※本記事は次世代ECが動き出す【前編】の続きです。
課題2 リピート利用を促したい
【大手メーカーのEC】10年後もダイキン指名買い、その、したたかなEC活用術
顧客とのつながりを強化して、自社製品のリピート購入につなげるCRM(顧客関係管理)の重要性が高まっている。
大規模プロモーションをたびたび展開しては、その都度商品を売りっぱなし。そんな時代はとうに過ぎ、販売後も顧客と直接対話をして関係を深め、リピート購入につなげる。あるいは顧客のニーズを正確に把握した上でのモノ作りにメーカーは取り組んでいくべきだろう。そんな活動に実際に取り組み始めたのがダイキン工業だ。
同社が6月に開設したコミュニティサイト「ダイキンの考えるお店 Community」には製品の開発秘話、製品が紹介されたメディアの案内、そしてその商品に関するアンケートと過去のアンケートの回答結果などを掲載している。掲載した情報を案内するメールマガジンも配信しており、誰でも無料で登録できる。
このコミュニティサイトを軸に顧客と対話をして関係を強化する。そしてダイキン製品のリピート利用を促すきっかけにしていく。「不満も含めて、真剣に意見を寄せてくれるような顧客と対話をしたい」と、空調営業本部・事業戦略室・商品企画担当課長の酒井茂孝氏。このサイトの担当者である。
商品への感想を得るためブロガー向けモニターキャンペーンを実施する企業も多い。ただそれでは、「100点満点の答えしか返ってこない」ことを酒井氏は知っている。
では、どうやって“真剣な顧客”を集めるのか。うってつけだったのが、6~7月に相次ぎ発売した、2つのリモコンを活用することだった。旧機種のエアコンを“バージョンアップ”させる機能を持っている。
1つが「soine」。このリモコンを使って旧型のエアコンを動作させると、人の睡眠の深さに合わせて設定温度を自動で変化させることができる。もう1つが「ミハリモ」だ。高まる節電志向に応えるためsoineをベースにプログラムを書き換え、わずか3カ月で開発した製品だ。時間ごとに設定温度を自動で変えたり停止したりできる。電力使用量のピーク時に自動的にエアコンを切るといったきめ細かな調整が可能になる。

ダイキンはこの2製品を自社ECサイト「ダイキンの考えるお店EC site」限定で発売した。家電量販店などを経由せず直接販売すれば、顧客の情報が直に手に入る。了承が得られれば使った感想なども取得できる。
2つのリモコンに爆発的な売れ行きを期待してはいない。「100人が買ってくれれば、その100人としっかり関係を作って感想や意見を取得する」(酒井氏)のが狙いだ。その対話で支持を得られた際には、次世代のエアコンにsoineやミハリモの技術を搭載していきたいという。
この購入者と対話を続けながら、今後もこうした“アイデア製品”を開発し、自社ECで先行販売しながら意見交換を続けていく。その中で、「ダイキンは製品を買った後も、しっかりアフターケアをする企業」というイメージが定着すれば、買い換え時に再びダイキンを選んでくれたり、自社が持つ他の商品を買ってくれる優良顧客の獲得につながっていく可能性が高まっていく。
課題 3 価格競争から決別したい
【独占的に販売】ナチュラム、「ココでしか買えない商品」で競争回避
価格比較サイトやECモールの価格順の検索機能、大手EC事業者を中心に急速に進む送料無料化。EC業界の価格競争は激しさを増すばかりだ。これに真っ向から挑んでも、体力勝負による消耗戦に明日はない。こうした価格競争からの脱却として1つの方向性を示すのが、ECサイト「アウトドア&スポーツ ナチュラム」を子会社を通じて運営するミネルヴァ・ホールディングス(HD)だ。6月に仏アウトドアメーカー大手のオキシレングループとの業務・資本提携し、オキシレンブランドの商品を日本で独占販売することで、価格競争からの脱却を目指す。
ナチュラムは、釣具メーカーのナカジマが1996年と早期にネット通販事業に参入したのが原点。後に実店舗をすべて閉鎖し、2007年にはヘラクレス市場(現ジャスダック市場)へ上場、EC界のスタープレーヤーとなった。
時代の寵児も、激しい価格競争やリーマンショック後の消費低迷で経営が徐々に厳しくなり、2011年1月期にEC事業の営業損益は赤字に転落した。
EC業界の激烈な価格競争に送料無料化の流れ。「あと数年も(体力勝負に)付き合っていたらまずいことになる」。同社の及川信宏副社長が危機感を募らせていた頃、仏オキシレンから業務・資本提携の打診を受けることとなる。同社は世界17カ国でスポーツショップを展開する。17を超えるブランドを持ち、約7000億円の売上高を誇る。
ミネルヴァHDとオキシレンとの付き合いは、2年前にさかのぼる。オキシレンは日本参入を目論み、テストマーケティングの場を探していた。声をかけたのがミネルヴァHDだった。
及川氏は、オキシレンが展開する「Quechua」(ケシュア)のポップアップテントに目をつけた。獲得したかったのはアウトドアのエントリーユーザー、特にファミリー層である。まず、アウトドアの楽しさを知ってもらい、徐々に高額商品の購入につなげる。最初のきっかけとして、ワンタッチで設営でき、撤収も簡単というQuechuaのテントはうってつけだった。
これが売れた。「しかも日本市場では独占販売のため、価格決定権は当社にあり、利益率も高い」と及川氏。
本格的に日本市場に参入したいオキシレン、販売好調だった人気商品を独占的に取り扱いたいミネルヴァHD、双方の思惑は一致した。ミネルヴァHDはオキシレンとの業務・資本提携を決め、27.41%の資本参加を受けた。
もっとも、独占販売権を得たとはいえ、それだけで売れる商品とはならない。オキシレンの商品の本当の良さを知ってもらうには、ブランディング戦略も欠かせない。今秋に大阪市内に実店舗を再び開設するのはそのためだ。扱う品数も現在の30万点を50万点まで拡大する予定だ。
Quechuaブランドでエントリーユーザーを増やし、アウトドアに興味を持ってもらう。何度もキャンプに行くうちに、もっといい機材が欲しくなるはず。その時には、取りそろえたアウトドア有名ブランドで顧客を迎え、アウトドア市場の底上げを狙う。

