ソーシャルメディアを売り上げ貢献に結びつける成功の秘訣
――ソーシャル活用売上ランキング第1回記念セミナー報告記事
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マス広告とソーシャルメディアを結合、共感を呼び売り上げに結びつける『ザ・プレミアム・モルツ』

 ローソン、全日本空輸に続いて、サントリー酒類(東京都港区)の和田龍夫宣伝部長が壇上に上がった。会場にいた360人を超える聴講者は、その出で立ちに目を奪われた。ジャケットからパンツ、靴にいたるまで、身につけているすべての洋服に、英国のロックバンド「ザ・ローリング・ストーンズ」のロゴがちりばめられていたのだ。

サントリー酒類の和田龍夫宣伝部長

 本誌が2月に発表した「ソーシャル活用売上ランキング」で、商品ブランドとして上位にランクインしたのが「ザ・プレミアム・モルツ」(プレモル)である。総合13位、サントリー酒類が提供する商品ブランドだ。「Facebookページ」を通じた活動が消費者からの好感・共感を呼び、さらに購買に結びついたことで上位に名を連ねた

 和田氏は「『ザ・プレミアム・モルツ』はなぜ、共感・好感を売上につなげられるのか」と題した講演で、プレモルがソーシャルメディア上で得た好感・共感を売り上げに結びつけている、その秘訣を披露した。

派手な服装に込めた宣伝への思い

 プレモルに関する具体的な施策への導入として、和田氏は自身がなぜ派手な格好を常日頃から心がけているのかを説明をしながら、サントリーの宣伝戦略を語った。

 宣伝部の役割は、消費者の記憶に残る広告活動を展開して、商品を購入してもらうこと。「私論だが、消費者の記憶に残ったイメージの総量がブランド価値になる」と和田氏。サントリー酒類ではこれまでも、酒や飲料を通じて消費者に豊かな生活を提案してきた。そんな宣伝活動を通じて、消費者からの共感を得ている。

 ただ、消費者の趣味嗜好(しこう)や、利用するデバイス、メディアが多様化する現在では、テレビCMだけでは記憶に留めてもらうことすら難しい。1カ月に3000本以上のテレビCMが放送される中、消費者の記憶に残るのは平均2.8本でしかないと和田氏は分析する。

 「宣伝の本質は消費者に振り向いてもらうこと。だから、自分自身も1度会っただけで記憶に残るセルフブランディングに取り組んでいる」。サントリーの宣伝部長としてこんな信念を持っている。

 同社は、6月に新ブランド「ストーンズバー」を立ち上げる。ビールやハイボールなどの商品群はすべて、ザ・ローリング・ストーンズのロゴを使ったデザインとなる。和田氏の服装は、この新しいブランドを宣伝するために自分自身をも利用するためのものだ。

 ソーシャルメディアが消費者に浸透することで、個人がメディアになる。だからこそ、消費者からの共感を得る事は一層重要になってくる。ただ、これまでのようにテレビCMを放送するだけでは、共感を得にくくなった。和田氏はそう痛感している。サントリー酒類が今年1月1日付で、「デジタルマーケティング開発部」を新設したのは、こうした背景からである。

 つまり、マス広告を通じた宣伝活動と、それに共感した消費者に参加してもらい共有・拡散を促すというソーシャルメディア時代のマーケティングを有機的に結びつける戦略へと舵を切ったわけだ。サントリーの宣伝戦略と、それを支える新しい体制について説明した後、いよいよプレモルの戦略へと話は移った。

マスで伝えソーシャルで「自分ごと」に

 プレモルは2003年の発売から、7年連続で前年を上回る売り上げを達成してきた。定番商品として消費者の間で定着する中、コミュニケーション戦略も認知から共感へと、徐々にその姿を変えてきた。和田氏は3年前から、「両輪理論」と呼ぶコミュニケーション戦略を展開している。

 一方の車輪となるのが、生活においてプレミアムなビールを飲むシーンを想起させる情緒的な価値の訴求だ。例えば、「金曜日はプレモルの日」というプロモーションを通じて、週末には自分へのご褒美としてプレモルを飲もうと呼びかけた。その結果、プレモルは金曜日のPOS(販売時点情報管理)データが跳ね上がるようになった。

 もう一方の車輪は、プレモルの値段の高さを納得してもらうための情報発信だ。どんな原料を使っているのか、どのように生産しているのか。そんな製造の内実を伝えることで理解を得る。この両輪をバランスよく訴求することを大切にしている。

