エスエス製薬が睡眠改善薬「ドリエル」のプロモーションの一環で提供するiPhoneアプリ「ぐっすり~ニャ」の出足が絶好調だ。3月の提供開始から1カ月間のダウンロード数は18万件と、同社が最終的な目標とした10万件を早くもクリアした。好調ぶりを支えるのはアプリ単体の機能性だけではなく、4年連続減少という厳しい睡眠改善薬市場を反転させるために1年以上続けてきた活動にあった。

ブログ記事1本で1万5000ダウンロード

アプリに眠りの深さを波形で記録する

 ぐっすり~ニャは、睡眠状況を記録するアプリだ。アプリを起動したiPhoneを枕元に置いておくと、内蔵の加速度センサーが寝返りなどの動きを検知して、その動きを眠りの深さと判断して記録していく。朝はアラーム機能で音楽を流して目覚めを促す。

 眠りの深さは波形で記録され、寝付くまでどれくらいかかったのか、深い眠りが得られたのかなどを判断できる。

 アプリ画面にはドリエルのキャラクターである猫の「レオニャルド・フミンチ」が布団に入った様子のイラストが表示される。ナイトキャップや耳栓といったアイテムを着せ替える楽しみも用意した。アプリの利用回数が増えると新たなアイテムを入手できる。Facebookとの連携機能も備え、眠る前にアプリを起動したことや起床時の気分をFacebookへ投稿できる。友人とともにFacebook連携機能を利用すると、フミンチのレアアイテムが手に入る仕掛けも提供。数十種類のレアアイテムを集めるようなゲーム性も持たせて、継続的な利用やクチコミでの拡散を狙っている。

レオニャルド・フミンチのアイテム着せ替えを楽しめる

 アプリの提供を始めた3月23日付プレスリリースがウェブメディアなどで取り上げられ、その後2週間で、アプリは早くも10万ダウンロードを達成した。アップルのアプリ配信サービス「App Store」の無料アプリランキングでは最高7位、「ヘルスケア/フィットネス」分野では1位を獲得した。その後、ガジェット系ブログメディアに記事体広告を掲載したところ3日間で1万5000件がダウンロードされるなど、メディアで紹介されるたびにダウンロードを伸ばしていった。今後、ブロガー向けプロモーションも予定している。

 ヒットの背景にはアプリの機能だけでなく、「かくれ不眠」への関心の高まりという事情もある。かくれ不眠とは、慢性的ではなく専門的治療は必要としないが、睡眠に対する不満があり、それが日常生活にも悪影響を及ぼす恐れがある状態をいう。女性誌など様々な雑誌で取り上げられたほか、昨年12月にはNHKがニュース番組で「あなたの眠りを脅かす“かくれ不眠”」という特集を組んだこともある。

 これらの情報の起点となっているのが、杏林大学医学部精神神経科の古賀良彦主任教授を中心にした睡眠改善委員会だ。古賀氏が理事長を務める特定非営利活動法人(NPO)の日本ブレインヘルス協会が運営し、エスエス製薬が協賛している。昨年2月3日の「不眠の日」に発足し、毎月23日に設定された不眠の日にあわせて睡眠改善を促すためのリサーチ結果などを発表している。この委員会を通じたPR活動が、かくれ不眠に対する社会的関心を高め、ぐっすり~ニャのアプリのダウンロード増を促す側面もあるのは間違いない。

 エスエス製薬がこの委員会に協賛する背景には、ドリエルのマーケティング戦略の大きな転換がある。

4年連続成長、そして4年連続の縮小

 エスエス製薬が2003年に発売したドリエルは、一般用医薬品(OTC)としては日本で初めてとなる睡眠改善薬だった。テレビCMで認知を高めると売れ行きは年々伸び続け、2007年には新規参入もあり市場規模は61億円まで達した。しかし、それをピークに市場全体が4年連続で下降線をたどり、2011年は40億円程度になったもようだ(エスエス製薬調べ)。

不眠用薬の市場規模の推移(エスエス製薬調べ)

 「新規のお客さんが入ってこないことが原因」

 市場伸び悩みの背景を、マーケティング本部ケアブランド・カテゴリーの浦嶋紀久子ブランド・マネージャーはこう語る。2009年後半からは、どんな策を打っても市場が反応しない。厳しい環境だったという。そこで同社は2010年、ドリエルのテレビCMをやめ、市場停滞の原因を探る消費者調査を実施した。

 すると、「医療用の睡眠薬と誤解している人、依存症が出るのではないかと考える人がおり、服用へのハードルが高かった」(浦嶋氏)ことが明確になった。

 ドリエルは、風邪薬に含まれる成分の副作用として起こる眠気を効能に変えた商品だ。依存症状は起きないということ、一方で睡眠は大切であるということを商品の広告でなく一般論として伝えるため、2011年からは深い情報を伝えられるウェブサイト、新聞広告、PR活動を中心に展開することにした。そこで生まれたのが睡眠改善委員会だった。委員会の活動でかくれ不眠もメディアの注目を集め始め、メディア露出を広告費で換算すると「投資対効果では240%」(浦嶋氏)と、大きな成果を収めているという。

 そうした状況下で提供を開始したぐっすり~ニャは、社会的な関心であるかくれ不眠を自分ごとに変える役割を果たす。睡眠状況を波形に変えることで自分の睡眠状況を客観的に把握し、人には語りにくいものだった睡眠に関する悩みをSNS上にも投稿しやすくする。「睡眠が浅くなったところで起きれば目覚めがいい」など、睡眠に関する話題が広がれば、自分の睡眠を改善しようとドリエルに関心を持つ人も増えるという狙いだ。

 実際に、製品サイトのアクセスも「この3月は2月と比べ3~4倍になっており、その後も高い水準を維持している」(コミュニケーション部WEBコーディネーターの大橋奈津子氏)と言う。ドリエルを買ったという声もSNS上で見られ始めた。

 ただ、睡眠を支援するアプリは意外な激戦区であり、利用し続けてもらうことはダウンロードしてもらうより難しい。エスエス製薬は6月と9月にフミンチの新アイテムを投入して、利用者の関心を引き止める考え。スマートフォンを通じてドリエルのブランドと毎日接する消費者が10万人単位で残れば、その価値は広告費では換算できないほど高いはずだ。