――ソーシャル活用売上ランキング第1回記念セミナー報告記事
日経デジタルマーケティングは4月20日、「ソーシャルメディアを売り上げ貢献に結びつける成功の秘訣――ソーシャル活用売上ランキング第1回記念セミナー」を東京・品川で開催した。読者無料セミナーとしては5回目を迎える。
「日経デジタルマーケティング」史上最高の反響と評価を得た2012年3月号特集「ソーシャル活用売上ランキング」で、上位にランクインした企業・ブランドのソーシャルメディアや宣伝の責任者が、ソーシャルメディアを実利に直結させるノウハウを語るとあって本誌読者の関心は高く、過去例にない高出席率で会場後方に急遽イス席を用意したほど。400人近くが熱心に講演に聞き入った。

各社の講演を前に、まず本誌編集長の杉山俊幸がソーシャル活用売上ランキングの概要について説明に立った。
企業公式アカウントは、2011年まではフォロワー数・ファン数、あるいは「いいね!」やコメント数の増加が成果の指標として語られてきた。だがそろそろ「ファンが増えたのはいけど、それで?」とより具体的な成果を求められるフェーズに入りつつある。「この潮目の変化が、ソーシャルメディアの売り上げ貢献度を調査するきっかけになった」と企画の趣旨を説明した。
続いて算出方法について。「Facebookページのファン数およびTwitterアカウントのフォロワー数上位100社・ブランドを対象に、Facebookファン数や話題にしている人の率、Twitterやmixiのフォロワー数、YouTubeの再生回数などを偏差値化した『リーチスコア』、1万5000人超の消費者アンケートでソーシャルメディアをきっかけに、購入候補・購入・リピート購入といった購買行動に至った割合を算出し偏差値化した『消費行動スコア』の両スコアから総合スコアを導き出しランク付けした」と説明。上位にランクインした企業アカウントの傾向について、「店舗連携の強化やキャンペーンとの連動、好感・共感を高める努力と、それらによってポジティブなクチコミを増やすことが売り上げ向上につながっている」と分析した。
では、上位企業は具体的にどのような取り組みをしたのか――。そうした関心が高まったところで、ランキング上位各社の事例講演に移った。

トップバッターは総合2位にランクインしたローソン。広告販促企画部兼CRM推進部アシスタントマネジャーの白井明子氏が、「ローソン流 ソーシャルメディアを集客・販促につなげる戦略とは」の演題で、2010年から着手したソーシャルメディア施策について解説した。
21メディアに友達80万人超
ローソンのソーシャルメディアといえば、専用キャラクターである「ローソンクルー♪あきこちゃん」を立て、さまざまなメディアで展開していることで知られる。2010年4月に開設したTwitterを皮切りに、Facebook、モバゲー、GREEはもちろんのこと、イラスト投稿共有サイト「pixiv」、位置情報共有サービス「foursquare」「ロケタッチ」、今年に入ってからもキュレーションサービス「NAVERまとめ」初の企業クライアントになったほか、急成長中の写真共有サービス「Pinterest」など“全方位外交”でアカウントを開設し、その数21メディア。ファンやフォロアーなど「お友達」は81万人に上る。
ソーシャルメディア活用の目的は、店舗への集客、いわゆるO2O(オンライン to オフライン)だ。同社は、共通ポイントプログラム「Ponta」のポイントや、割引クーポンの付与、人気アニメ「けいおん!」フェアに代表されるエンタメ系タイアップキャンペーンでのオリジナル商品販売など、ローソン独自のインセンティブを提供している。ソーシャルメディアは、こうした企画や注目商品の告知媒体として、またあるときはFacebookクーポンなどの企画元、配布元として、全国1万超の店舗へ集客を図る。
ではソーシャルメディアの効果を何をもって測定しているのか。白井氏は次の3点を挙げた。
1つは、自社Webサイトへの流入数。ソーシャルメディア経由で来訪した数だ。2つ目は、ローソン公式アカウントからのリーチ数。現状の81万リーチを100万リーチまで拡大させることを当面の目標に掲げている。3つ目は来店数・購買数。クーポン系施策では、発行枚数と実際に来店して使用された枚数、さらに使用時に他商品も購入した人の割合である併売率、およびその併売単価を計測する。白井氏は「これらは週次で数字をまとめ、月次で検証レポートを作成して、どちらも経営層まで報告している」という。
実際、あきこちゃんの“つぶやき”効果は侮れない。約16万人のフォロワーを抱えるTwitterで商品紹介やイベント告知などをURL付きで投稿をすると、平均して5000人が自社サイトに飛んでくるという。バナー広告などの相場観から仮にクリック単価を100円とすると、「つぶやき1回の広告換算効果は50万円」(白井氏)になる。
影響力が大きくなるにつれ、当然各部署からは「あきこちゃんに告知してほしい」との要望が増えてくる。そこで、どんな内容をいつどのメディアに投稿するか、カレンダーを作成して社内13の部署で共有し、一連の投稿フローに関与してもらっている。Facebookのいいね!数やコメント数などのレスポンスはランキングにして各商品・企画担当者へ定期的にフィードバック。そうすることで、「ソーシャルメディア活用が他人任せではなく各部署レベルで“自分ごと化”し、ランキングによって競争意識も芽生えている」(白井氏)と好循環が生まれているようだ。
キャラクターにするメリット
公式アカウントを会社のロゴのような企業色を全面に押し出したものではなくキャラクターにしたことで、どのようなメリットがあるのか。
最大の利点は、タイアップのしやすさ。あきこちゃんがイラストで描かれたキャラクターであるため、リラックマやけいおん!などキャラクターやアニメーションとの親和性が高く、キャンペーン企画を進めやすい。また、20万人のTwitterフォロワーを擁するモデルのまつゆうさんと双方のTwitterフォロワーでリップクリームを共同開発する企画や、あきこちゃんのお兄さんキャラクターがロケタッチなどと組んで有名アニメ作品の舞台(聖地)を巡りリポートする企画、ニコニコ動画では初音みくに代表されるボーカロイド(音声合成技術)キャラクターとして「あきこロイドちゃん」を制作するなど、様々なコラボを手掛け、あきこちゃんを露出させてきた。
そのほか、店舗のアルバイト募集チラシにあきこちゃんが描かれるなど店舗オーナーに愛されるキャラクターになっていることで、あきこちゃんを通じてオーナーと本部との距離感や風通しといったインナーコミュニケーションの点でも好影響が出ているという。
あきこちゃんの認知度とつぶやき影響力が高まることで、ローソンは他社にとってサンプル商品や割引クーポン券の配布場所としての利用価値が高まっている。飲料メーカーなど新商品発売やリニューアルに当たって数万本限定で無料配布したい場合、これまでは繁華街でアルバイトに配布してもらう人海戦術で対応していた。それを、商品に関心のある人がWeb上で「プレゼント応募」ボタンを押し、発行されたコード番号を店頭の情報端末「Loppi」に入力してレジで受け取る形にすれば、全国での商品サンプリングが低コストで可能になる。店頭の端末は他の大手コンビニ各社にもあるが、サンプリング企画を成功させるには告知力が必要なため、「“あきこのつぶやき付き”は大きなセールスポイントになる」(白井氏)。
このようにローソンでは、あきこちゃんのファン数増加と影響力の高まりが、来店頻度の向上に直結する仕組みが出来上がっていることが強みと言えそうだ。
1回の投稿に数千件の「いいね!」が付く人気

