
ユニクロが10月14日、ニューヨーク5番街にオープンした、同社にとって世界最大の「グローバル旗艦店」は、 新聞など従来型広告に加えて、店舗内に多数設置したデジタルサイネージで、ブランドと商品の紹介に力を注いでいる。これはNECなど2社が供給するデジタルサイネージシステム。21日にオープンする34丁目店と合わせて、計430パネルのディスプレイを展開し、「服も日本の文化なら、ハイテクも日本の新しさということでアピールしたい」というファーストリテイリング柳井正会長兼社長の狙いを表現した。


店内は、契約店舗面積2500坪のうち、売り場面積は1400坪という、広々とした余裕ある間取り。正面入り口から入ると、3階に通じる長いエスカレーターが3台あり、お客を3階のメインフロアに導く。その通路を中心に床から天井までのスクリーンを配置し、NECのコンテンツ配信システムを使って、映像を日本国内からニューヨークを含めた海外店舗に配信する仕組みだ。
まず目を引くのは、46インチ液晶ディスプレイを縦に4台、横に4台並べた巨大スクリーンで、ユニクロ店舗としては世界初。開店初日には、マンハッタン中で展開された広告や移動販売店の映像のほか、米国人スタッフのトレーニングの様子を映したビデオが流れ、開店に向けた興奮を盛り上げた。開店後は、超軽量コートの「ウルトラ・ライト・ダウン」など主力製品の映像と価格が表示されている。
このほか、同じ46インチディスプレイを縦に4台並べたスクリーンでは、女優スーザン・サランドン、ニューヨークの人気レストランシェフのデビッド・チャンなどが、ユニクロ製品を身につけた映像を流し、ライフスタイルについて語った言葉をテキストで表示した。「ニューヨーク中の人がユニクロを着ている、あるいは着ることができるのをアピールするために、ニューヨーク文化を代表する人々の映像を用意した」(広報チーム長谷太介氏)。

店内映像は自社サイトと連動
映像は、ユニクロのホームページにある「ボイス・オブ・ニューヨーク」と連動しており、ホームページを見れば、スーザン・サランドンほかニューヨーカーの起業家やアーティスト、学生のライフスタイルやファッションに対する考え方をビデオで視聴できる。

スーザン・サランドンは、5番街店のオープニング・パーティの鏡開きとオープン時のテープカットに参加し、柳井会長が「自分にとってのアイドル」と紹介した。ビデオでは黒いカーディガンとストレートジーンズを着こなし、女優であると同時に、環境問題などの活動家になったきっかけを語った。

この縦4面スクリーンでは、モデルがユニクロを着た等身大の静止画面も表示することで着こなしの例が分かるようにした。これは、タイ1号店などでも採用されたものだ。
このほか、ヒートテック製品を陳列した長い通路には、黒地に赤い文字でヒートテックを宣伝する電光掲示板を両側に配置している。原宿店などにも導入したもので、 ヒートテックを知らないニューヨーカーに、繊維自体が発熱する日本の技術力をファッションに生かした防寒製品であることを全面に打ち出す。
また、店舗正面のショーウィンドウ内やエレベーター内では、ユニクロのロゴのみを表示し、ブランドの定着を狙っている。
デジタルサイネージを展開した狙いについて、広報チームの長谷氏はこう語る。
「2005年からニューヨークSOHO店があったが、米国のユニクロはまだ産声を上げたばかりという認識。このため、ユニクロのロゴをアピールし、ユニクロって何? と関心を引くことと、ユニクロ商品を着たらどうなるの? という疑問を解決できるようにした」

コンテンツは日本で管理
コンテンツは日本のグローバルコミュニケーション部で作成し、データセンターで管理する。店舗の特徴を考えて映像を変えたり、価格表示の通貨を変えたりするだけで、海外店舗に様々な映像を配信できるため、グローバルなマーケティング展開がしやすくなる上、コストも削減できる。
デジタルサイネージのシステムを供給したNECによると、NECとソフトウエア開発会社ミラクル・リナックス(東京都港区)が新たに共同開発したLinuxベースのセットトップボックスを使って、複数のディスプレイ間でコンテンツの同期を実現し、動きのある複雑なコンテンツをスムーズに表示できるようにした。
実は、ユニクロ5番街店の並びには、人気カジュアルファッション「ホリスター」の大型店がある。ホリスターは店舗正面にショーウィンドウはなく、大型のス クリーンにリアルタイムで波が打ち寄せる海岸の映像を表示。店内に多数あるスクリーンもすべて海岸の波の映像で、店内モデルも1年中水着を着用して、リゾートカジュアルの雰囲気を盛り上げている。このホリスターのデジタルサイネージに比べると、ユニクロは、柔軟なコンテンツの表示が可能で、差異化を図っている。
柳井会長は、ニューヨークで高額のリース契約をして世界最大の店舗を出した狙いについて、「経済がグローバル化する中、チャンスは日本以外にある。チャンスがある海外の競争に参加していかないと、自滅するのではないか。今回こうして、世界最大の店舗を手に入れられてラッキーだ」と語った。
5番街店のオープン前に期間限定店11店をリース契約して、イベント会場などで宣伝する6台の移動型コンテナ店舗を使って、Tシャツ、ウルトラ・ライト・ダウン、ヒートテック、カシミヤセーターの主力商品を販売した。このほか、5番街の街灯に下げる旗や地下鉄広告などもユニクロロゴ一色にしたほか、開店当日は、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなど主要紙で一面広告を出した。
開店に向けて、どこもかしこもユニクロロゴという宣伝で、開店前に2000人が並び、終日店の外に長蛇の列が続いた。訪れたお客に話を聞くと、「地下鉄の広告を見て、興味があって来た」、「店の前を通りかかったら、広告で見たロゴだったので、中が見たくて入った」という声が聞かれ、大量投下した広告の威力を感じさせた。こうした効果に加え、今後はデジタルサイネージと実際のショッピングで、ユニクロの商品価値を知った人々がニューヨークに増える中で、新たな集客につながっていくのかが注目される。