あれから1年が過ぎた。3月11日の夕方、仙台市青葉区の東北大学片平さくらキャンパスには、300個のキャンドルがハート型に設置された。その一角で、「上を向いて歩こう」のバイオリン演奏が終わると、色とりどりの風船が一斉に放たれ、夕闇迫る寒空を彩った。

これは楽天が主催したイベント「思いを東北へ。鎮魂と希望のセレモニー」の一幕である。東北楽天ゴールデンイーグルスはもとより、楽天市場の出店店舗や楽天トラベルの宿泊施設などを通じて東北地方にゆかりの深い企業として、企画したものだった。
このイベントには、楽天市場に出店する「愛情たらこのみなと」(宮城県石巻市)が参加していた。石巻湾近くの実店舗や工場が津波の被害に遭い、従業員も全員被災した。それでも、楽天が主催する店舗向けの講座「楽天大学」を通じて知り合った出店者仲間からの支援を受け、昨年5月に営業再開にこぎつけた。先日、3月4日の24時間大規模セール「楽天スーパーSALE」では出店以来最高の注文を受注するなど、被災から復活を遂げた店舗の象徴的な存在だ。
被災地に物資を送り続けた楽天
一方で3.11以来、ずっと営業再開の目処が立っていない楽天店舗も少なくない。営業を再開した「たらこのみなと」も、実店舗の周囲は1年を経ても一向に復興が進んでいない現実がある。こうした状況を楽天市場の東北エリア担当ECコンサルタントは肌で感じていた。
震災直後、楽天は会社として3億円、三木谷浩史社長は個人として10億円を寄付したことで話題を集めたが、単発ではない継続的な支援も本業を通じて実施していた。その代表的な取り組みが「楽天たすけ愛」だ。自治体や被災地の要望を受けて楽天市場の出店店舗が支援物資を特別価格で用意し、それをユーザーが購入することで寄贈できる仕組みである。昨年4月から毎週、支援物資の販売と被災地へのお届けを継続してきた。現在も第48弾「未成年者用マスク」、第49弾「お米」の購入を受付中だ。

2011年の楽天は、ドイツの大手EC(電子商取引)事業者トラドリアの子会社化や、カナダの電子書籍事業者コボの買収など、傍目にはグローバル展開のニュースが目立った。その陰で続いていたのは、こうした地道な取り組みだった。そして進出先のタイが昨年洪水に見舞われた際には、震災で培った必要物資を融通・支援するノウハウがタイでも生かされた。
震災後の消費低迷が懸念される中、楽天は被災時に必要な生活必需品の特集や、東北グルメ応援市などを企画することでECの利便性を訴求し、消費をリードする立役者となった。三木谷社長がそもそも阪神淡路大震災をきっかけに起業し、設立間もない頃から掲げていた壮大な目標である「年間流通総額1兆円」を、震災の年に実現させたのもまた奇縁である。
ヤマトは寄付金目標を1カ月早く達成
ECの成長が波及する業界といえば物流だろう。ヤマトホールディングスは昨年4月、「宅急便1個につき10円の寄付」を発表し、前年実績の年間取り扱い個数約13億個、額にして約130億円を寄付金の目安として挙げていた。果たしてどうなったか。
昨年4月からの累計宅急便取り扱い個数は、2月29日時点で13億個超、すなわち見込みより1カ月早く130億円を上回った。ECの伸長が牽引し、宅急便の取扱個数は昨年4月から今年2月までの11カ月間で前年比5.1%増加した。最終的に寄付金は140億円に達する見込みだ。

同社は、行政の支援が届きにくい分野に速やかに寄付金を回すため、ヤマト福祉財団を通じて助成している。宮城県南三陸町の志津川漁港の仮設魚市場や、福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」の改修、福島県相馬市エリアの「こころのケアセンター」新設など、助成を受けて建設された施設が既に稼動している。
もちろん、支援物資の量や寄付金の多寡で企業の優劣が決まるわけではない。企業がどれだけ被災地に、復興に、本気で向き合っているか。ネットユーザーは企業がソーシャルメディアを通じて発するコメントから感じ取り、良い取り組みには「いいね!」やシェア・リツイートといった形で惜しみなく称賛する。企業姿勢に共鳴してファンになったユーザーは、キャンペーンのプレゼント目当てで集まったユーザーよりも、企業にとってよき理解者になってくれるだろう。
地道に支援活動を継続する企業が信頼され、それは実利を伴って返ってくる。震災から1年を経過してなお復興の道のりは緒についたばかり。始めるのに遅すぎることはない。