グルメサイト大手のぐるなびの“新サービス”がちょっとした話題になっている。10月31日に、「私のおすすめ口コミ・メニューランキング」を開始して、飲食店のメニューに対するユーザーのクチコミや、投票した点数を表示してランキングで紹介するようにした。ユーザーからのクチコミ自体は2006年から掲載してきた。が、飲食店から掲載料を取ってサイト運営をする同社にとって、その飲食店のメニューをランク付けするのは、“禁断の木の実”とも言えることだった。

 それが、クチコミグルメサイト「食べログ」の追随かどうかはここでは扱わない。飲食店発の公式情報とともに、店舗利用者のクチコミもある方が集客に結びつき、飲食店の利益になる。熟慮の末に下したであろうぐるなびの決断は、現在、ネットでの情報提供を契機にリアルの店舗へ集客を促すO2O(オンラインtoオフライン)マーケティングに関心を持ち、どの程度まで踏み込んだ対応をすべきか悩む企業にとって、大切な示唆を与えている。

 ブームだからといって「O2O風なもの」に闇雲に取り組んでも、得られる果実は多くない。2000年前後に注目された「クリック&モルタル」も、オンライン店舗とリアル店舗の相乗効果を図るキーワードとして注目された。現在のO2Oでは、何が不可欠な要素となっており、どうすれば収益につながるのかを見極める必要がある。

 ソーシャルメディア普及以前は、店舗を魅力的に見せるテキストや写真、時にはお得な割引クーポンがあれば、その店舗を消費者が選び足を運んだ。ただこれは、考えようによっては、フリーペーパーに広告を掲載してクーポンを付ける従来のマーケティング手法をデジタル化したにすぎない。

 そこに大きな変化が起きた。クチコミ掲示板やソーシャルメディアの利用者が増え、その分野に詳しいほかの消費者の意見や多くの人の投票、そして信頼できる友人の意見が手軽に、そして大量に入手可能になった。その結果、友達の推奨や誘い、信頼できるクチコミなくしては、店舗へ足を運ぶ最終決断に至らないケースも増えている。

 現在のO2Oマーケティングにおいては、ソーシャルメディアとの連携や活用といった人を動かす新たな仕掛けが必須となる。その成否で、店への誘導力が大きく変わる。たとえそれが、従来のビジネスのやり方を大きく変えることになろうとも、取り組むための検討は価値がある。それを実証したのがぐるなびだ。ここから、いくつかの先端事例を紹介していこう。

ソーシャルメディア、人と人のつながりが強い動機に

 ソーシャルメディアの力をフル活用して店舗へ集客する、“ソーシャルバーガーショップ”ともいえる店が、米ニューヨークのマディソン街の一角にある。その名は「4food」だ。

 店内は高い天井と大きな窓、そこから太陽光が降り注ぐ明るくしゃれた雰囲気だ。「ジャンクフードからの脱却」とのメッセージを掲げマクドナルドの正面に店を構える挑発的な面もある。

“ソーシャルバーガーショップ”ともいえる「4food」は顧客が独自メニューを作成、宣伝する

 4foodのユニークさは、自分好みのハンバーガーを作れることと、それが人気メニューになれば「4food$」(クーポン)がもらえる仕組みにある。自分のメニューを自慢し、皆に注文してもらいたければソーシャルメディアを活用して、自分が広告塔となって知人を店に呼び寄せる。顧客に顧客を連れてきてもらうというわけだ。

 店舗にはいくつもの「iPad」が置かれている。4foodではこのiPad、もしくは自分が持ち込んだネット端末で同社のサイトにアクセスして注文する。様々な素材を組み合わせて、オリジナルバーガーを作ることができる。

自作メニューがネットで公開

 注文が完了すると、4foodのサイトの「Trending Burgers」の欄に、注文時に自分が付けたバーガー名が表示される。これを見て、他の人が同じバーガーを簡単に注文できる。カウンターの上部に設置されたディスプレイやサイトでは「Top Sellers」のランキングも表示され、1位の顧客オリジナル商品は1200回以上の販売数を誇った。

 独創的な自作ハンバーガーのメニューがサイトに公開されることで、「こんなの食べたよ」とソーシャルメディアへ投稿する人も現れる。友人が作ったとなれば、一度は食べて感想を伝えてあげようと思う人もいるだろう。誰もが共通に楽しむ「食」の話題はクチコミを呼びやすい。ソーシャルグラフ(ソーシャルメディア上の人間関係)を通じて店舗に客を呼び込む。これが「4food流のO2Oマーケティング」だ。

 投稿を後押しする仕組みもある。4foodでは自作バーガーが売れると、0.25ドル分の「4food$」が手に入る。自分のハンバーガーを積極的に友達へ宣伝すれば、1個当たり0.25ドル相当分が自分のポケットに入ってくるというわけだ。

 購入された商品をリアルタイムにサイト上に紹介していくことや、一般消費者に報酬を出して商品を紹介してもらうアフィリエイトは、EC(電子商取引)サイトでは既にあった仕組みだ。それをリアル店舗での集客に応用した4foodは、ソーシャルメディアを活用したO2Oへのヒントを与えてくれる。

mixi連動企画で42万枚クーポン

 国内事例も紹介しよう。ミクシィとエフエム東京が実施した“ソーシャルラジオ”企画に集まった130万人にクーポンを提供し、延べ42万人を店頭に集客したのがローソンだ。

 「ウイダーinゼリー」「大人のキリンレモン」などを無料提供するクーポンは確かに魅力的だが、サイトで告知しただけでは42万人の店頭集客は難しい。8月に実施した同キャンペーンの中核となったのが、エフエム東京のラジオ番組「SCHOOL OF LOCK! サマースクール presented by AXE」だ。ラジオの聴取者が、番組と連動したmixi内のキャンペーンサイトにログインすると、mixi上の友達と共にラジオ番組をネタにチャットしながら楽しめるようにした。開始日と最終日を比べると、mixiで一緒に番組を楽しむ人数は5倍に伸びたという。

 その番組連動サイトにログインすると、ローソンで販売する商品のクーポン引き替え用のQRコードを入手できるようにした。番組の放送開始と同じ午後10時から“先着”で提供を開始したことと、クーポンの告知ページには「mixiチェック」ボタンを置くことで、「友達へ伝えよう」という情報共有の意識を刺激した。その結果、実生活でつながりがある学校の同級生と一緒にクーポンを取得して、ローソン店頭に行くこともあっただろう。

ローソンの「ソーシャルメディアクーポン」のサイト

 同企画を機にローソンは「Twitter」「Facebook」「GREE」「モバゲー」などのソーシャルメディア公式アカウントからクーポンを告知する「ソーシャルメディアクーポン」を開始した。9~10月には4つの企画を実施して、クーポン発行の上限枚数は合計80万枚以上にも達した。「ユーザー間での拡散効果もあり、クーポン提供時にすぐに配布終了となることも多く、認知の向上や来店に役立っている」(同社)。今後、クーポン利用商品と同時に他の商品を買う比率や金額を検証して、売り上げ拡大の効果を高めていく。

中編後編に続きます。