BtoB(企業間)ビジネスの営業と聞けば、見込み客から問い合わせを受けた営業担当者が客先に赴いて、製品の特長や導入メリットなどを説明する、といった様子をイメージするのではなかろうか。とはいえ、全国に営業拠点を持つ大企業なら対応も容易だが、多くの拠点を持たない企業では、営業担当者の数そのものも限られる。訪問できる客先の数はもちろん、足を運べる地域にも制限がつく。

 もし、数百万円規模の商談で、客先を訪問せずとも成約に結び付けることができれば--。

 営業の効率性向上が期待できるのはもとより、拠点は1つでも、全国を対象とした営業も可能になる。

 そんな理想的なマーケティングを実現している企業の1つが、レンタルサーバー事業のKDDIウェブコミュニケーションズ(東京都千代田区)だ。同社は、顧客ごとにサーバーの構成をカスタマイズして提供するサービス「カスタマイズエンジン」の販売促進に、この4月からブラウザーで利用できるチャットを活用している。

訪問ナシで受注

 「チャットで対応した企業のほとんどが、営業担当者の訪問なしで導入を決めていただけます」

4月に導入したチャットが営業活動の効率化に貢献

 同社でチャットを担当する事業推進本部CPI営業部の佐竹恭輔氏は、こんな効果を実感している。「数百万円の規模にも関わらず、お客さまと今まで一度も会ってない案件もあるんです」と佐竹氏。チャットの導入が営業の効率化に大きく貢献している。

 サーバー活用といった専門知識が必要となるようなサービスの場合、サービスの特長や導入によるメリットを伝えるには、説明を受ける側にも相応の知識が求められる。例えば、先方がサーバーの乗り換えを検討しているのであれば、まず使用しているサーバーの構成や用途を相手から説明してもらうことで、より具体的な提案につながる。

 あやふやな提案では最初から相手にしてもらえない。関心を持ってもらえたとしても、メールや電話だけでは伝えづらく、結果「よく分からないので、会社までお越しいただいて、当社のサーバーを見てほしい」となりがちだ。

 同社が導入したチャットであれば、相手が持っているサーバー構成などの資料を、チャットを通じてアップロードしてもらうことができる。相手にサーバーの知識がなくても、営業担当者がその資料に目を通した上で、自社サービスのメリットを説明できる。また、チャットでのやりとりで用途を詳細に聞いて、その段階で見積もりを試算して提供することも可能だ。

 従来はKDDIウェブコミュニケーションズにおいても、導入を検討している企業から問い合わせを受けた際には、営業担当者が客先に足を運んで、サービスを説明したり、見込み客の要望を聞いたりして、制約を獲得してきた。しかし、このサービスの営業担当者はわずか3人。人数が限られるだけに、「問い合わせすべてに対して訪問するのは、非常に非効率だった」と、事業推進本部CPI営業部の長尾佑人ゼネラルマネージャーは言う。

顔を見せて安心感を与える

 利便性が高いとはいえ、初回の問い合わせからチャットを利用する人は少ない。そこで、KDDIウェブコミュニケーションズは、最初に電話やWebサイトで問い合わせ受けた時に、訪問を強く希望する場合を除いて、チャットでやり取りすることを先方に勧めている。

 もっとも、チャットと聞くと多くの人が無機質な文字のやり取りを想像されるだろう。営業活動において、担当者の人となりは、制約に結びつく重要な要素の1つでもある。だからこそ同社では、チャットでも担当者の顔を見せることにこだわる。

 取引額が大きくなることの多いBtoBビジネスだから、顔を見せることで、リアルの商談に近い状況を作り出し、相手に安心感を与えるように務めているのだ。

 チャットの専用サイトには、営業担当者の顔と名前が掲載されているため、チャット利用者は次回問い合わせ時には、最初に話した人を指名できる。担当者は会話のログを引き出すことで、チャットの内容と、その会話の中で先方からもらった資料を参照しながら、きめ細やかな対応ができる。

 訪問せずとも、実際の商談に近いやり取りができるビデオチャットの活用は、地方からの受注増にもつながっている。下の図は導入前後の地域ごとの受注の割合をグラフ化したものである。

チャット導入前後における地域ごとの受注割合の変化

 関東地方は、その売り上げ比率こそ下がっているが、売上高は導入前よりむしろ上がっている。その関東地方の伸びを押さえて、地方の比率が上がる結果となっている。

 最も増加した九州・沖縄地方からの受注は4.8ポイント増加した。そのほか、近畿地方が2.9ポイント増、近畿地方は3.9ポイント増、中国・四国地方は2.1ポイント増となっている。受注のカウント方式が若干異なるため単純比較は難しいが、長尾氏は「地方開拓には確実に貢献している」と説明する。BtoBビジネスを手掛けており、営業の効率化を考える企業は、KDDIウェブコミュニケーションズの手法を自社にも応用可能かどうか、一考してみる価値はあるだろう。