 サントリーではこれらのメッセージを伝えるためのテレビCMを放送している。ソーシャルメディアが担うのは、消費者に“自分ごと化”してもらう役割だ。

 金曜日はプレモルの日。これを、自分ごと化してもらうために取り組んだのが、金曜日にファンからプレモルに関する川柳を募集する企画だ。金曜日になると、ファンが頭をひねって川柳を応募してくれる。「終業の 鐘が鳴るなり 金紺缶(キンコンカン)」「週末は ネクタイはずし もう一杯」。こんな具合だ。

 それをデザインに落とし込んで、プレモルのFacebookページで紹介する。すると、その投稿に対して、ファンが別の川柳を考えてコメントをつける。参加を促すことで、テレビCMで訴えているメッセージを浸透させていく。さらに、ユーザーを通じてその友人へと広げていく。「こうしたマスとソーシャルの組み合わせがお客さんを動かしている」ことを和田氏は実感している。

 「マス広告とソーシャルメディアをつなぐ統一のコンセプトを持つこと」。それがソーシャルメディアで得た共感を売り上げに結びつける上で重要なことだと、和田氏は聴講者に訴えかけた。

「おつかれさま」で情緒的価値を訴求

 昨秋の広告キャンペーンでも同様の手法に取り組んでいる。キーとなるメッセージは「おつかれさま」。友人、同僚、恋人。誰を相手にも使う日本ならではのキーワードだ。「おつかれさま」と相手をねぎらいながら、プレミアムなビールで乾杯する。そんな情緒的な価値を訴求する企画を目指した。

 キャンペーンでは、矢沢永吉さんを起用したテレビCMで、プレモルでおつかれさま、というメッセージを伝えた。一方、Facebookページでは友人におつかれさまという気持ちを伝えることができるアプリを提供した。

 このアプリは、ユーザーが「おつかれさま」を贈りたい友人を選び、メッセージを入力する。プレモルで乾杯している写真などを用意してあり、その中からユーザーがメッセージを送りたい相手に合わせて選ぶ。完了後に送信ボタンをクリックすれば、友人のウォールにメッセージを送ったことが通知される、というものだ。3カ月で5万2000回以上の利用があった。

 「最初からFacebookでおつかれさまを訴えかけてもダメ。マスで浸透させながら、知人などに知らせたいメッセージを簡単に伝えられるツールを用意してあげる」。この企画でも、マスとソーシャルを1つのメッセージでつないだことが、成功につながったことを和田氏は強調した。

 3月13日、プレモルは発売から初めて商品を刷新した。「ワークからライフへ」。これが、プレモルで訴える次のメッセージだ。

 これまでビールは、仕事の後に自分をねぎらうために飲むイメージが強かった。それを、大切な人といる時こそプレモルを飲む。そんな風に、人生に根付いた商品へと昇華することを目指す。そのためのソーシャルメディア上での新しい企画も現在、水面下で進行中だという。

 「ソーシャルを売り上げに結びつけるのは非常に難しい。かといって、まったく売り上げに結びつかないブラックボックスかというとそうではない」と和田氏は言う。大切なのは、今日の売り上げではなく、ソーシャルメディアは未来の売り上げを作るための活動だと認識すること。マスとソーシャルメディアを有機的に結びつける。それは、ブランドの強いファンを作り、LTV(顧客生涯価値)の向上につながることを意味する。

 個人がメディアになる時代。それは和田氏自身の服装だけではなく、ソーシャルメディアで得た共感を友人との共有につなげるプレモルの事例が実証しているのではなかろうか。

ランキングの上位になるには…

 ここまでが、ランキング上位企業による講演で、続いてランキング作成に当たって協力を得た担当者が登壇した。最初が、日経BPコンサルティング(東京都港区)コンサルティング本部ブランドコンサルティング部の中村由佳氏。中村氏は、ソーシャル活用売上ランキングの主要指標である「消費行動スコア」を算出する元となった約1万5000人の消費者アンケートを担った。

日経BPコンサルティング、コンサルティング本部ブランドコンサルティング部の中村由佳氏

 最初に、消費者アンケートから分かったソーシャルメディアの活用状況について説明した。各ソーシャルメディア利用者のうち、企業やブランドのアカウントに対してファンになっているあるいはフォローしているといった登録をしている比率は、「Facebook」「Twitter」ともに5割以上に上った。だが、その登録数はFacebookで2~3社、Twitterでは5社程度だった。まず、登録してもらうのに高いハードルがあることを明示した。

 次にソーシャルメディア上の活動を見聞きしたことで、「購入や利用の候補に加えた」「購入・利用した」「繰り返し購入・利用するようになった」という消費行動に結びついた割合を算出し、それらを偏差値で表した「消費行動スコア」のランキングを提示。総合ランキングで上位となったユニクロ(偏差値71.5)やローソン(同66.8)を抑えて、ハーゲンダッツ(同72.8)が、この消費行動スコアでは1位となった。

