タミヤの自動車模型「ミニ四駆」がブーム再燃の兆しを見せている。
今年1月4日、東京の新橋にあるタミヤの直営店「タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店」に100人近くの行列ができた。お目当ては、ミニ四駆のパーツなどが詰まった福袋だ。150個を用意した福袋は1日で完売するほど盛況だった。
ミニ四駆と聞けば子供向け玩具と思われるかもしれないが、今回のブームでは子供だけではなく、20~30代も商品を買っていく。新橋に店舗を構えたことで、会社帰りに立ち寄れるようになった。また、過去のモデルの復刻が人気を集めたことで、一度ミニ四駆を離れた世代の心をつかんだのだ。この小さな火種を、大きな炎へと育てていきたい考えだ。
実のところ同社の売り上げシェアでは、ミニ四駆よりもラジコンカーの割合の方が高い。それでも、ミニ四駆を広めていきたい考えの裏側には、模型という商材を扱う同社特有の課題がある。
そもそもラジコンカーは高額だ。普段からラジコンを使わない人には購入の心理的なハードルが高い。言い換えれば、ラジコン事業は根強いファンに支えられている。
その根強いファンだけを見ていては、ますますマニアだけが購入していくことになり、一層ファン以外は手を出しにくくなる恐れがあった。「もっとライトなファンを獲得して底上げしないと、先細りは避けられない」(営業部営業課主事広報担当の三輪一正氏)。
ユーザーの動画を活用
そこでミニ四駆である。徐々にブームが再燃しつつある今、過去にミニ四駆で遊んだことのある20~30代の関心を、もう一度掘り起こす。そのための手段として、ターゲット層が駆使するソーシャルメディアをマーケティングに活用している。
タミヤがソーシャルメディアマーケティングで力を注ぐのが、「YouTube」や「Ustream」といった動画配信サービスだ。「ミニ四駆やラジコンといった当社の主力商品は、動きを見ないと魅力が伝わらない」とタミヤでソーシャルメディアマーケティングを担当する村田拓氏は言う。映像を見てもらうことで、商品の魅力をダイレクトに伝える。そのため、同社ではこれまでも、取引先や直営店向け用などに商品のプロモーション動画を撮影してきており、動画コンテンツを豊富かかえていた。

YouTubeでは、これらの動画に加えて、顧客が実際に遊んでいる動画を合わせて見てもらうことで、多角的なアプローチをタミヤは狙う。
もっとも、こうした動画はタミヤが用意したわけでなく、既にYouTube上に存在したものである。「タミヤの商品名などをYouTubeで検索すると、商品で遊ぶ動画が顧客によってたくさんアップロードされていた」ことにタミヤは気付いた。
YouTubeでは動画のプレーヤーの右側や、再生した後に、関連する動画が表示される。自社で持つ動画をYouTubeで公開すれば、キーワードなどで関連付けられて、顧客の動画を見た後にオフィシャルの動画を見てもらえる可能性も高まる。
あるいは、購入を検討している人がオフィシャルの動画を見た後に、実際に遊んでいる動画を見ることで、購入意欲が高まるとも考えられる。そこで、まずは過去に撮影したプロモーション動画をYouTubeで公開していった。
ライブ動画が話題呼びアクセス数10倍
YouTubeはオフィシャル動画とユーザーの動画を結びつけるために利用しているのに対して、Ustreamはイベントを実況中継するために活用している。
タミヤでは毎週、全国各地でラジコンやミニ四駆のレースなどのイベントを開催しており、手塩にかけてカスタマイズした自慢のラジコンカーやミニ四駆を持ち寄ったユーザー同士がしのぎを削る。
1990年代、タミヤはラジコンカーのテレビ番組「タミヤRCカーグランプリ」を提供したことがある。この番組はもともと社員が実況中継を担当しており、Ustreamを活用した実況中継の経験も蓄積されていた。この経験を生かした実況中継で、レースの生の熱狂を伝えることで、興味を引きつけることを狙う。

従来はコストと手間がかかったライブ動画の配信も、Ustreamを使えばノートパソコンやWebカメラ、マイクさえあれば、誰でもライブ動画を配信できる。「初期投資は10万円もかかっていない」(村田氏)。営業と広報担当者が二人三脚でカメラとマイクを使って、動画を配信する。
視聴者数は多い時には2万人近くまで達する。通常、タミヤが主催するレース関連のイベント会場の収容者数をはるかに超える規模だ。これだけ集まるのには訳がある。まず、毎月配信するイベントを番組表として自社サイトや「Facebookページ」などで事前告知する。熱狂的なファンはその予定を見たり、配信後のタミヤの告知を見たりして、Ustreamに集まり始める。
Ustreamの生放送は、視聴者が「Twitter」などを通じて投稿したコメントを動画再生プレーヤーの横に表示できるなど、ソーシャルメディアとの連携が強い。最初に集まったファンがコメントを投稿すると、Twitterを通じてそのファンのフォロワーにも生放送が告知されていく。
徐々に盛り上がり始めると、Ustream Asia(東京都中央区)がお勧めの動画としてトップページに表示してくれる。この時タミヤのブランド力が発揮される。
タミヤが動画配信しているらしい
赤と青の白抜きの星が並ぶロゴを見れば、多くの人がすぐにタミヤだと気付くだろう。「どうやら、タミヤが何か動画を配信しているらしい」。そんな風に引きつけられたユーザーが、動画を閲覧しにサイトを訪れる。
「イベントの会場を何となく通りがかった人にも見てもらえる」(村田氏)ような感覚だ。ソーシャルメディアの活用目的である、ライトなユーザーへのアプローチに成功していると言えそうだ。
レースの様子を見て、「ミニ四駆って懐かしい」「ラジコンカーって面白そう」と思ってもらえれば、まずは目的達成といえる。もっと詳しく知りたくなった人には、自社サイトに掲載している情報やYouTubeの動画に接してもらうことで、購入につなげることを狙う。
例えば、同社の人気ラジコンカー「アバンテ」を復刻した時、Ustreamで初めて試作品を公開したところ、それが掲示板サイト「2ちゃんねる」などに広がり、公式サイトのアバンテのページにアクセスが集中。その結果、自社サイトのアクセス数が通常の10倍以上になったことがある。
「TwitterやFacebookはあくまで、情報更新を伝えるポータルサイトのような役目」だと村田氏は説明する。顧客との話題の主役は、あくまで動画だ。今後は米国法人などと連携して、海外で商品を利用している動画を国内でも紹介する施策にも取り組んでいく。
日本とは異なるロケーションで遊んでいる動画を見てもらえれば、また違った魅力に気付いてもらえるかもしれない。デジタルマーケティングを使って、自社の本当の強みを生かすことに腐心するタミヤの姿勢に学べることは多い。