitter上で1カ月にわたって繰り広げる恋物語。その行く末を、Twitter利用者が決めていくというものだ。
メグミとタイヨウは、それぞれTwitterのアカウントを持っている。参加したい人は、このアカウントをフォローする。
ちなみにタイヨウは優柔不断な性格。彼のアカウントをフォローしていると、どう行動すればいいかとタイヨウの悩む様子がTwitter上に流れてくる。Twitter利用者は、そんなタイヨウに話しかけながら、ときに叱咤激励していく。
ストーリーの途中では、別の女性も登場する。優柔不断なタイヨウのこと、どちらの女性に告白しようかと心が揺れる。行く末は、Twitter利用者の声で決まる。こんな内容だ。Twitterドラマ終了から、2週間後に自社の商品サイトに動画を掲載して、結果を伝える格好にした。
ロングセラーで安価なグミの販促では、今さら商品特性を消費者に訴えかけても、関心を抱いてもらいづらい。それより「ターゲット層と親和性の高いキャラクターとツールを使って、参加してもらった方がブランドとの接点を作れるはず」。そんな森田氏の狙いは的中した。
プロモーション期間中の果汁グミの売り上げは、前年比で25%増となる成果を上げた。また、消費者の購買行動を分析するパネル調査では、20代男性のシェアが、前回調査と比べて5ポイント増加するなど、新しい顧客の獲得にも一定の成果が見られた。
同時に、課題もいくつか浮かび上がった。1つが、Twitterドラマに関するものだ。
せっかくのTwitterドラマ、なのに告知不足
Twitterドラマは毎日配信される2人のツイートを追うことでストーリーを把握できる。最初から2人をフォローしれば、見ているだけで自然と成り行きを把握できる。
ところが、Twitterドラマが始まることの事前告知をおろそかにしてしまった。そのため、Twitterドラマがスタートした後で、この企画に気付いた人も少なくなかった。ツイートによるドラマを見ても、流れがうまく理解できない。きちんとストーリーを把握するには、過去のツイートをわざわざ、さかのぼっていかなければならない事態が起こった。
こうした失敗を受けて、今年2月に実施した第2弾キャンペーンでは企画が始まる1週間前から、ニュースサイトなどでPRを打ったり、バナー広告を出稿したりして、事前の告知を強化した。

浮かび上がった課題のもう1つが、第1弾キャンペーンでは商品との連携が弱く、キャンペーンに参加している人が店頭で対象商品を見つけても、「これがあの商品か」と思ってくれないことだった。第2弾のキャンペーン期間中は、商品のパッケージにメグミとタイヨウのキャラクターを印刷して、一目でキャンペーンの対象商品だと分かるようにした。
第2弾では、キャンペーン期間中に何度も楽しんでもらえる工夫もした。3週間のプロモーション期間中にタイヨウのツイートを通じて10個の謎解きを出題して、参加者から回答を募ったのだ。答えは、数日後にタイヨウのTwitterアカウントを通じて明かしていった。
こうした施策が奏功したのだろう。第2弾の企画のプロモーション期間中の売り上げは、前年比で実に40%増加した。20代男性のシェアも、第1弾のときに実施した調査より、さらに10ポイント近く増加した。
こうした成果を受けて、この5月には急きょ第3弾を実施することを決めたという。事前には予定されていなかったものだ。展開してきたキャンペーンの真価が、この第3弾以降に問われている。