ソーシャルメディアで家が売れる――。

 やや荒唐無稽な感じもするが、それに向けた取り組みを進めている企業がある。タマホーム(東京都港区)がその企業。実際、ソーシャルメディア発の情報がきっかけになって、購入検討に向けた話が進んでいる案件があるというから驚きだ。

 タマホームのFacebookページあてに届いた一通のメールを開いて、運用責任者であるわくわくドキドキ本部広告宣伝部Facebook課の川野和義課長は目を疑った。

 送り主は北九州市在住で、高齢者向け施設を建てる検討をしているので、土地探しから相談に乗ってほしいという内容だった。「Facebookページを通じて、施設建設の打診ということか?」。

Facebook経由で連絡が届く必然

 取り急ぎ川野氏は先方にお礼の返信をして、その地域を担当する店舗責任者から連絡を取らせる旨を伝えた。この店舗責任者とメールの送り主との間では現在、施設建設に向けた商談が進行中だという。

 正確を期せば、ソーシャルメディアをきっかけに家が売れる商談が始まった、ということになろうか。

タマホームのFacebookページ

 商談相手の個人に編集部がアクセスする許可が、タマホームから得られなかったため断言はできない。が、どうやら“たまたま”Facebookページあてにメールを送ったわけではなさそうだ。見込み客が、Facebookを通じて会社とコンタクトしてみようかと思わせる下地づくりがそこにあった。

 川野氏は言う。「タマホームの活動を広く、そして深く知ってもらえれば、より納得して家を建ててもらえるはず」。そのため、Facebookページに載せる情報は、全国に224ある店舗からネタを募る。半月に1度の頻度で約30店舗を選んで、各店舗の責任者にメールで情報提供を依頼する。各店舗から寄せられた情報に吟味を加えた上で、順次Facebookページに掲載していく。

 載せる内容は、自社の社員やモデルハウス、各地域のイベントなど。また、タマホームが協賛する芸術やスポーツなどのイベントを紹介することで幅広い活動を将来の顧客に訴えかける。

社員は皆、Facebookに無関心だった

 今では全社的な協力を得ながら運営しているFacebookページ。しかし当初は、「ほかの社員から理解を得るのに苦労した」と川野氏は振り返る。毎日、パソコンの前に座って写真を投稿したり、ファンからのコメントに返信したりしているだけ。それがどう会社に有益なことかも、ほかの社員には分かりづらい。

 風向きが変わったのは、店舗でお客さんから、タマホームのFacebookページを見ているよ、と声をかけられ始めた頃からだった。会話のきっかけにもなるし、少なくともタマホームに関心を持ってくれていることが店舗で実感できたからだ。

 「家を建ててもらうには、顧客との深い関係づくりが必須。その第一歩となるきっかけをFacebookで築く可能性を社員に感じてもらえた」(川野氏)結果、社員がFacebook運営に積極的に協力してくれるようになっていった。

テレビとFacebookの連動企画

 社内で多くの協力を得ながら提供する情報が、きちんとFacebookのファンにも届いたことは、本誌が昨年12月に発表した第3回エンゲージメント率ランキングの結果からも明らかだ。Facebookページにおける企業とファンのやり取りの活性化度合を示す1つの指標がエンゲージメント率。ソーシャルメディア巧者と言われる全日本空輸やスターバックスなどを抑えて8位にランクインした。

 エンゲージメント率の高さは、顧客との関係作りに重きを置く同社にとって重要な指標となっている。そのため、なるべくファンに参加してもらう企画も多く実施している。

 例えば、タマホームの協賛で昨年12月4日に開催された「福岡国際マラソン」。テレビ朝日の竹内由恵アナウンサーによるコース紹介などのコンテンツを、大会前2週間にわたってFacebookで配信した。Facebook上で関心を高めながら迎えた大会当日にはクイズ企画を実施。「20km地点を日本人トップで通過した選手は誰か」「日本人トップでゴールした選手は誰か」といったクイズを出題し、延べ468人が回答した。

Facebook上のファンとの交流会を実施して親睦を深めている

 ファンとの関係をより深めるため、交流の場をリアルの世界にも展開している。Facebookページのファン数が1万人を超えたことを記念して昨年実施した交流会がそれ。東京、大阪、福岡の3会場で実施した。大阪、福岡では約60人が参加、東京では120人の参加者を数えた。タマホームの社員とファン、あるいはファン同士が食事を楽しみながら交流を深めたという。今年5月にも同様の交流会を予定している。

 こうした地道な活動の成果の1つが、冒頭で紹介したエピソードである。

 また、いったん離れてしまった見込み客を、もう一度Facebookで呼び寄せたこともあるという。その見込み客は、以前タマホームのモデルハウスに訪れたことがあるが、購入には至らなかった。その後、タマホームのFacebookページの存在を知り、過去に訪れたモデルハウスが建て変わったことを知って、コメント欄に過去の経緯を投稿してくれた。

 「ぜひ、また見学に来てください」。そう川野氏が返信すると、ちょうど家の購入を検討しているとのことで、再び足を運んでくれた。

 家、クルマ、高額家電といった耐久消費財の販売とソーシャルメディア活用は無縁。あながちそうとも言い切れないことを、タマホームの事例は物語る。

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