人気が高まるスマートフォン用アプリやソーシャルゲーム。それらを使って自社のビジネスモデルの転換まで狙う企業がある。店舗や駅などで無線ネット接続できる公衆無線LANサービス提供のワイヤレスゲート(東京都品川区)だ。

 2004年に同社を創業した池田武弘CEO(最高経営責任者)はこう語る。

 「接続サービスは無料にしてもいいぐらいです」

急成長で競争激化の市場環境

 ワイヤレスゲートのサービスは、マクドナルドなどの店舗や、地下鉄の各駅など全国1万500カ所以上で利用できる。ソフトバンクテレコム、NTTコミュニケーションズなど複数の公衆無線LANサービスを1つの契約で利用できるようにしている。自社で設備を持たないので安価に、そして複数のサービスと契約しているので多くの場所で利用できるのを特長としている。利用料金は月額380円からとなる。

 公衆無線LANの市場は成長の一途だ。IT分野の調査会社であるICT総研(東京都千代田区)の「公衆無線LANサービス市場に関する需要予測」によると、2012年3月末時点の契約数は前年比1.6倍の386万契約で、2015年3月末には809万まで伸びると予想されている。無線LAN接続の機能を備えたスマートフォンの普及が追い風となっている。

 ワイヤレスゲートも有料会員数はこの1年で10万人ペースで増え、現在は30万人に達しているという。しかし、競合の参入も相次ぐ。携帯電話事業者が自ら手掛けてエリアを急速に拡大するほか、通信会社のサービスを利用してセブン&アイグループやローソンも集客のため、ほぼ全店舗で無料サービスを提供しようとしている。

WGConnect for Androidの画面。サービスエリアを検索し(画面左)、接続するとポイントを取得できる(画面右)

 池田CEOも危機感を持ち、「今後も通信サービスにお金を払う人が増えるのは堅実な予測だが、成長する中で次の一手を打っておきたい」と明かす。そこで、同社が1月に提供を開始したのが会員向けのAndroid用無料アプリ「WGConnect for Android」である。同社のサービスエリアで自動的に接続する機能を持つほか、接続完了時にその日時や場所をFacebook上の友人と共有できるものだ。

 3月末までは、接続するたびに加算されるポイント数を競い、高得点者には商品券が当たるキャンペーンを実施中だ。告知はニュースリリース程度だが、現在のアプリのダウンロード数は5000件程度と、想定以上だという。

 シンプルなアプリで、同社のビジネスモデルを転換させる可能性までは感じられないが、池田CEOは「あえて小さく始めた」と強調する。今後の成長を左右するアプリだからこそ、方向性が間違っていないかを探り、万が一間違っていても取り返せるようにしたという。

宝探しゲームでO2O支援

 ポイントを競うというゲーム性は間違っていないことは確認できたので、4月以降は順次機能を拡充させる。特定の場所で接続したユーザーには高ポイントを付与する宝探し的な要素を盛り込み、新たなキャンペーンを実施する。ビジネス利用が中心だったワイヤレスゲートのプロモーションでは、ゲーム性も併せて訴求し、個人利用の需要の取り込みも図る。

 大きな機能の拡充は3カ月単位で進める。当面は、自社で公開時期を完全にコントロールできるAndroidで改善を進め、完成度が高まった6月ごろにiPhone用アプリの提供を始める予定だ。自社内にはゲーム性を高めるノウハウは乏しいので、スマートフォンアプリの開発の経験が豊富なジェナ(東京都千代田区)と連携をとり、ソーシャルメディアを活用した機能の開発を進めている。

 アプリの今後の姿として目指すのは、位置情報ゲームやO2O(オンライン to オフライン)マーケティングの支援サービスだ。特定の場所で高ポイントを付与するのは、店舗集客を支援するO2Oサービスへの布石ともいえる。

 ワイヤレスゲートのサービスは、ユーザーが接続している店舗の無線LANの機器が分かる。屋内では利用できないGPS(全地球測位システム)や、大まかな場所しか把握できない携帯電話の基地局とは精度が違う。これらを強みに、世界各国にライバルがひしめく位置情報サービスでの競争を勝ち抜いていきたい方針だ。

 O2Oマーケティングの支援事業などで収益を上げ、「接続料が無料でもARPU(1契約あたり平均月間収入)が高まるようにしたい」(池田CEO)というのが将来の理想だ。通信会社としてはまさに逆転の発想だが、自社で通信設備を持たない身軽さを生かして、最初の一歩を踏み出したところだ。

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