※本記事は、「BtoB企業こそソーシャルメディア [検証1] 帝人、クラレ、東芝-企業・製品認知を高める 」の続きです。
BtoB企業にとって、YouTubeなどの動画が強力なリード獲得ツールになっていることは共通しているようだ。
村田製作所は、自社の技術を集約した自転車一体型の小型ロボット「ムラタセイサク君」を2005年からキャラクターに据える。ブランディングで国内BtoB企業の中ではトップクラスの企業である。自社のPRのみならず、「子どもの理科離れ」を解消する役割をも担う活躍ぶりだ。
2008年には、いとこの一輪車ロボット「ムラタセイコちゃん」も登場し、展示会などのイベントに、そろって引っ張りだこ。その勇姿は、YouTubeの「ムラタチャンネル」でも公開され、アクセスを集めている。
キャラよりデバイス映像が人気

だが村田製作所が、YouTubeで公開している動画83本(4月13日時点)を再生回数順に見てみると意外なことに気づく。セイサク君&セイコちゃんは実はトップではないのだ。
ムラタチャンネルにおける人気動画は、高圧力で空気を吐出できる超小型薄型デバイス「マイクロブロア」のデモ映像だ。再生回数トップ10のうち、6本がこの映像で、再生回数は計6万回を超えている。
ムラタチャンネルを管轄する同社広報部主任の高橋正嗣氏は言う。
「動画は優秀な営業ツール。デバイスに興味を持ったお客様にデモキットをその場で調達できない場合でも、映像を見てもらえば理解していただける。また、相手先の担当者レベルには好感触でも、決裁権者への説明で難航するケースがよくあったが、動画を充実させることでかなり解消している」
また、学生のリクルーティングを目的に昨夏開設したFacebookページでも、学生向けイベントの報告より、無線デバイスや通信モジュールの開発・生産動向に関する投稿の方に「いいね!」が多く集まる傾向があるというから驚きだ。
かつて同社の部品販売先は、国内エレクトロニクス関連メーカーにほぼ限られ、相手の顔が見えていた。しかしグローバル化とアジア諸国の台頭とともに、コンデンサーやコイルなど汎用品を求める企業は、国内外で裾野が広がっている。それぞれに専属の営業マンが付くスタイルは、そぐわなくなりつつある。
企業PRを主目的に広報主導で開設した各ソーシャルメディアが、今や営業面でリードを獲得する上で欠かせない存在になっている。
そうは言っても契約に至る確度の高さで、展示会来場客に勝るものはない─。読者の方から、そんな声も聞こえてきそうだ。
確かに展示会へ足を運んでくれた来場者に、成約一歩手前の有望な潜在顧客が多いことは論をまたない。ソーシャルメディアは展示会などにおいて、潜在顧客の満足度を高めることにも活用できる。来場者に対して、重要なおもてなしの役目を果たすと言ってもいい。

自社の主催イベントにおいて、ソーシャルメディア活用に定評があるのが日本マイクロソフトだ。活用は集客の段階から始まる。同社でソーシャルメディアリードを担う上代晃久氏は、「参加申し込みページの登録状況を時間帯別に見るとお昼休み前後が多いため、イベント告知は午前中に投稿している」と語る。アクセスログに基づいて投稿の効率性を高めた結果、昨年9月に開催した「The Microsoft Conference 2011」では、全登録者の5%がソーシャルメディア上の告知URLから申し込みをしており、「認知経路として無視できない存在になった」(上代氏)。
会期中は、ツイートする来場者にイベントハッシュタグ(#msc2011jp)の利用を促し、会場からの声をリアルタイムに拾い上げて対応した。「この講演の資料の配布はあるのか?」などの質問から、「空調が効きすぎて寒い」といった声に速やかに対応したことで、来場者アンケート調査では他イベントと比較して満足度が向上したという。
聴講者の声で幹部の講演を評価
ソーシャルメディアの普及は、会社や事業部を代表して演台に立つ幹部にも緊張感をもたらす。ITのプロフェッショナルが集うイベントだけに、聴講者は講演に耳を傾けつつ器用にツイートする。当たり障りのない話が続く退屈な講演には、厳しい評価が投稿されることもある。同社ではこうした生の声を講演に対する評価として収集し、役員本人にもフィードバックする。
展示会におけるソーシャルメディアは、傾聴ツールとして利用することでイベント満足度を高め、それはイベントでお披露目した新しいソリューションやプロダクトの売れ行きにも影響を及ぼす。その意味でソーシャルメディアは、強力な営業後方支援ツールと言えるだろう。
※[検証3] ルネサスエレクトロニクス-既存顧客との関係を強化するへ続く