「当社の新しいコミュニティサイトが目指す姿は、コカ・コーラ パークです」

 ヤマサ醤油の営業本部マーケティング部の藤村功家庭用MD推進室長は、3月27日に開設したコミュニティサイト「YAMASARED」(ヤマサレッド)についてこう語る。読者の方ならご存知だろうが、コカ・コーラ パークは1000万人超のユーザーを抱える、日本コカ・コーラの自社コミュニティサイトである。

写真投稿型コミュニティ開設のなぜ

「YAMASARED」のトップページ

 醤油は、あくまで料理に使う1つの調味料であり、「コカ・コーラ」などの飲料に比べた場合、どちらかといえば地味な存在。そのヤマサが、コカ・コーラ パークを目指すという。意外に思われるかもしれないが、藤村氏は本気だ。

 ヤマサの主力商品である醤油市場はここ数年、価格競争を強いられている。ほかの調味料メーカーの参入に加えて、例えばイオンの「トップバリュ」やセブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」など流通サイドが自ら展開するPB(プライベートブランド)が競合としての存在感を増している。激化する価格競争は、ヤマサ醤油にとっても悩みの種になっている。

 「当社が若い人に対して実施した調査では、調味料へのこだわりが全くないことが分かっている」と藤村氏は言う。だから、価格の安いPBに顧客を奪われやすい。

 ヤマサにしかない商品の開発によって、「醤油ブランド」に目を向けてもらう。そうして生まれたのが、醤油商品の「鮮度の一滴」だ。その名の通り、醤油の鮮度を保てるようにパッケージが特殊な構造になっている。その分、価格は高い。

 数十秒のテレビCMでは魅力が伝わらずに、「単に高い醤油」と思わてしまっては元も子もない。そこで、価格に関係なくヤマサ商品を購入してくれるという優良顧客を少しでも増やすため、マーケティングにソーシャルメディアを活用してきた。昨年から鮮度の一滴の「Facebookページ」を開設して、ユーザーとの直接の対話を試みた

 その結果、Facebook上のファンの中には対話を通じてヤマサに興味を持ち、競合商品から鞍替えした人も現れ始めた。ただ現時点でのファン数は約5000人。「直接の対話が重要であることに変わりはないが、情報を届けられる規模としては、まだまだ小さい」と藤村氏。

 過去には、あるソーシャルメディア上でキャンペーンを実施した際、期間中に仕様を変更され不都合を感じたこともある。せっかく広告費などをかけてファンを集めても、仕様変更で突然それを失う可能性もないとは言い切れない。そこで、自社でのコミュニティ運営に挑戦することを決めた。

写真投稿を促す2つの仕組み

 YAMASAREDは写真投稿をコミュニティの柱としている。ユーザーに投稿を呼びかける写真は、食べた料理の写真だ。「いいことありそう幸せランチ」「ラブリー姫スイーツ」「メモリアル旅ごはん」といった9つのアルバムを用意し、それらのアルバムに写真を投稿してもらう。投稿する料理は、ヤマサ商品を使っている必要はない。

 調味料メーカーのコミュニティサイトというと、安易にレシピの投稿サイトを思い浮かべてしまう。だが藤村氏がレシピ投稿サイトにしなかったのは、かつて「mixi」でレシピ投稿型のアプリを提供したところ、全く投稿が進まなかった苦い経験を持つからだ。藤村氏は、この企画を通じて「レシピを投稿してもらうのは、ハードルが高い」ことを学んだ。

 一方、自分が食べた料理の写真をソーシャルメディアに投稿する人はけっこういる。投稿のハードルを下げた甲斐あって、オープンから1週間で3000枚の写真が投稿されている。

 さらに投稿を促進するための施策はまず、ユーザー同士で写真を評価できる「CLIP」機能の活用だ。ほかのユーザーが投稿している写真の画面が気に入った場合には、「CLIPする」ボタンを押す。すると、ボタンを押したユーザー自身のアルバムにクリッピングされる。

 トップ画面では、CLIPされた数の多い写真ランキングや、写真投稿数の多いユーザーランキングを表示している。もちろん、写真にコメントを残すこともできる。こうして、ユーザー同士の交流を図っている。

 もう1つの投稿促進策は、ゲーミフィケーションの要素を取り入れたこと。写真を投稿したり、CLIPしたりすることで、YAMASAREDのマイページや、写真を投稿するアルバムのデザインが次第に豪華になっていく。例えば、アルバムの初期のデザインは大学ノートのようなものだが、それがリングノートになり、花やハートが描かれたデザインになり…とデザインが変わっていく。こうしたゲーム的な要素を取り入れたゲーミフィケーションの活用によって投稿を促す。

 現時点での投稿方法は、パソコンサイトで写真を選択するか、従来型ケータイでメールに添付して送るかのいずれかに限られる。ただ、スマートフォンにおいては、投稿機能を持つアプリをiPhoneとAndroid端末向けの両方を開発済みで、近いうちに配信が始まる予定だ。

1カ月で10万本売れるモバゲー連携企画

 自社コミュニティサイトの運営で最も難しいのはユーザーを集めることである。コカ・コーラ パークですら、昨年3月にユーザーの1000万人突破まで約4年の歳月を重ねた。

「モバゲー」と連携したキャンペーンを展開

 ユーザー獲得で藤村氏が用意した秘策が、「モバゲー」でディー・エヌ・エー(DeNA)が展開しているソーシャルゲーム「農園ホッコリーナ」と連携したキャンペーンだ。ちなみにこのゲームは、ゲーム上の架空の農園で作物や動物を育てたり、デジタルアイテムで農園のデザインをカスタマイズして楽しむものである。100万人超ユーザーのうちその半数以上が女性で、それはヤマサが顧客ターゲットに据えたい対象でもある。

 ヤマサは、YAMASAREDの開設と同時に、「ヤマサ昆布ぽん酢ジュレ」「ヤマサコラーゲンぷるんぷるんジュレ」、鮮度の一滴のいずれかを買うと、先着5万人が農園ホッコリーナのアイテムをもらえるキャンペーンを始めた。ただし、アイテムをもらうにはYAMASAREDの会員になる必要がある。会員登録後に、商品に張られたシールに記載されているQRコードをケータイで読み込むとアイテムを取得できる。

 また、先着でもらえるものとは異なるアイテムが抽選で11万人に当たるキャンペーンも実施する。こちらも、YAMASAREDの会員になることが応募条件となる。

 実のところヤマサ醤油は、昨年に2回、今回と同様に商品を購入することで、アイテムをもらえるキャンペーンを実施している。昨年4月に実施した企画では10万本の鮮度の一滴が、「キャンペーン期間の終了を待たずして売り切れた」(藤村氏)。

 こうしたソーシャルゲームのパワーを借りることで、「四半期で30万人の会員獲得を目指す」と藤村氏は強気だ。ただし、ソーシャルゲームで集めた会員が、そのままヤマサのファンになるというほど甘くはなかろう。

 ゲームのアイテム目当てで登録した会員が、そのまま“幽霊会員”となる危惧はある。YAMASAREDがコカ・コーラ パークになれるかどうか。それは、キャンペーンで獲得した会員をきちんとヤマサファンへと昇華できるかどうかの手腕にかかっている。

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