ご覧の読者限定サイトで6月に公表した企業Facebookページのエンゲージメント率調査で1位になったKDDI(au)の携帯電話ブランド「iida」(関連記事「Facebookページの活性化を知る『エンゲージメント率』、1位はKDDIの『iida』」)。

 ファン数に対するいいね!件数とコメント件数の比率であるエンゲージメント率は、ファンの積極的な参加度合を示す指標だ。ファン数が1万人以上のFacebookページの中でiidaはトップに輝いた。

 KDDIがiidaのFacebookページを開設したのは、同シリーズのスマートフォン第1弾となる「INFOBAR A01」を発表した5月17日。その3日後には、いいね!を押したファン数は1万人を突破した。同社は、既存顧客への働きかけ→ファン拡大→エンゲージメント率向上→EC(電子商取引)サイトの売り上げ向上、というFacebook活用の勝利の方程式を自ら完成しつつある。

“萌え”が押し上げるエンゲージメント率

iidaのFacebookページ

 エンゲージメント率を押し上げている要因の1つが、“萌え”というキーワードだ。

 「INFOBARのお客様、ファンの方に“萌え”を感じて、喜んでもらうことを意識している。ターゲットは(INFOBARが好きな)“濃い方”に限られているので、そこは緊張もしながら、お客様は何を求めているかを考える」と、宣伝部コミュニケーション戦略グループ課長補佐の吉村桃子氏は言う。

 具体的にはFacebookの「ノート」機能などを使った読み物と、参加型キャンペーンに大別される。

 読み物では、INFOBARのデザイナーである深澤直人氏、ユーザーインターフェイス(UI)を設計したデザイナーの中村勇吾氏、UIのデザインチームへのインタビュー記事が続く。また、iidaのサイトで連載するコラム「リコメンドアプリ」をFacebookページでも紹介していく。

INFOBAR+YOUの投稿作品例。Facebookの「Like」ボタンで投票できる

 参加型キャンペーンでは、9月8日に自社サイトとFacebook連動させた「INFOBAR+YOU」を開始した。ホーム画面を自分好みにカスタマイズできるINFOBARの特長を生かして、ユーザーに自分のホーム画面を投稿してもらい、TwitterやFacebookで人気投票を実施する。

 また、ホーム画面を投稿すると、放映中のテレビCM「INFOBAR+YOU」編に自分のホーム画面が登場するオリジナルのネット動画が作成される。これを、TwitterやFacebookで共有して、INFOBARの話題を広めてもらうという仕掛けだ。9月24日には投稿件数は2400件を超えた。

 このようにiidaのFacebookページは、これから買う人より既に買った人が楽しめるコンテンツが多い。吉村氏も「商品を持っている方に、もっと愛して、もっと楽しんでもらうことを考える。売るためだけのFacebookページとは考えていない」と説明する。

 Facebookページは情報を伝えるだけでなく、顧客がいいね!を押したり、コメントしたり、投票したりと積極的に参加してもらう場所だ。ページ開設当初の投票企画以来この方針は一貫しており、顧客の行動を通じてiidaの話題が周囲に広がっている。

ECサイトは前年比倍増ペースの売り上げ

 エンゲージメント率の高いFacebookページは、ECサイトの売り上げ拡大にも貢献しつつある。

 同シリーズのアクセサリー用品を販売する「iida SHOPPING」の商品をFacebookページで告知すると、即座に売れ行きに反応が出るという。今夏は、デザイン性に優れたACアダプターをFacebookページで告知したところ、それが好評で、アクセサリー販売サイトでの売れ行きが上がった。

 また、9月15日に動物をデザインした携帯クリーナーの商品写真をFacebookページへ投稿したところ、約280件の「いいね!」が付くほどの反応があった。投稿の表示回数は10万回以上。ほかの投稿とは、1けたも2けたも違う結果となった。熱心なファンが集まるだけに反応は絶大だ。

最近の主な人気投稿(いいね!やコメントといった反応率の順)

 iida SHOPPINGはユーザー専用のスマートフォンサイトを主な集客経路としているが、Facebook効果もあり、売り上げは「前年比の倍増ペースで拡大している」(プロダクト推進部プロダクトデザイングループ藤間良太氏)と好調だ。

 8月下旬にはFacebookからECサイトへの導線を強化するため、Fコマース(Facebook上のEC)サイト「iida SHOPPING on Facebook」を立ち上げた。数ある販売商品の中からINFOBARの新モデル用商品をセレクトして紹介。商品の詳細を知りたい、購入したいユーザーを本体のECサイトへ誘導する。

この8年の蓄積がものを言う


 もっとも、「勝利の方程式」を描けるのには、もう1つの理由がある。

 2003年に初代の「INFOBAR」が発売されて以来、iidaシリーズ(2007年までは「au design project」)は、その個性的なデザインで熱心なファンに支持されてきた。

 そんな基盤があればこそ、Facebookページ開設直後の今年5月20日に投稿した「初代INFOBARの中で、一番好きなカラーバリエーションは?」という質問に、8年前の機種の話題にもかかわらず1300件以上の回答が寄せられる結果を得た。長年のファンが、INFOBAR復活に一気に飛びついたのだ。

 こうした熱気が、ファンの友人を通じてFacebook中に蔓延し、ファン数を着実に増やし続け、現在ではその数が3万人を超えるまでに至った。

 スマートフォン人気で活況を呈す携帯電話業界において、携帯通信事業者は大きな転機を迎えている。端末開発の主導権が基本ソフト「Android」を持つグーグルや端末メーカーに移り、同じ端末が複数の通信事業者から出ることも珍しくない。今夏では、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの人気機種「Xperia acro」は、NTTドコモ、KDDIの両方から発売された。

 KDDIが「iPhone 5」を発売したとしても、ソフトバンクと競うことになる。コンテンツ、サービスもパソコンベースのものが広がる。どうやって、他社と差異化をしていくか……。大きな課題となっている。

 こうした背景を受け、デザイン感度の高いユーザー向けだったINFOBARはauの独自性を訴求できる貴重な財産となり、看板モデルへと位置付けが変わった。Facebook効果もあってか、INFOBARの出足は好調だという。そうした影響もあり、7月のスマートフォン販売台数は、KDDIがソフトバンクモバイルを上回ったもようだ(BCN調べ)。

 現在の課題は運営負荷だ。「週3回以上は投稿していく」(吉村氏)という目標を掲げつつも、「運用は大変、忙しい日は100%の仕事負荷が120%ぐらいになる」(吉村氏)とぼやく。ファンからの投稿は「自分のFacebookアカウントをチェックするついでに電車の中で見るから大した負担ではない」(吉村氏)と言う。しかし、こうしたやり方にはいつか限界が来るかもしれない。

 「今は(iidaシリーズのスマートフォン第1弾が)発売されたばかりだからネタはあるけど1年後に何をやるかは…」と漠たる不安も抱える。発売直後であれば、Facebookページの盛り上がりが販促につながる実感も得られ、力も入る。しかし、次の端末発売への端境期となると、120%の力を出し続けるのは難しいかもしれない。

 とはいえ、iidaの取り組みは既存の顧客、ファンの熱意をFacebookページを通じて発露させ、潜在顧客層への宣伝活動に結びつける、Facebook活用のモデルケースの1つとして学ぶべき点は多い。

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