第1回 資生堂のネット直販 、構想3年その知られざる裏側
第3回 ナショナルショップが映す資生堂直販の成否
第4回 「資生堂のネット直販は、我々の存在価値を否定する恐れがある」
第5回 「直販サイトとネットからの店舗集客で国内市場を再び成長路線に乗せる」

 変えるべきものとして高森が既存販路にメスを入れる必要性を痛感するのも当然だった。一般消費者が化粧品を買うチャネルが大きく変化してきていたからだ。

化粧品の販売チャネル別国内市場(2011年の数字は見込み)

 調査会社の富士経済(東京都中央区)によれば、化粧品の「通信販売」市場はこの5年間で26%増加した。結果、化粧品の販売チャネルでドラッグストアに次ぐ規模にまで成長している。一方、資生堂の販売チャネルの主力だった「化粧品店・薬局・薬店」「百貨店」の売り上げは、ともに5年で約20%落ち込んだ。

 どうすれば既存販路に納得してもらえる形で、直販サイトを始められるか。時に高森は、直販サイトの開発責任者である国内化粧品事業部開発事業推進部長の薗田守世と膝を突き合わせて議論を重ねた。

 たどり着いたのが、直販サイトはあくまで集客の場として位置付け、店舗に送客する仕組みを作り上げるという論理だ。そこで、サイトに直販機能を設けるだけでなく、「Webカウンセリング」や「店舗検索」といった機能を備える美容の総合サービスを提供する場として、資生堂のWebサイトを刷新することを決める。後に、「watashi+(ワタシプラス)」という名称になるものだ。

 この戦略を基に、「新マーケティング活用BOOK」という小冊子を作って、昨秋から新たなサイトのイメージをできるだけ具体的に伝えていった。こんな内容だ。

 「『オンラインショップ』で出会ったお客さまは、資生堂商品の良さを実感していただくことで、お店のお客さま予備軍となっていきます」 

 また、こんな文言も並んでいる。

 「『店舗独自メール』は特定のお客さまに直接的にアプローチする際に活用できる機能です」

 直販サイトで新規顧客を開拓しながら、一方で店舗に対して手厚い支援を提供することを強調している。小冊子に載せる説明の文言にも細心の注意を払った。冊子だけでなく、動画で説明するDVDなども作成して、分かりやすく伝えることに腐心した。

直販の裏側にあるもう1つの狙い

有力な専門店向けにマーケティングツールを提供

 資生堂は店舗に対し、様々なメリットを提供する。まず、店舗情報を紹介する「お店ナビ」が挙げられる。各店舗ごとにページが作られて、店舗の地図や取り扱いブランドといった情報が掲載される。

 また、店舗で実施中のキャンペーン情報を発信したり、カウンセリングの予約を受け付けたりできるようにする。サイト利用者は「エリア」や「サービス」などで店舗を自在に検索できる。

 新たにポイントプログラムも立ち上げる。店舗と直販サイト、どちらで購入した場合にも100円につき1ポイントが加算される。取得したポイントは、1ポイント1円として200ポイントから利用可能だ。ただし、使えるのは直販サイトのみ。

 このポイントプログラムでも、店舗に配慮した工夫が施されている。ポイントプログラムは、年間購入金額に応じて還元率が高まっていく。この還元率は、直販サイトの場合は4ステップまでしか高まらないが、店舗ではもう1ステップ分が高まるようにしてある。つまり、資生堂の商品をより多く買う人は、店舗で購入した方がお得というわけだ。

 重要なのは、消費者が店舗でこのポイントを取得するには、直販サイトでの会員登録だけではなく、既存の資生堂の会員組織「花椿CLUB」にも登録する必要があるという点だ。

 花椿CLUBは、会員向けに資生堂が記念品を贈るといったことで資生堂ファンを作っていき、化粧品専門店でのリピート購入につなげる施策として、1937年に発足した「花椿会」が基礎となっている。店舗ごとに会員登録をしてもらうため、花椿CLUBと直販サイトでの会員情報をひも付けることで、どの店舗の会員であるかを識別できるようになる。

 資生堂は店舗に対して、店舗での売り上げ状況や、顧客の来店・購買状況といった、個店ごとの分析レポートを月に1回提供する。その上で、店舗のオーナーが自分の顧客に対してwatashi+を通じて販促メールを配信できるツールを提供する。オーナーはメールを配信したい顧客を抽出して、「あといくら購入するとポイント還元率が高まりますよ」「先月買った化粧水がそろそろ切れませんか」といったことを告知して、次回の来店を促せるようになる。

3年をかけて直販サイトの開設を目指した

 これらの一連の機能は、既存店全般に対し配慮しながら開発したかのように見える。だがよく見てみると、有力な店舗を選別するという、もう1つの資生堂の狙いが透けてくる。なぜならこれらの機能を使うには店舗は資生堂が提示するいくつかの条件を満たさなければならないからだ。

 その条件とは、資生堂が2001年からチェーンストア向けに提供しているPOS(販売時点情報管理)端末を導入していること。美容部員が資生堂のビューティーコンサルタント検定に受かっていることなどである。資生堂に、より協力的な店舗を手厚く支援する仕組みになっている。

ネット直販という“ムチ”、CRMツールという“アメ”

 ここまでお読みになれば、概ねお分かりいただけただろう。資生堂は、成長の見込める新たな販売チャネルとして、ネット直販のスタートをじわじわと、そして強力に推し進めてきた。

 そこにあったもう1つの狙い。それが、成長期待を持てる有力店舗のさらなる選別だ。2009年春から進めてきた、有力店舗の選別、育成プログラムは一定の成果を収めてきた。その選別を一気に展開するのに活用したのが、魅力的なCRM(顧客関係管理)関連ツールを提供するか否かだ。ネット直販という“ムチ”の代わりに、CRM関連ツールという“アメ”をもらわなくては、専門店サイドは苦しい。そこを突いたのが資生堂のしたたかさだろう。

 もっとも、ここで勝ち残った有力店舗にしても、さあこれで資生堂とともに順風満帆、とは簡単に思うまい。いくら優れたマーケティングツールを用意してくれたとしても、これまで資生堂と接触がなかった顧客を一気に開拓するのは、そう容易ではない。資生堂としても説得材料に欠けることくらい分かっていた。

 そこで、高森は秘策を用意した。それが4月2日にスタートする美容と健康のポータルサイト「Beauty & Co.」だ。

第1回 資生堂のネット直販 、構想3年その知られざる裏側
第3回 ナショナルショップが映す資生堂直販の成否
第4回 「資生堂のネット直販は、我々の存在価値を否定する恐れがある」
第5回 「直販サイトとネットからの店舗集客で国内市場を再び成長路線に乗せる」