ウォルト・ディズニー・ジャパンほど強力なコンテンツを持っていれば、顧客とのやり取りや日々の情報配信といった手間のかかるソーシャルメディア活用のマーケティングなど無縁。そう考えがちだが、実際のところ同社は「Twitter」「GREE」「モバゲー」など、様々なソーシャルメディアやソーシャルゲームのマーケティング活用に積極的な1社である。

 ソーシャルメディアマーケティングに力を入れる狙いについてウォルト・ディズニー・ジャパンの担当者は「ブランドが強いのはファンがいるからこそ。そのファンを大切にできるのが、ソーシャルメディア時代のマーケティング」と説明する。

 同社のソーシャルメディア活用の目的は2つある。顧客との対話やファンへの情報発信などによるブランディング、販促を目的としたマーケティング活用がその1つ。もう1つが、ソーシャルメディア上でデジタルアイテムなどを販売する「ソーシャルメディアビジネス」だ。

ウォルト・ディズニー・ジャパンのソーシャルメディア戦略は2つの軸に分けられる

Twitterの意見から商品化

 まず、ソーシャルメディアのマーケティング活用について、とりわけ大切にしているのが顧客の声だ。例えば、ソーシャルメディア経由のコメントや意見を、次なる製品開発やマーケティング戦略の改善に生かす事例も増えているという。

 実際、Twitterの投稿から、プレゼントキャンペーンの域を超えて商品化に結びついたものもある。10月8日に発売したディズニー・モバイルという携帯電話の新機種発売にあわせて、6種類のデザインから好きなケースがもらえるキャンペーンを実施することを事前に告知すると、開始前からソーシャルメディア上で話題となった。この反響から、キャンペーンとは別に、年内に2種類のケースを発売することを決めた。

 Twitterといった第三者のサービス上で情報の発信・収集をする一方で、実は自社でもソーシャルメディアを開発している。それが、仮想空間サービス「マジックキャッスル」だ。目的は「子供が楽しめるメディアを作ること」と同社。

 ディズニーのファンには大人も多いが、子供が育っていく中でキャラクターに愛着を持ってもらうことも重要なマーケティング戦略だ。子供と親の間にディズニーという共通言語があれば、グッズなどの販売につながる可能性も高まる。

 メディアといってもテレビや雑誌では、ディズニーのコンテンツに能動的に触れてもらうのは難しい。かといって一般的なソーシャルメディアは、安全性の面から子供に使わせたくない親も多い。

 「ソーシャル」としての要素を取り入れながら、子供が安心して遊べる仕組みを自社で構築した。それがマジックキャッスル。メールアドレスなどを入力せずとも登録でき、自分の分身であるアバターが各ユーザーに与えられる。

 マジックキャッスルという街を探索して、ゲームで遊んで仮想通貨を取得してアバターを着飾ったり、カードを集めたりして遊ぶことができる。簡易的ではあるものの、ソーシャルの要素も盛り込むことに同社はこだわった。つながりを持つことが、継続的な利用につながると考えたからだ。

 例えば、取得したカードはマジックキャッスル上の友人にプレゼントできる。そのときに送ることができるメッセージは定型文のみで、テキストを打って送るメッセージ機能はない。だから、子供でも安全に使えるというわけだ。

 このマジックキャッスル、マーケティングにも同社は活用している。例えば映画「くまのプーさん」の公開にあわせて、プーさんをテーマにしたアバターを配布するなどした。それをもらった子供が、親に画面を見せながら「プーさんが可愛い」と言ったとしよう。親がテレビCMなどで映画の公開を知っていれば、映画館などへ来てもらうことも期待できる。

 マジックキャッスルが使えるのはパソコンだけだが、それでもユーザーは210万人に達しており、月間100万人がこのサイトにアクセスする。月間ページビューは5000万超で、会員は月平均1時間を費している。会員の半数以上が15歳以下だというから驚きだ。同社にとって、マーケティングを展開するプラットフォームの一翼を担っている。

矢継ぎ早にゲームを展開

 そして、もう1つの目的であるソーシャルメディアビジネス。

 同社は今年、4月にはモバゲーにディズニーランドをテーマにした「ディズニーマイランド」、10月にはGREEにディズニーストアをテーマにした「マイ・ディズニーストア」と矢継ぎ早にソーシャルゲームの提供を進めている。いずれも、課金型でデジタルアイテムを販売して、テーマパークやストアを充実させていくゲームとなっている。ゲームを通じてアイテムを販売することで収益を上げつつ、毎日ディズニーのキャラクターに触れてもらうことでブランディングも狙う、という戦略だ。

 「米国ではソーシャルメディアといえばFacebook一色だが、日本でもそうなるとは限らない」と同社。だからこそ拠点を広げて、それぞれのメディアのユーザー属性を見極めた上で、訴求したい映画や商品に合わせたメディアミックスをできる体制を整えていく考えだ。

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