第2回 要不要の店舗、ネット直販きっかけにさらなる選別へ
第3回 ナショナルショップが映す資生堂直販の成否
第4回 「資生堂のネット直販は、我々の存在価値を否定する恐れがある」
第5回 「直販サイトとネットからの店舗集客で国内市場を再び成長路線に乗せる」

 4月21日、ついに資生堂の直販サイトが動き出す。構想から実現までには、実に3年という歳月を要した。

 無理もない。化粧品業界ナンバーワンの地歩を固め、資生堂が資生堂たる所以は、その強力な販路に求めることができる。ネットを使った直販とは既存店舗網の中抜きに等しい。そんな店舗サイドの疑心暗鬼と、それを払拭したい資生堂の暗闘の歴史とも言える。

総会で配られたある資料

 店舗が身構える様子は、昨年11月16日のある出来事に象徴される。神戸市にある「ANAクラウンプラザホテル神戸」では、全国6400超の化粧品小売り店オーナーが参加する「全国化粧品小売協同組合連合会」の総会が開かれていた。

 当日、参加者に配布された24年度事業計画書の冒頭にある「活動方針」の半分は、こんな文言で埋め尽くされていた。

 「資生堂のWebマーケティング本格参入がスタートする。この事業の成否は、業界の未来の有り様に、大きな影響を及ぼす事になる」

 この種の総会で、まだ始まってもいない特定メーカーの事業戦略について、活動方針で大きく触れるのも珍しい。それほど警戒するのは、売れ筋商品から定番商品に至る2600商品を、資生堂がネット直販で扱うからだろう。

全国化粧品小売協同組合連合会の中神美郎理事長

 同連合会で理事長を務める中神美郎は言う。

 「組合員の中には、ネットに顧客を奪われるのではないか、という不安の声は多い」。

 そして、こう続けた。

 「当初はネットで扱わないことになっている専門店向けブランドも、いつ資生堂の方針が変わらないとも限らない」

 化粧品に限らず、業界大手ほど既存販路に気兼ねして、主力を除いた一部商品あるいはネット専用商品を扱うにとどめることが多い。ほぼすべての商品をネットで提供するための準備をほぼ終えた資生堂は、大がかりな仕掛けを随所に設け、周到な準備を重ねてきた。これまで一切報じられることのなかった資生堂の、したたかな戦略をご覧に入れよう。

資生堂常務の苦悩

 2009年4月、資生堂執行役員で中国事業部長だった高森竜臣(現取締役執行役員常務)は、日本に戻り国内化粧品事業戦略・マーケティング領域担当となった。与えられたミッションは、「直販事業の展開」だった。

 その年の3月期、国内の売上高は前期比6.7%減の4283億円にとどまっていた。資生堂の中国ビジネス立役者の1人である高森は、着任早々、今度は国内ビジネスの改革を迫られた。

資生堂の高森竜臣常務

 いきなり直販をやれば、これまで築いてきた店舗網、そして資生堂のすべてが崩壊する。高森は、そんな危機感を覚えた。

 資生堂は1923(大正12)年、「化粧品連鎖店(チェーンストア)制度」を打ち出している。資生堂と直接販売契約を結んだ小売り店に対して、卸業者を介さずに資生堂子会社の販売会社が商品を納品する。その代わりに、定価販売を義務付けるという制度だ。

 意外に思われるかもしれないが、既に当時、化粧品は値引き競争が激しく、小売り店の多くは苦しい経営を強いられていた。そのため、資生堂が提案した制度は、疲弊しきっていた小売り店の多くに歓迎された。資生堂のチェーンストアは瞬く間に全国へと広がっていった。

 新製品を発売して、子会社の販売会社を介し、全国のチェーンストア隅々までいき渡らせる。卸業者を介さずに定価販売するため、高い利益を確保できる。こうして資生堂はチェーンストア制度の確立から90年にわたって小売り店と二人三脚で成長してきたのである。高森は言う。

 「(資生堂には)変えてはならないものと、変えるべきものがある。それを見定めることが肝要だ」

 変えるべきものとは直販を含めたデジタルによる新しい売り方。そして変えてはならないものとは、優良な専門店との密なる協力関係のことだろう。

 高森氏が着任した2009年春には、もう1つの出来事が起こっている。

 取り引き先である専門店約1万4000店の中から、有力店となる育成候補を選別する新しい制度を導入したのだ。まずは約600店ほどを認定し、資生堂が営業支援に乗り出す。それによって、国内販売のてこ入れをしていくというものだ。実は、これが後に展開していくネット直販の伏線になっている。 =文中敬称略

第2回 要不要の店舗、ネット直販きっかけにさらなる選別へ
第3回 ナショナルショップが映す資生堂直販の成否
第4回 「資生堂のネット直販は、我々の存在価値を否定する恐れがある」
第5回 「直販サイトとネットからの店舗集客で国内市場を再び成長路線に乗せる」