NTTドコモは今年10月、Twitter活用を本格化させた。従来は製品発表会の開催などに合わせて随時情報発信をしていたが、10月18日から毎日投稿する「常設アカウント」に変えた。その2日後には、Twitter Japan(東京都渋谷区)が提供する広告商品「プロモトレンド」を国内企業として初めて出稿するなど先進的な面もあるが、一般的には遅すぎる本格活用ともいえる。しかし、意外とこういう企業は多いのではなかろうか。

同社が公式Twitterアカウントを開設したのは2010年5月のことだった。常設化はその約1年半後となった。ここまで時間がかかった背景には、対話型であるソーシャルメディアにおいて、ユーザーからの問い合わせにどう対応すべきか、その方針をなかなか決定できなかったことがあるようだ。
NTTドコモは5900万人もの顧客を抱える。その一部がソーシャルメディア上で不満の声を上げたり、問い合わせをするだけでも影響は大きい。ソーシャルメディア上に拠点を置いて情報発信をすることで、不満の声を増幅しないだろうか、また個別対応をすべきなのか--。
こうした懸念は、ブランドを守るべき業界トップの企業ほど持つものだろう。とはいえ、スマートフォンブームの渦中にあり、新たなコミュニケーションを広める立場の携帯電話会社がTwitterにも取り組めないようでは先進性を疑われかねない。
そこで、NTTドコモはあるルールを決めて、常設アカウントの開始に踏み切った。Twitterのプロフィール欄に「個別回答は控える」ことを明記すること、そして問い合わせ窓口の案内ページへリンクを張ることだ。同時に自社サイトと効率的に一体運用をするために、担当部署を広報部からコーポレートサイトを管轄するマーケティング部に移した。
Facebookの経験が不安を解消
それでも残るユーザー対応への懸念、実はそれを解消したのが、先行して開設した公式Facebookページでの経験だった。
FacebookではTwitterと異なり、企業用には個人アカウントと異なる「Facebookページ」の仕組みが用意されている。投稿の文字数制限がないなど表現力は相対的に高く、マーケティングに活用しやすい。また、ユーザーは本名を登録するのが原則のため、場が荒れにくいとされる。
とはいえ、個別の対応はやはり難しい。そこで今年6月、「当Facebookページは、NTTドコモの製品や関連するサービスについて、ユーザーの皆様が語り合うために用意いたしました」と、ユーザーからの問い合わせに回答する場ではないと遠回しに宣言した上で、Facebookページを開設した。
同社はFacebookページで、新サービスやキャンペーンの情報を、毎日1件に限定して投稿している。「コーポレートサイトで伝えるべき20の情報のうちから1~2件を選んでいるような状況」と、マーケティング部WEB担当課長の山川聡氏は言う。
そこまで厳選するのは、「ソーシャルメディアは報道発表をそのまま転載するのではなく、ユーザーが面白い、得する、伝えたいという情報を発信することに意味がある」(山川氏)と考えるからだ。共有して広めてもらうため、社内各部署と調整して、投稿テーマを厳選している。

ウォールへの投稿だけでなく、2004年以降の主な端末を紹介する「HISTORY」や、新製品端末のレビューを書き込める「NEW PRODUCT REVIEW」といったコンテンツも提供して盛り上げを図り、現在では約17万人が「いいね!」を押してファン登録をしている。
ユーザーのウォールへの投稿はできないよう制限しているが、NTTドコモの投稿に返信する形で、投稿内容とは関係なくサービスや端末への不満、問い合わせが寄せられることもある。また、新製品端末レビューへ厳しい意見を書く人もいる。
当初の方針通り、NTTドコモはそうしたコメントに返答はしていない。すると、徐々にユーザーから「ここに書いても返答はないからドコモショップで問い合わせをした方がいい」と意見が上がってくるようになっている。NTTドコモは「どんな不満の声でもコメントを消すことはしない」、そして「問い合わせ窓口を明記する」という2つを基本方針に据えて、Facebookページを運営している。その結果、今までは大きく荒れるようなことは起きていない。
この経験があったからこそ、Twitterでも常設アカウントの開設に踏み切ることができた。
プロモトレンドでフォロワー拡大
10月18日の新製品発表会当日には、発表内容を次々と案内するTwitter投稿と映像中継を実施した。発表会の日はいつも、サイトへのアクセス数は通常の10倍規模になり、ネット上で大きな話題になる。そして、翌日は朝のテレビのワイドショーでも取り上げられるのが恒例だ。その盛り上がりをもう1日続け、常設化を広く伝えるために、今回はTwitterの広告であるプロモトレンドを20日に出稿した。
プロモトレンドは、Twitterのサイトの右側にある今話題になっているキーワードを一覧にする「トレンド」欄を使った広告だ。その最上部に広告主が指定したハッシュタグ(同じテーマの投稿に付ける共通のキーワード)を表示する。
NTTドコモは「ドコモ新製品発表」を同欄に掲載して、クリックすると同ハッシュタグを付けたNTTドコモとユーザーによる投稿を一覧表示するようにした。プロモトレンド出稿日、フォロワーは約1000人増え、現在のフォロワー数は4万1000人を超えた。なお、プロモトレンドの広告料金は通常、1日420万円となる。
NTTドコモがFacebookやTwitterといったソーシャルメディアを活用する第一の目的は情報の拡散だ。ファン数やフォロワー数に加え、Facebookであれば投稿の表示回数や反応率に注目して、どんな内容の投稿の反応が良いかを分析している。Twitterではプロモトレンドの活用で、新製品情報の拡散は加速したとみられる。
しかし、「(ソーシャルメディア活用で)より大切なのはどういうコメントが入っていて、それをどう生かすかだ」と山川氏は語る。Facebookに寄せられた声は月1回精査した上で社内システムを使って共有して、情報提供した部署にも見てもらうようにしている。長期的には、こうしたソーシャルメディアを通じて得られた声を生かした新サービスや製品の開発、そして、ロイヤルティが高く長く契約してくれる顧客の増加を目指していく。
ユーザー対応を懸念して、いまだ本格的なソーシャルメディア活用に踏み切れない企業にとって、NTTドコモの取り組みは1つのモデルケースとなるのではなかろうか。最終的にはユーザーとの対話を目指す企業でも、社内を説得する第1段階として一方通行のソーシャルメディア活用もあり得るだろう。