ロッテが、この2月21日に発売したチョコレート菓子「ビックリマン伝説」の売れ行きが好調だ。ビックリマンの「悪魔VS天使」シリーズの販売が始まったのが1985年のこと。このシリーズ第1弾となったモデルが、四半世紀のときを超え復活した。
最近のシリーズと比べても、発売1週間の販売数量は復刻版が1.5倍を記録したという。懐かしさだけが勝因ではない。そこには、ソーシャルゲームを絡ませたマーケティングで見込み客を見極めた上での発売という、ロッテの戦略があった。
復刻版の発売を決めたのは、昨夏のことである。これを使ったソーシャルゲームを、ゲームプラットフォーム「GREE」で提供しており、既に60万人のユーザーを獲得していた。復刻版を店頭に並べれば、売れるはず。ロッテの考えは見事に当たった。
会員数2800万人を擁するGREEに対しては、ゲームを有利に進めるためのアイテム課金に社会からの疑問符もある。そうした課題が整理されていけば、企業のマーケティング活用に有望なプラットフォームとなり得ることを、ロッテのケースは実証した。

シリーズ第1弾の発売以来、ビックリマンは、漫画やテレビアニメにまで使われ、当時の子供たちを熱狂させた。悪魔VS天使シリーズに登場する「スーパーゼウス」や「ヘッドロココ」といったキャラクター名を聞けば、20代後半~30代の読者の中には、夢中で付録のシールを集めた当時を思い出す方もいるのではなかろうか。
そんな、一世を風靡したビックリマンも、最近ではあまり話題すらならなくなっていた。そんな折のことである。ロッテは、ゲーム開発の日本一ソフトウェア(岐阜県各務原市)とドリコムから1つの提案を受ける。ビックリマンを使ったゲームを作ってみませんか。
わずか4カ月で60万人が利用
ゲーム開発はこの2社が担当し、ゲームの売り上げを2社で分け合う。ロッテは、ビックリマンのキャラクターをゲームに使うライセンス料をもらうというものだ。

GREEのユーザーには20~30代の“ビックリマン世代”も多く含まれる。提案を受けた時点では、まさか「復刻版の発売まで至るとは思ってもいなかった」(ロッテ商品開発部ノベルティ企画室主査の大野友幸氏)。ゲームが広まれば、粛々と続いていたビックリマンの後継シリーズの店頭販売に少なからず寄与する。そんな考えから、ロッテはゲーム化を承諾する。
考えてみれば、菓子の「カード」と、GREEで人気のゲームバトルに使う「カード」は相性がいい。そもそも菓子のカードはコレクションすることに魅力があった。ゲームのカードは、コレクションに終わらせずに、それを使えば相手とのバトルに勝てる、というインセンティブも働くようになる。
こうした相性の良さが奏功したのだろう。昨年4月にゲームが提供され始めるや、ヒットゲームとなっていく。ドリコムは、それまでにカードバトル型ゲームを3タイトル提供してきたが、「リリース直後のユーザー数や売り上げの伸びは、最も高くなった」と、ドリコムの経営企画室企画グループ長の杉山秀樹氏は言う。ヒットを受けて「mixiアプリ」版の提供も始まった。
わずか4カ月で、GREEとmixiアプリのユーザー数は合計で60万人を超えた。利用者の年齢は30~35歳も多く、悪魔VS天使シリーズ第1弾の現役世代というターゲット層も獲得した。
ゲーム連携機能を菓子に付加
当初ロッテは、現在のシリーズの店頭販売への寄与を期待したが、「ユーザーの間で次第に、過去の悪魔VS天使シリーズの復刻を願う声が高まり始めた」(ロッテの大野氏)。こうした声に押される形で、ロッテはシリーズ第1弾の復刻を決めることになったのである。
もっとも、悪魔VS天使には根強いファンがおり、希少なシールですら既にコレクション済みという事態も想定された。もうこれ持ってるし。そう思われないため、ややデザインを変えると同時に、シールの裏面にQRコードをつけた。ビックリマンのゲーム利用者が、このQRコードをケータイで読み込めば、シールに描かれているキャラクターをゲーム上でも取得できるように細工したのだ。ゲームと連携する要素を加えることで、ゲーム利用者が店頭でビックリマンを買うよう仕掛けた。
ビックリマンの復刻商品の発売で終わりにするつもりはロッテにない。4月には、シリーズ第1弾の続編バージョンの新商品を発売する。復刻版という一過性の現象となるのか。それとも、再びビックリマンブームを引き起こすのか。ゲームを交えたマーケティングの真価がこれから問われる。
記事掲載当初、ビックリマンシリーズ発売を1985年としていましたが、ビックリマン悪魔VS天使シリーズの発売年の誤りでした。本文は修正済みです[2012/03/12 13:15]