【SEO対策でギフト需要創造】産地・銘柄の呪縛から脱却、ブランド確立の京都の米店
産地と銘柄で価格相場が決まる米。同じ産地・銘柄でも出来は違うはずだが、ECではその違いを判断できず、消費者は最後は価格で選ぶことになりがちだ。しかし、米のECサイトを運営する八代目儀兵衛(京都市下京区)は、「お米のギフト」という新たな需要を掘り起こし、価格競争から脱却した。
通常の米のECサイトなら銘柄や無洗米といった米の種類がメニューに並ぶ。ところが同社のサイトには「出産内祝い」「結婚内祝い」といったギフトメニューが並んでいる。

2006年のECサイト立ち上げ当初から、2種類の米をブレンドした「良縁米」を販売し、2008年には「出産内祝い」など40種類以上のギフト販売ページを設けて、ギフト目的の顧客を中心に集客すべくサイトを刷新した。商品の価格は米の相場ではなく、3000円、5000円、1万円などギフト商品の相場を意識するようにしている。
SEO対策を施し、「内祝いギフト」などの検索結果で上位に表示されるようになった。その結果、メディアからの取材依頼も舞い込むようになり知名度も上がった。売り上げは毎年2倍以上のペースで伸び、2011年7月期は4億3000万円に達した。
しかし、今春以降は東京電力の原発事故に端を発した米の安全性問題が影響を落とす。ギフトだけに少しでも不安があれば購入されない。また、仕入れ値が上昇しても、切りのいい商品価格を100円、200円とは値上げしづらい。「2万5000円、3万円の高額ギフトにも挑戦したい」(橋本隆志社長)と窮地を逆手に新たな需要開拓に臨む。
【顧客ニーズに即応】他社より2.5倍高でも購入、「カミカウ.com」の不思議
「バレンタイン企画ならこんなデザインはどうでしょう」「一回り小さい方がかわいいと思います」
よくある商品企画会議の一場面と思われるかもしれないが、意見交換をしているのはブロガーだ。その意見に耳を傾けながら、企業の担当者がメモを取っていく。
トイレットペーパーやティッシュペーパーを販売するECサイト「カミカウ.com」を運営する森実商事(愛媛県四国中央市)は、ユーザー参加型の商品開発会議を実施している。同社のターゲットである主婦層に、商品開発の段階から参加してもらうことで、顧客とのキズナを深める。同時に、募った意見を反映した商品を開発することで、価格競争との決別を実現している。
ブロガーを集める方法としては、アライドアーキテクツ(東京都渋谷区)が提供する、ブロガー向けモニターサービス「モニプラ」を活用している。このサービスを使って座談会への参加者を募ると、毎回50~60人の応募が集まるという。その中から、7~8人のブロガーに声をかけて、実際に参加してもらう。
例えばバレンタインデーの企画。同社が通常販売しているバラの香りがする赤色と黒色のティッシュペーパーを基に、新たに開発した商品を季節限定で販売した。具体的には「箱はもっと小さい方がいい」というブロガーの意見を参考に箱を小型化して、ピンクを基調としたデザインなどを採用。価格も座談会の意見を参考に525円と設定して販売したところ、以前の季節限定商品と比較して2倍も売れた。
座談会の参加者にとって自分の意見が商品に反映されれば、その企業への愛着が強まることだろう。本人は恐らく購入するだろうし、その商品の情報をブログなどを通じて読者や友人に広めてくれる。それが、普通のティッシュと比べて2.5倍も高いのにもかかわらず、同社の商品が売れる結果につながっている。