敷島製パンが運営するブログは会員制で、一般の来訪者は閲覧すらできない。会員登録しようにも、その方法はWebサイトに記載されておらず、あるのは「まずはメールマガジンにご登録を!!」というバナー広告のみ。オープンに情報発信することがファン作りにおいて重要と言われるソーシャルメディア時代において、このクローズドなブログは時代の流れに逆行しているかのように見える。ここまで会員を絞ってブログで情報を発信するのはなぜなのか。

選りすぐられた会員組織

 同社のお客様相談室には年間2万件を超える問い合わせが寄せられる。それにとどまらず、「待ちの姿勢ではなく、生地の食感に求めるもの、包装の改善案など、具体的な意見を聞きにいく」と総務部長の池田正明氏。そのために、ファンの組織化を目指した。それが「パスコ・サポーターズ・クラブ」だ。約1400人の会員が登録している。

パスコ・サポーターズ・クラブのトップページ。そこに「まずはメールマガジンにご登録を!!」の文字

 このクラブの会員になるには、2つのハードルがある。まずメールマガジンの読者になる必要がある。メルマガを受け取ってまで同社の情報を得たいユーザーに絞り込むためだ。

 会員登録の申込時には応募動機を記載する必要がある。これがもう1つのハードルだ。敷島製パンの担当者が、応募動機などを勘案しながら、景品目当てではない熱意がある人、と判断した人だけが会員になれる。毎年2000人程度の応募が寄せられるが、会員になれるのは300人のみだ。

 「会員になっても、景品がもらえるなどの特典はない。それでもアンケートなどに参加して、意見をくれる“本当のファン”だけを募っている」と開発本部マーケティング部販売促進グループの奈良岡舞氏は言う。金品のやり取りが発生しては、忌憚のない意見はもらえない。そう考えるからこそ、慎重に会員を選んでいる。

 金品は渡せないが、本当のファンにはより深い情報をいち早く届けたい。そこで開設したのが冒頭紹介した会員限定のブログだ。

 新商品をどこよりも早く紹介したり、キャンペーンの景品の製造現場などを紹介したりしている。また、会員から寄せられた、商品をアレンジしたレシピなども紹介する。ブログ以外では受け付けていない工場見学や試食会への招待もする。

 そんな会員組織だからこそ、このクラブでモニター企画を実施すれば、より具体的な意見が寄せられる。例えば、2011年2月に商品を刷新した「十勝つぶあんパン」で、刷新の約半年前、会員にモニター企画を実施したところ、「生地にモチモチ感が足りない」という意見が多かった。そこで生地に手を加えた上で発売した。

 このクラブは当初、お客様相談室の業務の派生として開設されたため総務部が運営を担っていた。これを昨年9月に、製品企画と販促部隊から構成されるマーケティング部へと運営主体を移管した。ファンから得た情報を生かしたマーケティング施策の展開を進めていくためだ。

 ソーシャルメディアで多くのユーザーと対話することは重要だ。だがそれだけではなく、本当のファンとの関係を築くことに目を向ける必要があることを、パスコ・サポーターズ・クラブは物語っている。