1つのブランドで14ものスマートフォン、タブレット端末用アプリを提供する。リクルートの不動産・住宅情報サイト「SUUMO」は、スマートフォンの将来性に確信を持ち、多大な力を注いでいる。主力の物件検索アプリ「SUUMO」は11月8日に100万ダウンロードに達するヒットアプリとなっている。

 「スマートフォン利用者は増え続け、3年後、5年後は住宅検討層にデジタルネイティブが占める割合は高くなる。その時に最適なアプローチ手段としてスマートフォンが欠かせない。これはSUUMOスタッフの共通認識で、現時点の費用対効果だけではなく未来も考えた結果、このアプリ数になっている」

 リクルートの住宅カンパニーSUUMOネット推進室カスタマー集客・サービス設計開発グループカスタマー集客施策チームの古瀬康介チームリーダーはこう語る。

SUUMOの主なスマートフォン、タブレット端末アプリ

 スマートフォンの将来性に期待を寄せる企業は多いが、それを14ものアプリという形に落とし込むのは、なかなか容易なことではない。しかも、アプリの目的を大きく3つに分類した上で提供している。(1)物件情報の提供と資料請求の獲得、(2)ブランドエンゲージメントの向上、(3)住宅ローンのシミュレーションなど顧客への利便性の提供(ユーティリティー)――だ。多機能なアプリを1つ出すのではなく、3G回線でダウンロードできる最大のアプリ容量20MB(iPhoneの場合)を上限に設定して、機能を切り分けて極力小サイズにしながら提供している。

20カ月で25回以上のバージョンアップ

 中核となるのは物件検索のSUUMOアプリだ。iPhone、Android端末、iPadなどに対応する。提供開始から20カ月目となる今年11月に、iPhone、AndroidとWindowsPhone用アプリのダウンロード数が累計100万件に達したヒットアプリだ。

 ここに至る過程ではiPhone版、Android版ともに25回以上のバージョンアップを重ねてきた。

 古瀬氏曰く、「ユーザビリティーはとにかくこだわった」。

 SUUMOがいかに豊富な物件情報を提供したとしても、アプリの使い勝手が悪くて利用者が情報にたどり着く前に嫌気がさしては、高い評価は得られない。アプリ配信サービス「App Store」のカスタマーレビューでは、アプリの種類を問わず使い勝手に関するコメントが目立つ。この評価が悪くてはダウンロード数の増加も見込めない。

 「導線の設計はPCサイトの踏襲でなく、ゼロから考えて作った」と古瀬氏が言うように、外出先での移動時間などに使うことも多いスマートフォンのデバイス特性を考慮しながら、なるべく最少のタッチ数で物件情報にたどり着くことを最優先に考えた。

 また、「現在地から探す」機能は当初、検索結果を通常と同様に物件リストで表示していたが、地図上に表示するように改めた。検索条件に一致する物件の場所にピンが立つ。現在地から探そうという利用者は値段や間取りより「場所」を重視しており、土地勘がある場合も多い。それならば地図で位置関係を把握できた方が使い勝手が上がると判断したわけだ。

アプリでSUUMOへの好意度向上

 一方、ここ1年に力を入れているのがSUUMOのブランド強化だ。ここにもアプリが重要な役割を果たす。住宅検討の中心層となる30代のビジネスパーソンへのエンゲージメント強化を狙い、ゲームアプリや絵本アプリを4本出している。「SUUMO NINJA」などは、キャラクターの「スーモ」が活躍する手軽なアクションゲームだ。

 住宅購入は人生において常に考えるものではない。子供が小学校に入る、ならば住宅を買おう…。そうしたときに、SUUMOをすぐ思い出し、サイトを訪れてもらう。ゲームアプリは、その前段階からブランド認知を高める役割を担う。

 ゲームはアプリの中でも人気分野で、世界各国のゲーム専業メーカーが優れたアプリで競っている。どうやって利用者数を伸ばすのか。工夫の1つが、ゲーム内仮想ポイントの連携だ。ゲームで獲得したポイントをSUUMOの他のゲームでも利用できるようにして、1つのゲームに飽きたユーザーを別のゲームに誘導している。

SUUMOのスマートフォン戦略

 また、ゲームアプリを担当する住宅カンパニー企画室ブランドマネジメントグループブランドチームリーダーの田島由美子氏は「ゲームを通じてみんなが協力する機会を提供することが、人を呼び込むことに有効」と語る。実際にそれを実感させる出来事があった。提供ゲームの1つ「SUUMO JUMP」では、各プレーヤーが遊んだ時のスコア(到達距離)を合計して、一定期間内にスーモを地球から遠く離れたスーモ星に到達させる「スーモ星をみんなで目指そう」という企画がある。

 この企画が巨大掲示板「2ちゃんねる」利用者の注目を集めて、「スーモジャンプのアプリでスーモ星を目指さないか?」というスレッドが立ち、SUUMO JUMPのプレーを呼びかけた。今年5月のことだ。その話題はTwitterでも広がり、1日のダウンロード数は通常の10倍に伸びたという。

 ゲームを通じたSUUMOブランドへの頻繁な接触は、その好意度を高めることも実証できている。SUUMOではテレビCMの展開に合わせて半年に1回、消費者へのアンケートを実施しており、マスコミ、ソーシャルメディア、ゲームなど複数の機会でSUUMOに接触した人ほど、SUUMOへの好意度が上がる結果が出た。

保守費用は欠かせない

 スマートフォン、タブレット端末の積極的な活用が目立つSUUMOだが、それ故の苦労もある。古瀬氏は「コスト(費用対効果)の最適化は継続的に検討していく必要がある」と明かす。同じようなアプリをiPhone、Androidの2つのプラットフォームに提供する場合でも、そのコストは「1.2倍程度でなく、きっちり2倍になってしまう」(田島氏)のが実情だ。

 今後は、物件検索アプリの使い勝手向上のためパソコンサイトとスマートフォンアプリのID連携を実現させる。ニーズはあると分かっていながら、スマートフォンアプリ単体の使い勝手向上を優先させて後回しにしてきた課題だ。外出先でスマートフォンを使って検索し、自宅でゆっくり精査する。そんな利用法にも対応する。ユーザビリティー重視で常に改善を繰り返していく考えだ。