国内でも米アップルのiPhone向け広告ネットワーク「iAd」の配信が始まった。最初の広告主はトヨタ自動車で、8月から広告を配信。9月27日にはキリンビールも始めている。
新しい形態の広告として米国では昨年、鳴り物入りで始まったiAdだが日本ではひっそりとした船出となった。
キリンは、この企画が初めての本格的なモバイル広告となる。従来のモバイル広告は小さなバナー広告や、テキスト広告などが中心のため、ブランドイメージを伝えるのは難しいとの判断だったという。
ただ、若者のモバイル利用時間は増加するばかりで、“酒離れ”が進むといわれる20代男性にアプローチするには、モバイルは無視できない存在だ。目を付けたのが、利用者が急拡大するiPhoneだった。同社がiAdに対して持つ印象は、これまでのモバイル広告とは大きく異なる。
「動画や診断企画など、コンテンツと広告が一体となったiAdは、今までのモバイル広告とは全く違う体験を与えられる」と、キリンビール営業本部マーケティング部企画担当メディア戦略グループの小川直樹氏は言う。これなら、ブランディングにも活用できると踏んだ。iAdに出稿した広告で訴求するのは「キリンフリー」や「氷結」といった若者をターゲットにしたブランドだ。

見て、タップして、体験するiAdは接触時間の増加が期待できる広告だ。「滞在時間や動画の再生回数は、想定していたよりも多い」と、滑り出しは順調だと小川氏は語る。
静かに船を漕ぎ出したiAdが、順調に航路を進むかどうかは、広告料金に見合った成果を広告主に与えられるかどうかによる。というのも、iAdの広告料金は従来のモバイル広告よりもかなり高額だからだ。
「iAdが日本で始まってから広告による収益は約3倍になった」。iPhoneアプリ開発会社スタジオルーペ(東京都港区)のリオ・リーバス社長は言う。
iAdのクリック数がわずか9回だった日も、別の広告ネットワークの160クリックに相当する17ドル20セントの報酬を得られたとリーバス氏は説明する。「iAdが軌道に乗れば、開発者にとって高収益を得るチャンスが広がる」。
裏を返せば、広告主にとっては高い広告ということだ。にもかかわらず、広告を掲載するアプリを選べないなど、広告の掲載場所を気にする広告主にとっては使いづらい。
表示された広告への滞在時間や動画の再生回数がブランド力の向上や売り上げに結びつく。それを示せなければiAdという船は順調には航路を進みづらくなるだろう。