東日本旅客鉄道(JR東日本)は10月4日から、スマートフォン向けの無線ネット接続サービス「山手線トレインネット」の試験提供を山手線で始めた。対象車両は1編成のみで、約1カ月の運行となる。今回の試験を通じて利用者の動向を分析し、実用化へとつなげたい考えだ。

 山手線トレインネットでは7つのコンテンツを配信する。「駅・乗換路線」「車内状況」のコンテンツはJR東日本自身が用意し、電車が走っている地域に連動したニュース、クーポンなどを取得できる「お得情報」や、車内に設置した液晶ディスプレーに配信する広告と連動した情報を配信する「トレインch+」などは、広告主や第三者が用意する形となる。利用者は性別や年齢などの情報を登録すれば利用できる。

10月4日から1カ月間運行する「山手線トレインネット」対応車両

 このサービスに対し、JR東日本は2つのことを期待している。まず、新しい収益モデルの構築だ。試験提供を通じた実証実験に参加する再春館製薬所などは、車内で配信する動画広告と、それに連動したコンテンツの提供をしている。それらの使われ方を調べながら今後、動画を見たユーザー限定の割引キャンペーンで直接通販につなげる可能性を探っていく。

 駅構内の商業施設「エキュート」の情報提供や、コンビニエンスストア「NEWDAYS」で使えるクーポンを配布することで、それらへの集客にも活用する。JR東日本は長期経営戦略の中で、そうした「生活サービス事業」の収益拡大を戦略の1つとして挙げており、その推進のためにもスマートフォン向けの情報提供に力が入る。

NEWDAYSで使えるクーポンを配信

 もう1つは、JR東日本が持つ路線への乗車を促すこと。そのためまず、今いる地域に関連した情報を提供して、お得感や利便性を訴える。

 「沿線ニュース」では、現在いる地域に関連したニュースが表示される。ゆくゆくは、今停車中の駅周辺のイベント情報や、クーポン配布なども実現させて、お得感を演出したい考えだ。

 利便性については、例えば、電車の車両ごとの混雑状況がリアルタイムに分かるメニューを提供する。本来は、ブレーキ制御のための社内情報だが、これを今回初めて一般向けにも公開した。

 例えば駅で電車を待っている間に、次に来る電車の車両ごとの混雑状況を調べられるといった機能の付いた乗り換え案内のアプリの提供も視野に入っている。「利用者の声などを参考に、新しい活用方法を見つけ出したい」と、JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所情報デザイングループの松本貴之氏は言う。

 このほか、弱冷房車がどの車両かといったことも、車内状況のメニューで提供する。また「ただいま神田駅」、「次は東京駅」といった具合に、スマートフォンの画面がリアルタイムに変化し、現在地を分かりやすくする。お得感と利便性で、利用者を拡大していく。スマートフォンのマーケティング活用は、西日本旅客鉄道(JR西日本)も積極的に展開しており、JRグループはそれぞれの方法で、新たな収益源を模索している。

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