スニーカーと聞いて、真っ先にニューバランスを思い浮かべる読者の方はどれほどいるだろうか。この記事は、圧倒的な知名度を誇るとは言えない、そんなニューバランスが主役である。
アディダスやナイキなどに比べれば、少なくとも国内でのブランド力は強くない。いきおい、一般の流通大手におけるニューバランス商品の取り扱い店舗数は限られる。
そこで、ニューバランス ジャパンは、直営店とEC(電子商取引)サイトを使って直販比率を高める戦略に打って出た。人気ブランドでは、既存の流通販路への遠慮から、ECや直営店を経由した直販ビジネスの強化は声高には言いづらい。ニューバランスには、そうした気兼ねなど必要ない、とは言い過ぎか。直営店とECの両輪で攻める

いずれにしろ、同社の鈴木健マーケティング部長が明かす戦略は、なかなか野心的だ。「5年後には、売上高に占める直販の比率を2割まで高める」のだと言う。昨年9月に、同社はECサイトの全面刷新を実施した。既存の流通販路ではあまり多くの商品を店頭に置くことはできないが、自社のECなら思う存分にラインナップを展開できる。比較的安価な商品から、米国製や英国製の高級スニーカーまでズラッと並べれば、そこがニューバランスのショーケースになる。
サイトのデザインやユーザーインターフェースなども変えた。既に成功し始めている米国本社と共通のものにするなど、本腰を入れて取り組み始めた。
こうしてECビジネスを活性化することは、直営店の魅力を高めることにもつながっていく。ECサイトにおけるアクセス解析データを、店舗での商品展開やキャンペーンにも生かすことができるからだ。
「リアルの店舗では、売れた商品のデータしか取れないが、Webサイトなら、買ってもらえなかったがよく見られている商品はどれか、ということまで分析できる」。鈴木氏はそう見る。ECサイトでよく売れている商品はもとより、アクセス数の多い商品を、直営店で大きく紹介するといったことを展開していく計画だ。
在庫管理も効率的にできる。ECサイトの運営は同社の場合、リテール部門が担っている。ECで取り扱う商品はすべて直営店から配送することで、在庫管理がしやすい素地があった。
ニューバランスは、米アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏がファンだったように、コアなファンを抱えてもいる。その履き心地に惚れ込む人も多いとされる。コアなファンは、ブランドに対して高い価値を感じる固定客でもある。ニューバランスのスニーカーで、1万円後半から2万円台と高額の商品も人気を集めているのは、その証左にほかならない。
ファンを維持しながら、ECや直営店など直販ビジネスを展開していく。ニューバランスは、流通大手におもねらずとも成長を目指すメーカーの1つのモデルを示しているのかもしれない。