花王が、特定保健用食品(トクホ)「ヘルシア」シリーズのキャンペーンとして昨秋実施した「12週間健康チャレンジ」。運動やへルシアの飲用を日々記録して、TwitterやFacebookで仲間と励まし合う、このキャンペーンには1万4000人以上が参加した。期間中は、ヘルシアの売り上げが伸びる効果も見られ、ソーシャルメディアを絡めた販売促進の新たな可能性を示した。自信をつけた花王は今春、規模を拡大したキャンペーン第2弾を実施して、一層のヘルシア売り上げ増加を目指す。
「ブランドの本質を理解してもらうためには、マス広告では限界を感じていたんです」
取材の冒頭、ヘルシアのブランドマネジャーである花王のヒューマンヘルスケア事業ユニットフード&ビバレッジ事業グループビバレッジグループの川北昭人氏は、さも当然のような口ぶりでこう語った。
茶カテキンを高い濃度で含み、脂肪を消費しやすくするヘルシアは、トクホの機能性飲料の市場においては圧倒的な地位を築いている。ただ、大きな課題も抱える。年間飲用経験者は約1000万人に上るが、ライトユーザーが多いのだ。月1本以上飲む人はその4分の1程度にとどまる。
高濃度茶カテキン飲料は12週間継続飲用すると効果が認められるという臨床データが取れている。半面、ときどきヘルシアを飲んでも十分な効果は期待できない。通常の飲料と比べれば市場拡大の余地は大きいが、マス広告で飲用経験者を一気に増やしても、たまに飲んで「効果が無い」と思われては広告宣伝費の無駄となってしまう。
そこで、継続的にヘルシアを飲んで運動することで、体重の減少に効果があることを実感する人を少数でも確保し、その声を拡散させる。12週間健康チャレンジは、そんな狙いで始めたものだ。
平均飲用本数は週4.8本に

参加方法はまず、FacebookかTwitterのIDを使って登録して、性別、身長・体重、そして目標体重などを登録する。その後、日々の体重、体脂肪、歩いた歩数や運動などをパソコンやスマートフォンのアプリから登録していく。チャレンジの経過記録を公開するよう設定すると、FacebookやTwitterを通じて友達から応援してもらうことができる。
花王の作成センターWeb作成部Web企画グループの板橋万里子グループリーダーは、ソーシャルメディアとの連携で、継続的な運動やヘルシアの飲用を促進する効果が生まれたと語る。
「友達に宣言したのでやめられないという人、さらに参加者同士でつながりが生まれて応援し合うことで、さらに頑張ることができたという人もいた」
キャンペーンは昨年7月に予告サイトを開設して参加者を募集し、9月1日にスタート。開始時に約1万4000人が参加登録し、2カ月後に運動履歴を7割以上の日に登録をしている人は約1800人、12週間の最後まで続けた“完走者”は約700人となった。イベントの途中からテレビCMでも12週間健康チャレンジを告知したため、一部だけ参加した人はもっと多かったようだ。
終了後、花王は商品を提供したキャンペーンの公式モニター200人を対象にアンケートを実施したところ、食事は「腹八分目にする」という人が開始前の12%から終了後に36%まで増えるなど、食生活や運動の習慣に大きな改善が見られた。また、体重も「目標体重を達成した人もいるし、達成できなくても3kg~4kg減らして効果を実感した人も多い」(川北氏)と言う。
同キャンペーンの参加に当たって、ヘルシアを飲むことは義務ではなく、飲んだか否かを登録するだけだったが、実際には参加者の飲用本数も大きく伸びた。開始から2カ月後も継続していた約1800人の平均飲用本数は週に4.8本になったのだ。ヘルシアを継続して飲んで生活習慣を改善し、体重の減少に効果があることを実感してもらうという目標は達成できた。
予想以上の効果も生んだ。テレビCMの量は昨年とほぼ変わっていないにもかかわらず、9月と10月はヘルシアの売り上げが8月以前より伸びたのだ。「キャンペーン参加者の需要増だけでは説明できない規模」(川北氏)で伸びたと言う。
キャンペーン期間中、12週間健康チャレンジに関連するTwitterへの投稿が3万6914件(8月29日~11月30日)にも上った。製品サイトへのアクセスは、公式モニターの募集を開始した7月19日から9月30日までに40万PV(ページビュー)と前年比1.9倍に高まった。また、特設サイトのPVも同期間に20万に達した。こうした数字からは、キャンペーン参加者の周囲でもヘルシアの話題性が高まり、サイトへのアクセスや商品の売れ行きにも影響が出たことがうかがえる。

3月からの第2弾で真価問われる
今年3月12日からは第2弾を実施する。それに先立ち、2月1日から参加者登録の受け付けを始めた。第1回で売れ行きにも好影響が出たことも受けて、参加者の増加と継続率の向上を図って、さらなる売り上げ増加を目指す。

参加者増加のためには、全国約2000弱の人間ドックなどの検診機関で、スタッフ向けと検診を受ける人向けの2種類のパンフレットを配布した。検診機関は、ヘルシアのコアなターゲット層が集まるだけに大きな効果が期待できる。
また、3月から店頭に並ぶ商品にはキャンペーンを告知するシールを貼り付ける。さらに3月からのテレビCMでは、前回よりキャンペーン内容を分かりやすく伝えるクリエーティブとする。その他、販売店や交通広告などでも告知をする。
告知の受け口となる特設サイトでは、生活習慣の改善やヘルシアを飲む重要性を伝える「肥満と生活習慣、脂質代謝のメカニズム」と「高濃度茶カテキンの体脂肪低減のメカニズム」の2本の動画を追加した。また、第1回参加者の声やその体重減少例も紹介している。サイト来訪者に、モチベーションが高い状態で健康チャレンジに参加してもらうためのコンテンツだ。
また、「お客様のつぶやきをテキストマイニングしたところ、途中で挫折した人も最後まで続けたかったという悔しい思いがあることが分かった」(板橋氏)ことから、できるだけ続けやすくするようにサイトやルールを改善している。例えば、運動の記録は過去5日分までまとめて登録できるよう改めた。付け忘れによる離脱を防ぐ。さらに、1週間継続のプレゼントなど、短期間でも評価してあげることでモチベーションを維持しやすくする。参加者を増やし、継続率を向上させることで、さらなる売り上げ増加も期待できよう。
ヘルシアはボトル1本が189円と、同じトクホのサントリーフーズ「黒烏龍茶」などと比べ20円ほど割高な価格で販売されていることが多い。しかし、ソーシャルメディアと連携して継続的な飲用と運動を支援する12週間健康チャレンジが商品の付加価値のような位置付けとなり、効果を実感できるとなれば割高感は薄らぐ可能性もある。第2弾の成果によっては、花王の新たなソーシャルメディア活用法は商品の売り上げを伸ばす好例となりそうだ。