東京・原宿に今年4月18日、「東急プラザ 表参道原宿」という新しい商業施設がお目見えする。入居する店舗の1つが、女性向けの下着やルームウェアを扱う「AMO'S STYLE」だ。トリンプ・インターナショナル・ジャパンの直営店である。ここでは、ちょっと変わった取り組みをしている。店舗作りの段階で、顧客の意見を反映しようというのだ。自分が作った店、と思ってもらうことで、来店頻度を高めるのが狙いである。

 顧客から意見を得るプラットフォームとなるのが、AMO'S STYLEのブランドサイト「カワイイ!LABO」。今年1~4月にかけて、店舗のデザインなどに関するアンケートを実施しており、集めた意見を基に内装や設置するインテリアなどを決めていく。

アンケート結果を基に店舗のデザインなどを決めていく

 ファンからの意見を集めるプラットフォームとして、ソーシャルメディアに期待をかける企業は少なくない。しかしトリンプは、ブランドサイトでのコミュニケーションにこだわる。

 AMO'S STYLEのマーケティング担当者であるクリエイティブコミュニケーション&マーケティングサービス部ATL&BTL課の井上直子課長は「ソーシャルメディアは情報を広げる手段にすぎない。マーケティングの軸にすることはあり得ない」と断言する。発言の真意は、カワイイ!LABOをただのキャンペーン企画で終わらせるのではなく、将来的なCRM(顧客関係管理)戦略へ発展させたいということだ。

参加型企画で“自分ごと”にする

 AMO'S STYLEの顧客の来店頻度は年間を通して1.6~1.7回と、かなり低い。理由は、「下着はある程度の枚数を持っていれば、破れない限り買いに来てもらえない」と井上氏。来店頻度を高めることが、同社にとって最大のマーケティングの目的となる。「来店頻度を1ポイント弱でも高めるだけで、数億円規模で売り上げが上がる」(井上氏)からだ。

 そのためテレビCMを放送して、広くブランド認知を獲得したり、プロモーションを展開したりして、顧客を店に呼び込んできた。ただ、そうした大型プロモーションでは瞬間的に売り上げは上がるが、すぐに収束してしまう。プロモーション期間以外は、AMO'S STYLEのことを思い出してももらえない。

 解決策として立てた仮説が、顧客にもブランドや店舗作りに参加してもらえば、AMO'S STYLEが“自分ごと”になる、というものだった。ブランドへの忠誠心が高いファンが増えれば、プロモーション以外の期間の来店頻度も高まり、売り上げ増加につながると考えた。

 仮説検証のため2011年に展開したキャンペーンが「アモガールプロジェクト」だ。AMO'S STYLEを応援してくれるファン「アモガール」を募集するという企画で、3万5000人超が参加した。キャンペーンでは、店舗で撮影した写真がファッション誌などに掲載される企画などを展開。参加型キャンペーンの集客力を測るのが狙いだった。

 確かに来店頻度は高まった。だが「いずれも単発の企画だったため、企画の実施時期には来店者数が増えるものの、テレビCMと同様に参加型企画を実施していない期間には、来店頻度がグッと落ちた」(井上氏)。

 このアモガールプロジェクトの経験を生かして、2012年は1年間を通して顧客参加型企画を展開していくことにした。そのプラットフォームとなるのが、カワイイ!LABOというブランドサイトである。

カワイイ!LABOでは様々な顧客参加型企画を展開していく

 トリンプでは、「究極のランジェリー」という、顧客参加型の商品作りも定期的に展開してきており、こうした顧客参加型企画もすべてカワイイ!LABOに集約される。店舗や商品作り、様々な企画に参加してもらうことで、ブランドへの愛着を高めていく。

 冒頭で紹介した、顧客参加型の店舗作りの企画は、カワイイ!LABOでの企画第1弾となる。内装の色合い、シャンデリアやソファーの有無、試着室のカーテンや購入した商品を入れる紙袋の種類といった、細かな点までアンケートで聞いていく。こうした大型企画以外にも、定期的にアンケートをサイトでは実施するなど、常に新しい参加型企画を進めつつ、サイトのアクセス頻度を高めていく。

CRMと連携してDMをパーソナライズ化

 「カワイイ!LABOをCRMの入り口にもしたい」

 井上氏は、この企画を単なるキャンペーンで終わらせるつもりはない。今年6月ごろを目処に、CRMの仕組みとの連携を図っていく。そのための専門組織として「CRM課」まで立ち上げた。

 AMO'S STYLEは「クラブアモスタイル」という会員組織を持っており、55万人が登録している。会員になることで、誕生月には商品購入時のポイントが3倍になるといった特典がある。この会員組織をベースにしながら、カワイイ!LABOを積極的に利用してもらう。

 連携においてはまず、カワイイ!LABOでのアンケートへの回答数や発言数に応じてポイントを付与する、といったことを想定している。積極的な発言が増えれば、その人の趣味嗜好(しこう)や、抱えている悩みごとなどが深く分析できるようになる。

 こうして得た情報を基にパーソナライズしたダイレクトメール(DM)を送ることで、再来店につなげていく。心のこもったDMは、再来店を促す効果が高いことは分かっているからだ。

 このDMのデザインなども、カワイイ!LABOで作っていく考えだ。自分がデザイン作りに携わったDMで、興味のあるキャンペーンが案内されれば、来店したくなる気持ちも高まることだろう。

 この戦略が成功するかどうか。それには、会員に対してポイント以上の楽しみを与えられるかが重要になる。会員がカワイイ!LABOへ参加する目的が、ポイント取得になっては本末転倒。そうではなく、カワイイ!LABOに参加すれば、商品やDM、店舗作りにまで参加できる。そんなワクワク感、充実感に価値を感じてもらうことがブランドへの関与を高め、ひいては来店頻度の向上につながっていくのではなかろうか。