 このように消費行動における各項目について、より詳細に見ていくと項目ごとに強い企業があることが分かる。そこで、縦軸に消費行動スコアを取り、横軸に企業・ブランドのソーシャルメディアのアカウントへの接触率を取ったグラフ上に、ランクインした企業・ブランドをプロット。これに基づいて、各企業・ブランドがどのフェーズにあるかを示した。その上で、目標をどこに据えれば適切かのアドバイスを披露した。

 まず、消費行動スコアが高く、接触率も高い部分をAゾーンとした。ここにはユニクロ、ローソン、全日本空輸など総合ランキング上位の企業が位置する。

 次に接触率は低いが、消費行動スコアが高い企業・ブランドが位置する部分をBゾーンとした。ここにはハーゲンダッツ、日本サブウェイ、伊藤ハムなどが入る。接触率は高くないが、コアなファンをつかまえていることから、こうした結果になったと中村氏は分析する。

 そして、接触率、消費行動スコアがともに低いCゾーン。多くの企業・ブランドは、ソーシャルメディアのアカウントを開設した時点では、このCゾーンからスタートすることになる。中村氏はまず自社のファンをしっかり捕まえ、コアなファンの消費行動を促し、Bゾーンを目指すべきだろうと説明する。そうして、ソーシャルメディアから消費につなげる導線を作った上で、ファンの規模を拡大して、Aゾーンを目指すべきだと提案した。

クチコミを増やす3つのポイント

 最後に登壇したのが、データセクション(東京都港区)ビジネスプロデュース部の芦沢桃子氏。Twitterやブログなどで、企業・ブランドについて書かれたクチコミの収集で協力してもらった。こうしたクチコミの分析から、芦沢氏はクチコミを発生させるための3つの成功要因を明かした。

データセクション、ビジネスプロデュース部の芦沢桃子氏

 調査に当たって、データセクションは2011年1月1日~12月31日までにTwitterやブログなどで書かれたクチコミを収集した。その収集方法を詳細に説明した後、各企業・ブランドごとにクチコミを洗い出し、その中からポジティブな内容のクチコミだけを抜粋し、その件数を偏差値化してクチコミランキングとしたことを紹介した。

 昨年1年間で、最もクチコミが多かったのはマクドナルド。キャンペーンを中心に定常的にクチコミを集めて、2位以下を大きく引き離した。芦沢氏はそのほか、スターバックス、ローソン、ファミリーマート、ユニクロ、東京ディズニーリゾートなどを、クチコミに関して成功している企業として選んだ。次に、クチコミを増やす成功要因を解説していった。

 その要因の1つ目が、クチコミを投稿する動機である「かまってほしい」という欲求を生み出すこととした。例えば、マクドナルドのクチコミでは「1人マックなう」、スターバックスでは「仕事前にスタバなう」、ローソンでは「夜食購入@ローソン」など、1人で何かをしていることについて書かれている投稿も多く見られたという。いずれも、動機は「ネット上のユーザーにかまってほしい」から、と芦沢氏は分析する。こうした1人消費を促すことで、クチコミの増加につながっている。

 2つ目が、クチコミをその場で投稿できる環境作りだ。例えば、マクドナルドに関するクチコミでは「目の前の3人が『ニンテンドーDS』に夢中になってる」といった投稿が見られた。同社では、ニンテンドーDSのユーザー向けに無線ネット接続サービス「マックでDS」を使って遊べる複数のコンテンツを用意している。これらがクチコミを促す一助となったのだろう。

 また、東京ディズニーリゾートではアトラクションに乗る待ち時間に投稿されたものも多かった。これらはすべて、空間や場所について書かれたものと言える。行列や待ち時間、1人で暇を持て余している時に無線ネット接続サービスの提供など、クチコミを投稿しやすい環境を用意することも、クチコミ増加に寄与しているようだ。そう芦沢氏は解説した。

 3つ目のポイントは、親しみのある商品を持つこと。成功企業の多くは同一商品を大量に生産する、多くの新商品を発売する、高額ではない、といった共通項を持つ。裏を返せば、たくさんの消費者が親しんで利用しているものとも言える。

 Facebookでは、ラーメンや缶ビールなど、珍しさはないが「僕も帰りに食べて帰ろうかな」「それは私も好き」という共感を呼ぶ投稿に「いいね!」が多くつくことも少なくない。普段から親しんで利用してもらっていることも、クチコミを波及させる上でのポイントになるとして講演を締めくくった。 

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