※本記事は【前編】、【中編】の続きです。
O2Oマーケティングにおいて、人を動かす要素の3つ目は「ゲーム性」だ。キャンペーンにゲーム性を持たせることも有用だが、ゲーム系SNSの利用が急伸する今はゲームと連動した特典を提供することで直接的な効果を得られやすい。その究極の事例ともいえるのが、位置情報連動ゲームの「コロニーな生活」だ。
限定アイテム提供で4万人が来場
このゲームを運営するコロプラ(東京都渋谷区)は、日本各地にある名産品の販売店や酒店といった店舗と提携して、ゲームのユーザーを積極的に店舗に誘導している。現在の提携店舗数は全国で121に達している。
コロニーな生活は位置情報を登録した時の移動距離に応じて得られる仮想通貨「プラ」をためて購入したアイテムで、自分の街を発展させていくゲームだ。特徴は、ネットとリアルが融合した点にある。
リアルの提携店舗で特定の商品を買うと、「コロカ」というカードを入手でき、そこに記された番号をゲーム上で入力すると限定アイテムを入手できる。その場所に実際に足を運ばないと手に入らないという限定感が、ユーザーの所有欲やほかのユーザーとの競争心をかき立てて、店舗に誘導していく。
「ユーザーへの課金と店舗に送客することで得られる手数料が当社の大きな収益源」と事業開発部の石渡亮介氏。
コロニーな生活のユーザー数は約220万人と、2000万人超のユーザーを抱えるGREEやモバゲーに比べると桁1つ少ないが、O2Oのマーケティングプラットフォームとしての実力は侮れない。

6月9日から15日の1週間、東急百貨店の吉祥寺店の8階催事場は人で溢れかえっていた。見渡すと客層は30~40代が中心。50~60代が多く訪れる普段の客層とは異なる風景が広がる。「初日は開店前から300人の長蛇の列ができた」(吉祥寺店営業統括部催事企画の桜井栄一統括マネジャー)。
お目当ては、コロプラと東急百貨店が共同で開催した物産展「日本全国すぐれモノ市-コロプラ物産展2011-」だ。コロプラの提携店舗のうち40店舗が出店したイベントである。
1週間で延べ4万人が訪れ、7000万円の売り上げにつながった。売り場は催事場の半分以下だったにもかかわらず、「催事場すべてを使った物産展にも匹敵する過去最大級の売り上げとなった」(桜井氏)という。
コロプラのイベントだけに、この催事でも商品を購入すると、限定アイテムを取得できるコロカをもらえる企画だった。ただ、それだけでは40店舗のうち複数の店舗で購入してもらうための動機としては弱い。
そこで、出店店舗を3つのグループに分けて、異なるコロカを用意した。つまり、すべてのカードを集めたいユーザーは少なくとも3つの店舗で商品を購入する必要があるわけだ。こうして1人当たりの購入金額を増やした。
SNS仮想通貨でファミマ来店促進
GREE、モバゲーなどと連動した企画を仕掛けているのがファミリーマートだ。来店者に「ファミコイン」を付与し、それをためるとアメーバ、GREE、モバゲーというゲームSNS系サイトの仮想通貨が当たる企画「ケータイファミマパーク」を実施中だ。スマポ同様の来店ポイントの一種だが、同社の狙いはまた別のところにある。

総合企画部マーケティング室コミュニケーション戦略グループの田中将彦マネジャーは言う。「ポイント=値引き=お買い得との発想でなくGREE、アメーバ、モバゲーのユーザーには何が一番効果的か。それを考えて(来店者への)コイン(付与)になった。(抽選という)エンタメ性も含んでいる」。
ケータイファミマパークは会員制の携帯電話向けサイトで、会員は来店時に情報端末の「Famiポート」にタッチするとファミコインが1枚もらえる。コインに換金性はなく、5枚のコインを集めると各サイトの仮想通貨1000円分が毎月合計300人に当たる懸賞に応募できる仕組みだ。非接触ICカード技術「FeliCa」に非対応のiPhoneなどでは利用できない。
企画は5月、アメーバ、GREE、モバゲーの公式アカウントを開設するのと同時に開始した。田中氏は、「ただ(SNSで)日記を書くだけでは差異化できない。文字だけの交流でなく店舗に来てリアルに感じてもらうにはどうしたらいいか。その中でスタンプラリーの発想が生まれた」と明かす。コイン取得は1店舗では1日1枚に制限されているが、異なる店舗なら新たに取得できる。一気に5店舗を回れば、1日だけでも抽選の権利を獲得できる。
10月のスマートフォン対応にあわせ、通常の懸賞に加えて500円相当の仮想通貨が3000人に当たるキャンペーンを同時に実施した。これにより、新規の会員獲得と既存会員の利用活性化を図った。
詳細な分析はこれからだが、費用対効果は「現時点では十分」(田中氏)との手応え。月30万円程度の仮想通貨であれば、広告宣伝費と比べれば微々たるものだ。仮想通貨なのでゲーム系SNS利用者にとっては同額現金以上の価値を感じてもらえているだろう。
来店だけでなく実売への効果もある。コイン取得者の半数以上は商品を買う傾向にあるという。安価な食品、日用品の新商品が並ぶ店舗であれば、来店ついでの買い物も誘いやすい。
今後は、各SNS上の日記で、「あなただけに先に教えます」といった購買動機を高めるコミュニケーション手法などを研究して、売り上げへの効果を高める考えだ。
O2O新手法で次世代の主役に
この10月にまとまった野村総合研究所の「インターネット経済調査報告書」によれば、ネットで喚起された購買の規模、いわばO2O市場の規模は約21兆8000億円に上ると推定されている。これは家計支出年報の店頭などでの消費の約19%を占める。EC市場規模である約7兆3000億円と比べても3倍の規模だ。
O2O市場は今後、拡大こそすれしぼんでいくことは恐らくないだろう。今起きているネット利用環境やサービスの変化をとらえ、新たな店舗集客手法を開発した企業こそが、次世代の流通、サービス業の主役になる。O2Oマーケティングは、それほどの可能性を秘めている。