相場の2倍以上の価格でも、通常の3倍以上のペースで売れているブーツがある。千趣会が今秋発売した「3フィットロングブーツ」だ。EC(電子商取引)サイトを通じて集めた顧客の声を商品企画・開発、販促に生かしたことがヒットの秘訣だ。

通販カタログ「ラ・フィット」の3フィットロングブーツ紹介ページ

 同社のECサイト「ベルメゾン」内の「大きいサイズSHOP」や、大きなサイズ専門の女性向け通販カタログ「ラ・フィット」で販売するこの商品は、「ややゆったり」「ゆったり」「もっとゆったり」という、つつ周りの3つのサイズを、足のサイズごとに用意。太った人でもブーツをすっきりと履きこなせることで人気を集めているのだ。

 価格は1万2800円。同商品の開発を担当した商品開発本部アウターウェア開発部アウター商品企画チームの田中麻衣子氏によれば、「日本製の合成皮革のブーツなら9800円、中国製では5980円」が相場なので、実に2倍以上の価格となるのにこの売れ行きだ。

 この商品だけでなく大きいサイズSHOP、ラ・フィットの売れ行きは好調だ。EC事業本部販売企画部販売企画1チーム参事の中村裕美子氏は、「大きいサイズの商品は、千趣会の新規のお客様の獲得につながっている」と明かす。

モニター会発の商品は外れ無し

 「足のかかと部分とふくらはぎが少しきついけれど、全体的な履き心地は楽ですね」

 千趣会の商品開発では、ターゲット顧客層4~6人に同社の会議室やグループインタビュー専用スペースに集まってもらう「試着モニター会」をよく開催する。試作品を持って行き実際に試着してもらい、意見を聞く場である。通常は3時間程度、意見交換が盛り上がると4~5時間になることも珍しくない。

 中村氏は、「普通のカタログだと、意見を集めても想定内のものが多いが、ラ・フィットの場合は言われて初めて気付くことが多い」とモニター会の効用を語る。

 今年2月に開発をスタートした3フィットロングブーツでも試着モニター会を2回開催し、前述のような意見が寄せられた。こうしたモニター会員は、大きいサイズSHOPのサイトで募っており、約150人が登録している。モニター会を通じて開発した商品はラ・フィットだけで約20商品。そして、「(モニター会を実施すれば)外れる商品はまずない」(中村氏)というから効果は絶大だ。

 モニター会は開発途上における顧客の声の活用だが、ニーズ発掘、企画の段階でも顧客の声が生かされる。その声を集める手段が、大きなサイズSHOPに設置された「ご意見BOX」だ。フォームを通じて「このサイズ、アイテムが欲しい」「太い腕でも着やすいデザインを」「モデルもぽっちゃりした人がいい」「背が高い人向けの商品を増やして」など、毎月100件近い意見が寄せられる。

 とはいえ、単に一部の意見を取り入れて商品を開発すると失敗することも少なくないという。定量調査と掛け合わせることで、ヒットにつながる声が見えてくる。年2回はラ・フィットのカタログ利用者数千人を対象にアンケートを実施し、商品を購入した理由、しなかった理由などを徹底的に調査する。

検索キーワードと連動すれば意外な発見

 中村氏はまた、商品開発のヒントを得るためネット上の検索キーワードの動向もチェックしている。その動向と顧客の意見を結びつけると意外な発見があるという。

 「季節ごとに『大きいサイズ』と一緒にどんな言葉が検索されているかを調べている。『フォーマルウエア』『水着』は定番だが、『エプロン』の検索も一定量ある。多い理由が分からず悩んでいたところ、ご意見BOXに法事や幼稚園のイベントでエプロンを着る必要があるという意見があり、そこで結びついた」

大きいサイズSHOPのブログでは売れ筋商品をタイムリーに紹介

 さらに、販促段階でも顧客の声は欠かせない。

 開発過程やモニター会の様子を通販カタログで訴求することで、利用者視点に立った商品であることを理解してもらいやすい。また、モニター会を開いていることなどは、アフィリエイトで商品紹介してもらう際に他社との差異化ポイントになる。

 大きいサイズを求めるナマの声は商品説明文や、「大きいサイズSHOP」ブログの原稿に散りばめられ、SEO(検索エンジン最適化)効果によって、そうしたキーワードで探す人を集客することに貢献する。また、最近ではモニター会から読者モデルが生まれた。この秋冬モデル向けカタログでは巻頭の主力商品の紹介ページに登場し、読者に好評だ。

 顧客の声は、数を多く集めれば成功するわけではない。田中氏は、「おしゃれをしたい気持ちが前面に出てくる人もいれば、あまり目立ちたくない人もいる。感度の高い人に合わせて作ると売れないことも多い。その中間を取ることに腐心している」と語る。ECサイトならナマの声を集めることは簡単だ。それを生かす体系だった取り組みや、真のニーズを見極める社員の経験値の蓄積が、ヒット商品を生み出せるかどうかの境目となる。

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