「Facebookで募集したアイデアから生まれた なめたけマヨ」。今年2月14日のバレンタインデー、ファミリーマートのおむすび陳列コーナーに、こんなコピーがパッケージに書かれたおむすびが並んだ。すぐ横の店頭販促(POP)には「Facebook人気投票1位」とある。
これはファミリーマートが昨年11月から始めた、Facebookでおむすびの具材のアイデアを募集して商品化するプロジェクト「みんなで作るおむすび選手権」から生まれたもの。Facebookでアイデアを募集し、審査を経て選ばれたアイデア30種を人気投票でふるいにかけた。こうして商品化にこぎつけたのが次の4点だ。「なめたけマヨ」(120円)と「チーズ焼きカレー」(140円)の2点を2月14日から、「焦がしネギマヨおかか」(120円)と「バター鮭おむすび」(140円)の2点を2月28日から、期間限定で販売した。
前回はTwitter、今回はFacebookで具材のアイデアを募集

実はこの企画、同社にとって2回目の実施となる。ただし前回、つまり2010年秋に使ったメディアはFacebookではなくTwitterだった。2年連続でプロジェクトを率いた同社マーケティング室コミュニケーション戦略グループの高岡夏氏が言う。
「前回のTwitterおむすび選手権にはたくさんの応募をいただいて、実際に売れ行きも好調でした。これを単発で終わらせず定番企画にしていきたいと考えていたところ、昨年5月にFacebookページを開設して順調にファン数も増えていったので、今度はFacebookでやろうということになったのです」
全く同じ企画をTwitterとFacebookで試した例は、そうそうあるものではない。また、両企画の間には1年2カ月のインターバルがあり、2010年にブレイクしたTwitterに対し、その1年ほど遅れてやってきたFacebookは普及具合がよく似ている。ニールセン・ネットレイティングスの訪問者数調査によれば、2010年9月のTwitter訪問者数は1113万人、2011年11月のFacebook訪問者数は1306万人。比較するにはうってつけだった。
まず、プロジェクト開始時のフォロワー・ファン数から。2010年9月の同社Twitterアカウント(@famima_now)のフォロワー数は約2万1000人(現在は約3万6000人)。2011年11月の同社Facebookページ(familymart.japan)のファン数は9万人超(現在は15万6000人)と4倍以上の差がついていた。ちなみにローソンも現在、Facebookページのファン数(約30万人)がTwitterフォロワー数(約15万人)に2倍の差をつけている。
次に「量」、つまり集まったアイデア総数だ。前年の4倍もいるファンに向けて告知したのだから、アイデアも4倍集まったかというと、さにあらず。Twitterでは3500件のアイデアが集まったが、今回Facebookでは1000件超に終わった。
応募数が前年より伸びなかった理由はいくつかある。1つは拡散力の点でFacbookはTwitterに及ばないことが挙げられよう。
Twitterの場合、数千から万人単位のフォロワーがいるような影響力のあるアカウントがアイデアを投稿すると、その投稿自体がフォロワーに対して告知の役割を果たし、「私も投稿してみよう」と参加者を誘発しやすい。一方、Facebookの場合は基本的に知人をベースにした中小規模ネットワークといえる。フィード購読機能もあるとはいえ、1人の投稿が多くの投稿を誘引する形にはなりづらい。
2つ目は、Twitterと比べて投票行動が「可視化」されにくかったこと。これはおむすび選手権用に作成したFacebook投票アプリの仕様の問題でもあるが、アイデアの内容を自分のウォールに投稿するかしないか選択でき、「投稿しない」選択をした人が相当数いたためだ。
3つ目は、投票の手軽さの点でFacebookよりTwitterが有利だったこと。Facebookの投票画面では、「おむすびのタイトル」「誰に食べてもらいたいか」「おむすびの中身やアイデアを思いついた理由など(200文字以内)」といった入力項目を用意した。Twitterの時は、具材アイデアを一言投稿するだけでも応募が成立したが、Facebookでは投票の敷居を高くした分、応募数は減少した。
質が高いFacebookからの投稿
応募の「量」では下回ったFacebokだが、この1点をもって「負けた」とか「失敗」などとは全く言えない。投稿アイデアの「質」の面では、Facebookに軍配が上がった。前年のTwitterでは3500件のアイデアが集まったとはいえ、その中身は例えば「(具材が何も入っていない)エアおむすび」など“一発ギャグ狙い”や、単に「キムチ」など目新しさに欠ける投稿も多かった。
その点、今回実施したFacebookからの応募はわりと粒ぞろいで、「うなぎとクリームチーズ」「ザーサイとジャコ」「豚そぼろとキムチーズ」など食材2個以上を組み合わせた意外性のある、かつ実現可能性も伴うアイデアが目立った。それだけに、「1次選考も最終審査も去年以上に悩んだ」と高岡氏は言う。
人気投票の対象となる1次選考通過アイデアが、前回のTwitterは20作品だったのに対し、今回Facebookでは30作品だったことからも、寄せられたアイデアのクオリティの高さがうかがえる。実際、商品化したおむすびは前回の3点から今回は4点に増やした。量のTwitter、質のFacebook。そう言って差し支えない結果となった。
果たして、売れ行きはどうか。
「鮭やツナといった定番品を除いた“企画もの”おむすびの中では上位に位置しています」と高岡氏。コンビニエンスストアにとって集客を左右する看板商品で結果を出したことの意義は大きい。
ソーシャルメディアを活用して売り上げは伸ばせるのか--。デジタルマーケティング業界でもさまざまな見方や意見が飛び交っているが、ファミリーマートは2年連続でソーシャルメディアから人気商品を作り出し、売り上げを計上した。ソーシャルメディア活用の成果を問われて苦悩している運用担当者にとって大いに参考になる、また勇気づけられる事例ではないだろうか。