かつてソーシャルメディア活用など、何の関心も持たなかったはずの冷凍食品メーカーのニチレイフーズ。そんな同社が突然、この3月からFacebookページを持ち、2つのTwitter公式アカウントの運営を始めた。突き動かしたのは子会社の存在だった。

 「ニチレイフーズダイレクト」が、その子会社。社名はよく似ているが、親会社は売れ筋の「本格炒め炒飯」をはじめとする冷凍食品の製造を手がけ、子会社は健康食品の通販事業を展開している。業務内容は全く異なると思っていただいて差し支えない。ソーシャルメディア活用では“大先輩”である子会社からサポートを受けながら、今、親会社の孤軍奮闘が始まった。

 2006年まで右肩上がりで伸びてきた冷凍食品市場も、ここ5年間は停滞気味だ。日本冷凍食品協会によれば、国民一人当たりの冷凍食品の年間消費量は、2006年の21.1kgをピークに徐々に減少しており、2010年は19.2kgとなっている。

 消費量が伸び悩む一方でコモディティー化も進み、企業ブランドの指名買いが起こりづらくなっている。冷凍食品最大手のニチレイグループといえども、スーパーの店頭などで商品を選んでもらうのは難しくなりつつある。

 消費者にニチレイ商品を選んでもらうには、ブランディングのためにも消費者との直接対話が欠かせない。ニチレイグループの主力事業を担うニチレイフーズの強い味方となったのが子会社だった。

 親子の間に、ソーシャルメディアを巡るやり取りが発生したのは昨年のこと。北海道にある地方自治体のキャラクターが、自身のフォロワーに対してニチレイフーズの本格炒め炒飯を勧めてくれたことがあった。それを見つけた子会社がキャラクターと連携したことで、親会社の商品の売り上げ増に貢献した。「親会社が、ソーシャルメディアを使えば業績貢献につながることに次第に気づいていった」と、子会社のニチレイフーズダイレクトの企画部マーケティングチームの塩谷旬氏は言う。

親会社にソーシャルメディア浸透の素地

 親会社には、ソーシャルメディア活用が浸透しやすい素地もあった。昨年2月に社長に就任した池田泰弘氏は、常務で商品本部長だった時代に部下に「Facebookって知っているか?」と聞いて回ったことがある。社長に就いた後も、「顧客との直接対話」を社内で強く訴えてきた。

 ニチレイフーズは、子会社の“手ほどき”を受けながら、4つのフェーズでソーシャルメディア活用を進めている。まずソーシャルメディアを使った対話能力の向上だ。

 3月30日には、子会社のFacebookページの運営者を、ニチレイフーズに切り替えた。もちろんファンに、そうと分かる形で移管した。子会社の塩谷氏が実質的に投稿作業などを担い、それを親会社の事業統括部に所属する渡辺千春氏がサポートする形だ。

 Twitterでも親子の連携が始まっている。

「本格炒め炒飯」のキャラクター「イタメくん」のTwitterアカウント

 同じ3月、ニチレイフーズは本格炒め炒飯のTwitterアカウント(@itamekun)を設け、「イタメくん」というキャラクターを通じてユーザーと対話を始めた。キャラクターを立てたのは、消費者との会話の進みやすさを考慮したためだ。商品を売り込むのではなく、対話を重視しながらユーザーとのやり取りの中で商品情報を伝えることを目指した。Twitterでも子会社担当者が投稿し、親会社担当者はサポートする形となっている。

キャンペーン運用なら素人も取っ付きやすい

4月10日に開始した「今川焼」のTwitter連動キャンペーン

 冷凍食品の「今川焼」でもTwitter公式アカウントを設けた。こちらは逆に、親会社担当者が投稿などを行い、子会社担当者がそれをサポートする体制としている。

 本格炒め炒飯に比べれば知名度で劣る今川焼は、クチコミ数もそう多くない。ある意味、マイナーな存在の商品を試験的に使って、親会社担当者は実務を始めたことになる。今川焼でTwitter連動型キャンペーンを展開し始めたのは、フォロワーを増やすという目的に加えて、キャンペーン運用ならつぶやく内容もわりと決まっているため、“素人”にも取っ付きやすい。

 キャンペーンは、「東京スカイツリー」を題材にした。キャンペーンサイトというバーチャルな世界で今川焼を積み上げ、スカイツリーの高さ634メートルを超える「今川焼タワー」を作っていく。キャンペーンサイトで利用者は、自身のTwitterアカウントと連携させ、「今川焼を積む」というボタンを押す。すると、自分のTwitterアカウントのアイコンを顔に表示したキャラクターが、今川焼を積み上げる動画が流れる。積み上げた高さはほかのユーザーのものと累計されていく。

 この企画と同時に、今川焼のTwitterアカウント(@nf_imagawayaki)をフォローしている人の中から、抽選で3組6人にスカイツリーをヘリコプターで眺められるコースが、また30人に今川焼のセットが当たるプレゼントキャンペーンを実施中だ。

 プレゼント実施の条件は、スカイツリーが開業する5月22日までに、今川焼を634メートル分積み上げること。数にして2万1134個の今川焼だ。それを達成するため、フォロワーが周囲に積み上げを呼びかけるため、フォロワー数の増加も期待できる。

 少し第1フェーズの紹介が長くなったが、ここまでが対話能力の向上。親会社の学習と言ってもいい。それを3~4カ月実施した後、いよいよ収益への貢献段階に入っていく予定だ。

 第2フェーズがロイヤルティの向上。昨年、同社が実施したアンケート調査では、冷凍食品のブランド・商品について、34%がこだわりを持たない層だった。そうしたブランドへの無関心層を関心層へと引き上げる。それを定期的に調査していき成果の1つの指標とする。

 第3フェーズは販促連動だ。店舗などに送客したり、売り上げに結びついたりするような企画を打ち上げていく。そして第4フェーズが、商品設計へのフィードバックとなる。「容量の大きな商品が欲しいという意見がソーシャルメディアからたくさん集まれば、それに対応した商品開発も検討していく」と、ニチレイフーズの渡辺氏は言う。

 始まったばかりの親子連携。孝行息子は、どこまで親を“育てる”ことができるだろうか。