どのようなコミュニケーションをすれば、消費者から積極的な反応を引き出し、ロイヤルティを高められるのか。ソーシャルメディア活用において、いまだ基本的な部分で悩む企業が少なくない。

 アサヒビールの取り組みは、そうした企業に示唆を与える。広告宣伝費で国内企業の十指に入る同社は、実のところFacebook活用でも相当の巧者だ。

「企業Facebookページのエンゲージメント率ランキング」※2011年11月6日時点のデータ。直近30投稿のいいね!とコメントの合計

 ファン数は約4万2000人とさほど多くない。しかし、Facebookページのファン数に対して、投稿への「いいね!」や「コメント」といった反応が寄せられる比率、いわばページの活性化度合いを測った本誌の「エンゲージメント率調査(2011年11月実施)」で、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に次ぐ2位となった。

 企業はFacebookページの活性化度を上げるために、社員の顔写真を載せた投稿をしたり、キャラクターを立てたりと様々な戦術を用いる。単なる商品の宣伝と見られずに共感を得るためだ。しかし、アサヒビールで反響が高いのは商品情報の投稿だという。

商品紹介に800件以上のいいね!

 例えば、昨年11月に数量限定で発売した「初号アサヒビール 復刻版」の投稿には800件以上のいいね!が集まった。「飲んでみたい」「買います」など多くのコメントも寄せられている。

 下表のように、昨年10月の「東京スカイツリーデザイン缶」の新発売とプレゼントキャンペーン、同11月のベルギービールの「ステラ・アルトワ」の紹介の投稿などにも500件以上のいいね!が寄せられている。

 「新商品を紹介すればいいね!が集まる」と書くと、「なんて楽な…」と思う企業のFacebook運用担当者もいるかもしれない。もちろん商品力の強さが大きいだろう。しかし、単にそれを紹介すればよいわけではない。運営責任者のマーケティング本部宣伝部WEBグループリーダー担当部長の横山和幸氏はこう明かす。

 「ソーシャルの本質は、シェアしたいと思われる情報を提供して、お客さんに“いじって”もらうこと」

 スカイツリー缶であれば、温度によって缶に描かれたスカイツリーの色が変わるという特徴を訴求し、ステラ・アルトワであれば「『ステラ』とは『星』という意味。1926年に“クリスマス限定ビール”として誕生しました!」といった季節感を添える。投稿を見たファンが「これ知っている?」と友達に伝えたくなるのがポイントだ。

アサヒビールFacebookページの人気投稿例(いいね!数などは1月6日時点)

 こうしたテクニックだけではなく、ファンの反応を継続的に把握するPDCAサイクルを回してきたことが功を奏している。その過程で、「Facebookを始める当初は商品情報ばかりでも…と思ったが、始めてみたらそうではなかった」(横山氏)ということが明らかになってきた。

 Facebookページの運営は宣伝部の5人が担当。新商品の発売スケジュールやメールマガジン発行予定などを基に月間スケジュールを立て、投稿1週間前に内容を確定させる。非公開のFacebookページでテスト投稿をして、他のメンバーから意見を募る。投稿ガイドラインや投稿者のペルソナを明文化しているわけではないが、投稿者によって雰囲気が変わらぬよう、Facebookを最初に担当した女性を意識しているという。

 各投稿への反応は、Facebook標準の分析機能「インサイト」からアクティブユーザー数、いいね!の数、アクティブ率などを取り込み、Excelシートにまとめる。

 こうした計画、実行、評価を通じて商品情報への反応が高いことを把握。新商品だけでなく既存商品の紹介も時折織り交ぜるようにして、商品情報の比率を高めるように改善してきた。

EC売り上げは期待せず

 商品紹介と連動して自社EC(電子商取引)サイトへの誘導もしており、1投稿あたり千数百件のクリックがあるようだ。しかし横山氏は、「EC売り上げへの貢献はあまり期待していない」とそっけない。同社ECサイトを「収益を上げることは期待していない。コミュニケーション手段の1つであり、近くで買えない商品や通常の流通経路ではお客さまへお届けすることが難しい商品を買えるようにするのが役割」(横山氏)とみているからだ。

 また、Facebookページのファン数はメールマガジン読者数と比べて今は10分の1以下であり、地域限定などきめ細かな情報配信もできない。現時点ではサイトへの集客ツールとしてはメルマガに劣る。何より期待するのは顧客ロイヤルティの形成に寄与するかどうかだ。だからこそコミュニケーションの質にこだわる。

 今後、お酒の飲用量や銘柄などのアンケートデータとWebサイトの利用履歴データを突き合わせることで、Facebookページがロイヤルティ向上に効果を発揮しているかを調べる。Facebookページのファンのアサヒビールに対するマインドシェアが高まり、購買時に自然と商品に手が伸びるようになれば成功といえるだろう。

 ただ、横山氏はFacebookばかりに力を注ぐつもりはさらさらない。「Facebookマーケティング、ソーシャルマーケティングという表現があるがそれには違和感がある。マーケティングは売るための仕組みづくり。Facebookやソーシャルへの取り組みは全体の活動のごく一部にすぎない。お客さまとどうやってコミュニケーションを深めるかが本質であり、ソーシャルを使うことを目的にしてはいけない」と語る。

 ファン数はKPI(重要業績評価指標)には置かず、ファン拡大を加速させるようなFacebookアプリにも「人を増やせるが、継続してコミュニケーションができているか疑問がある」と対応を急ぐつもりはない。仮にFacebook以外のソーシャルメディアが広がっても、コミュニケーションを深める知見さえ得られれば、どこでも通用すると信じているからだ。

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