続いての登壇はランキング総合4位の全日本空輸(ANA)。業務プロセス改革室イノベーション推進部サービスイノベーションチームリーダーの高柳直明氏が、「ANAのソーシャルメディア活用、ファン作りと売り上げは両立するのか」の演題で、ANA流のソーシャルメディア活用状況を説明した。
同社が最初に開設した日本語のソーシャルメディアアカウントは昨年1月のFacebookページ。開設1年4カ月でファン数は70万人弱に達している。同年6月にはTwitterアカウントも開設したが、こちらは「ANA運行の見通し情報」のタイトル通り、国内線・国際線の運行見通しを配信している。ANAのWebサイトに掲載している内容をTwitterでプッシュ配信している格好だ。フォロワーは約4万6000人。
高柳氏はソーシャルメディア活用の目的について「お客様との関係を深めること」、コンセプトとして「あんしん、あったか、明るく元気」を挙げる。その役割を果たすのはFacebookページだ。コンテンツには、「ANAブランド、ANAらしさ、日本らしさを感じるもの。関心を持ってもらい、友人に広めたくなる、勧めたくなるような内容を選んでいる」と言う。
その狙い通り、ファンからの反応、評判はすこぶる上々だ。週明け、ANAグループ社員の名前と顔写真入りで掲載している「今週の笑顔」コーナーは、客室乗務員の登場ともなると4000~5000件も珍しくない。「良い週末を♪」のコメントとともに金曜日に投稿している風光明媚な写真も人気で、3月30日に投稿したモン・サン・ミシェルの写真は「いいね!」が9000件を超えた。
その他の投稿にも2000~3000の「いいね!」が付く。人気の理由はコンテンツの作りこみ、編集力にありそうだ。今年3月14日のホワイトデーには、男性職員3人が閲覧者に向けて花束を渡そうとしている写真をFacebook用に撮り下ろして投稿し、「いいね!」が3700件。4月13日に投稿した、iPhoneカバーのデザイン3案から好みのものを選んでもらう企画には、2300件の「いいね!」と、1300件を超える投票コメントが集まった。ひと手間かけたコンテンツの力に支持が集まっている。
昨年秋の新世代中型機「ボーイング787(B787)」初就航に向けたキャンペーンでは、機体の紹介のみならず販促に結びつけた。
自社サイト内のB787特設サイトと、自社のYouTubeチャンネル「ANA Global Channel」、そしてFacebookページを連携させ、ソーシャルメディアでB787人気を盛り上げた。Facebookでは昨年6月から9月にかけて、低燃費のエンジン性能や、大きくなった窓、LED化した客室内のライト、従来機よりも機内圧力を高めて快適に過ごせるようになっていることなど、機体の特徴や魅力を毎日配信した。
一方、YouTubeで6月に公開したキャビン内映像をはじめとするB787関連動画の再生回数は70万回を超え、「その約半数は海外からのアクセスだった」(高柳氏)という。7月3日のB787日本初飛来、9月28日の初号機日本到着の様子はUstreamで生中継した。海外での知名度向上が課題である同社にとって、B787を素材にしたソーシャルメディア活用は良いアピール機会になったと言える。
こうしてB787への興味関心を高めた末に販売した初就航記念ツアーには多数の申し込みがあり、ソーシャルメディアを通じた情報提供が比較的高額な航空券、ツアーの販促に貢献することを証明して見せた。
このほか、出題されるテーマに対してTwitterやFacebookで投稿するとeクーポン(航空券や旅行商品の支払いに利用できる電子クーポン)がもらえる「SOCIAL SKY PARK」を開設し、ソーシャルメディアから販促の流れを作り出している。
ANAホームページにおける航空券・ツアー販売額は、2010年度の4000億円から2011年度は4300億円に増加している。高柳氏は「ソーシャルメディアとの連携をさらに進めることで、ANAファンの増加と販売強化を目指したい」と話して講演を締めくくった。
――ソーシャル活用売上ランキング第1回記念セミナー報告記事