女性に対する好感度1位のソーシャルメディア活用企業が料理教室運営のABCクッキングスタジオだ。本誌が2月に発表した「ソーシャル活用売上ランキング」では、同社がソーシャルメディアで発信する情報に触れたことで「好感を持った」もしくは「共感した」比率を偏差値化した「好感スコア」は74.1と東京ディズニーリゾート(TDR)に次ぐ2位。女性に限定すればTDRを抑えて1位となったのだ。その秘訣はどこにあるのだろうか。

 同社は日本全国に118店舗、中国・上海に2店舗の料理教室を展開する。設立は1987年で今年で25周年を迎えた。ABCクッキングスタジオといえば、ガラス張りの「見える」スタイルの料理スタジオが特徴だ。スタジオが事業の宣伝媒体の機能を担い、それまで敷居が高かった料理教室のイメージを変えていった。

 現在27万人に上る生徒はほぼ女性で、趣味などにお金を使う余裕のある27歳~30代前半が中心となっている。入会のきっかけのほとんどが、既存生徒によるクチコミだ。友達に誘われて通い始めたという女性が圧倒的に多い。サービスに定評がある一方で、その外にいかにリーチを広めていくかが課題となっている。1年間ほど運営しているFacebookページやTwitterアカウントといったソーシャルメディアが、まさにその出発点になっているようだ。

ABCクッキングの店舗数と生徒数の推移

「おいしい」を共有する場

 Facebookページを開設したのは2011年初めのこと。当初は明確な目的があったわけではなく、まずは運用してみることで、どこから反応がくるのかを見たいという思いがあった。本格的に運用に取り組んでいるのはここ半年ほどだ。途中、既存会員とのコミュニケーションの場にすることも考えたが、世界とつながるというFacebookの特性を生かし、食に興味がある人と「おいしい」を共有する場にシフトしていった。

 Facebookページのファン数は7万4000人に達しており、女性が9割を占める。既存会員にTwitterやFacebookの利用者が少ないため、そのほとんどが会員以外のユーザーだ。食への興味・関心を持つファンへ、食の楽しさやおいしさ、日本の食文化を伝えていくことを趣旨としている。

 そんな同社のFacebookページでは、より多くの共感を得るために心掛けている運営上の工夫がいくつかある。

 最も重要なのが、投稿に必ず写真を取り入れることだ。同社のFacebookページを見ると分かるように、色鮮やかな料理写真が並んでおり目で楽しませてくれる。Facebook用にわざわざ撮影した写真も少なくない。文字を読ませるのではなく、一目でおいしさが伝わるような完成度の高いビジュアルに、豆知識やちょっとしたストーリーなどを添える。

 自社作成のコンテンツだけでなく、生徒のブログなどから手作りパンや可愛いお弁当など話題になりそうな写真をピックアップして、コメントを加えて共有する。生徒は自分の作った料理に反響があればうれしいし、運営側はファンを楽しませることができる。話のネタにもなるため、キャラ弁(アニメのキャラクターなどをデザインしたお弁当)などは反響が多く、700件以上のいいね!が付くこともあるという。

 文字を読むことではなく目で楽しんでもらうため、文章は2~3行に収めている。料理の素材について詳しく書く場合はFacebookの「ノート」機能を使う。柔らかい言葉遣いを意識し、顔文字、♪、☆などの記号を入れることで、感情をより豊かに表現する。印象が硬くなりがちな「ですます」調より、「食べたくなっちゃいますね」など話しかけるような口調を心掛けることでユーザーからの反応も増えるという。

社長直々の助言で英語でも発信

 同社の企業理念は、「世界中に笑顔のあふれる食卓を」。Facebook活用においては当初から、利用者からの好感を得て「笑顔」を広げることは達成できていたといえよう。しかし、昨秋まではほぼ国内に限られたものだった。そこで「世界中に」を達成すべく始めたのが英語での情報発信だ。

 きっかけは、「Facebookページで海外の人に向けて英語でも発信してみたら?」という横井啓之CEO(最高経営責任者)から担当部署への助言だった。

Facebookページへの投稿例

 それ以来、ほとんどの投稿に英訳文も付けており、海外ユーザーも意識している。世界中の人が集まるFacebookは、日本の食文化を世界に向けて発信する場として最適だ。昨年11月には国内外に向けて初めてFacebook広告を出稿し、現在はファンに対する海外ユーザーの比率は7割にも達している。国別ではインド、マレーシア、ベトナム、メキシコなどのファンが多い。

 投稿は単にそのまま翻訳するだけではない。例えば、日本の食卓に欠かせない味噌について投稿する際は日本語の投稿では好きな味噌汁の具を募り、英語ではより基本的な知識を伝えるようなカスタマイズをした。また、外国人向けに寿司の握り方やお米のとぎ方を説明するYouTube動画を用意して紹介する。こうした独自の配慮が人気を集めている。

 ABCクッキングスタジオは現在、中国・上海に2店舗を構えている。「初の国外進出となった上海スタジオにも手応えを感じています」と話す広報チームの高田怜香氏。

 マーケティングも兼ねて進出した上海の“0号店”では、中国は家で食事をすることが少なく、特に上海では女性ではなく男性が料理することが多いといった傾向が分かった。レッスンもそのため、食事よりケーキ作りなどのコースが人気だ。現地の食文化にマッチするメニューを用意することで受け入れられている。中国ではFacebookを利用できないため、利用者が急増するミニブログで情報発信している。

 WEB戦略チームの稲垣友美氏は、「ソーシャルメディア運用を直接入会に結びつけるのではなく、食に関心を持った人が自由にコミュニケーションをとれる場所にしていきたい」と話す。生徒ではない人とのやり取りから、新しいアイデアや発見が生まれることもあるという。海外のファンの意見から、中国の0号店同様に現地の食文化が見えてくるかもしれない。

 店舗の海外展開に先駆け、ABCクッキングスタジオの企業理念を具現化する場としてFacebookページは世界に広がっている。好感の輪を広げられれば、海外での成功は大きく近づくのかもしれない。