夜8時過ぎ、閉店時刻まで1時間を切った新宿マルイ本館の客足は、夕方のピークを過ぎて落ち着いてくる頃だが、8階の一角にある専用カウンターには、会社帰りとみられる女性が数人、急ぎ足で訪れる。
彼女らが向かう先は、丸井グループが提供する「マルイウェブチャネルパーク」。「ネットで選んでマルイで試着」というキャッチフレーズの通り、同社のEC(電子商取引)サイト「マルイウェブチャネル」で注文した商品が数日以内に指定店舗に届き、ここで商品の受け取りや試着・購入ができる。

ネット販売は、書籍やCD/DVD、型番のある家電・AV、パソコン関連製品には向いているが、ファッション関連商品は難しい--。EC業界には長らくこんな見方が支配的だったが、ファッションモールサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの躍進は、その常識を覆した。
やっぱり試着してから買いたい
それでも、「『質感やフィット感は実際に見て試着してみないと分からない』というニーズは依然として強い。また、宅配便の受け取りのために早く帰宅するより、仕事帰りに自分の都合で店舗に立ち寄って受け取れる方が便利という声も多く聞かれる」と同社広報室室長の武内泰樹氏は言う。ECでは買い物額が1万円未満だと配送料がかかるが、店舗受け取りならもちろん配送料は無料だ。
マルイウェブチャネルは2006年に開設しているが、当時はカタログ通販事業をネットからも注文できるようにするというコンセプトだった。この位置づけが変わったのが2009年。ファッションEC専用事業者の成長を受け、丸井は店舗を持つことのメリットを生かしたECモデルの考案を迫られた。
議論の対象となったのは、カタログ通販利用層とネット通販利用層の違いについて。前者は、多忙で店舗になかなか行けないため仕方なくカタログを使う。だが後者は、納得の商品を選ぶために情報収集に積極的で、実物を見て試着できる機会があるなら足を運ぶ手間をいとわない。
つまり、店舗への来店客とカタログ通販客はあまり重ならないが、来店客とEC利用客はいまやほぼイコール。ネットで下調べをして店頭で実物をチェックし、見込みと違うとその場でケータイから別の商品を探し始める、という具合に、店舗とECとの間をシームレスに行ったり来たりしている。
こうした買い物行動に対応したサービスとして、“ネットで選んでマルイで試着”という構想が浮かび上がった。2009年4月に完成した新宿マルイ本館に、店舗とECの連結拠点となるウェブチャネルパークを開設し、以後、池袋、静岡、なんば、横浜、京都と現在6店舗で展開している。
ついで買いにも期待がかかる
パーク内にはパソコンも設置している。すそ上げなどその場で採寸して“お直し”もできるため、この待ち時間は店舗にいながら、ECサイトを訪れてもらう機会になる。商品を受け取った顧客が帰り際にECで見た別商品をチェックしに階下のフロアを訪れ、うまくするとシャワー効果による“ついで買い”にも、同社の期待が膨らむ。
もっとも、商品受け取り・試着後のついで買いが起きているかどうかはまだ検証できていない。ウェブチャネルパークの場所は、最上階のカード会員カウンター脇に設置している店舗が多く、このカウンター周辺の店舗は時計や眼鏡など、ついで買い・衝動買いがどちらかといえば起きにくいがものが多い。
そのため、今春に関西圏では神戸、なんばに続く3店舗目としてオープンした京都店では、パークの設置場所を3カ所に分散し、レディス・メンズ・シューズの売り場内に配置した。
丸井グループの2011年3月期の連結売上高は4065億円で、通販事業の売り上げはその約5%に当たる200億円。同じ期に連結売上高が238億円に達したスタートトゥデイに追い抜かれた。丸井は早期に連結売上高の10%、400億円規模に乗せて巻き返しを図りたい考え。そのためにも、店舗とECの行き来をさらに活性化させる策が必要だ。

店舗とネット通販の融合を目指す同社は、2008年にネット通販専用の物流センターを埼玉県三郷市に開設済み。店舗の在庫と連動させ、品切れの場合は店頭在庫から発送する仕組みを整えている。
また、ECサイトで取り扱う一部商品で店頭在庫を表示するサービスも開始した。在庫状況の更新は1時間ごと。対応商品が増えれば、ネットで“下見”してから店舗へという「O2O(オンライン・ツー・オフライン)」の買い物行動がさらに加速することが期待できそうだ。