「当社の顧客のうち15%がEC(電子商取引)、電話通販、店舗の3つを併用していました。そうした顧客は年間の購入金額が平均より1.4~1.5倍も高い優良顧客であることが分かったのです。だったら、これら販売チャネルを融合していって、各チャネルで1人の顧客に対して適切な商品を最適なタイミングで推奨するのが有効との結論に至りました」

 ファンケルの営業本部営業統括室室長の西由行執行役員は、こう明かす。

 同社は3月20日、会社ロゴからスキンケア商品に至る全面的なブランド刷新に踏み切る。これに併せて、販売チャネル別にバラバラに見えていたブランドも統一する戦略だ。「チャネルのブランド刷新」も進める中で、ECサイト、直営店舗、カタログ通販の3つをシームレスにつなぐ販売戦略を展開していく。どのルートでアクセスしても「ファンケルらしいサービス」と認識してもらうのが狙いだ。

顧客データを共有化

 EC、電話通販、店舗という3つの販売チャネルでまず、これまでバラバラだった顧客データを共有化する。顧客ごとにパーソナライズしたCRM(顧客関係管理)戦略を展開する考えだ。

各チャネルで顧客情報を共有してCRMを強化

 このブランド刷新に先駆けて、顧客の購買行動を徹底的に分析したのが、冒頭の発言である。複数の販売チャネルを有機的につなげるような環境を整えることができれば、優良顧客の増加が期待できる。

 これまで同社は、マルチチャネルを持つ強みを生かせていなかった。そんな反省がある。通販から始まり、会社の規模が大きくなれにつれて、店舗を展開するなどしてきたため、各販売チャネルで個々にシステムを立ち上げ、マーケティングを展開してきた。

 メールマガジン1つとっても、店舗とECでそれぞれ独自に配信しており、店舗のメルマガに登録している顧客にECのキャンペーン情報を送ることはできなかった。そこで、顧客データベースの構造を一から作り直した。

 顧客ごとに「お客様番号」を付け、それをベースに各チャネルの情報を結びつけていく。具体的には、店舗でカウンセリングを受けて商品を購入した顧客にその番号を渡す。顧客がファンケルのECサイトを訪れた時には、その番号を入力するだけで、店舗で受けたカウンセリング結果を見ることができる。オンライン上でカウンセリング結果を最近の肌の悩みに更新することもできるし、住所や電話番号を入力すればネット通販も可能だ。

 こうして作り上げたシステムは強力なマーケティング基盤にもなる。ファンケルの直営店舗で化粧液と乳液を購入した顧客がいるとする。その顧客の情報から、これら商品を使い切る直前に、メールで再購入を促す。あるいは、その顧客が電話で別の商品の購入を申し込んできた時に、「以前、店舗でお買い求めになった乳液が、そろそろなくなるころではないですか」と提案することも理論上は可能になる。

 ただ、こうした販促活動はネットであればシステム的に運用できるが、店舗や電話通販となると話は別だ。接客をする担当者のスキルに依存しがちだからだ。そこで、ファンケルは昨年から人材の育成にも取り組んできた。

 まず、一部の優良顧客を分析して、どの商品をいつ購入したかを大まかに把握できる顧客リストを作成。10人程度の優れた電話通販のオペレーターを選抜して、そのデータを見ながら買い忘れがないかを確認するといった販売手法に取り組んだ。実践を通じて効果を測りながら、会話形式のマニュアル化を進めた。このマニュアルを店舗にも水平展開して、接客力の向上を図っていく。

 実店舗では販売員向けにタブレット端末を用意する。顧客情報の管理画面から、お客様番号を入力すれば、最新のカウンセリング結果や、その顧客の購入履歴が販売チャネルを問わず時系列に並ぶようにして一目で把握できるようにした。店舗内でパソコンがある場所に行く手間も省け、目の前の顧客の顔を見ながら、最適と思われる商品を薦めることができる。

 ブランド刷新に向けて、ブランディングと販売の戦略立案から人材の育成まで用意周到に取り組んできたファンケル。3月20日以降、その真価が次第に明らかになっていく。    

■修正履歴
実店舗で販売員向けに用意するのは、タブレット端末でした。本文は修正済みです。[2012/02/21 23:30]
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