レギンス人気や990円ジーンズの台頭で、青色吐息のジーンズ業界。「04ジーンズ」で一世を風靡したボブソンが5月に民事再生法適用を申請。「501」シリーズを擁するリーバイ・ストラウスジャパンも経営環境は厳しい。
反転攻勢を目指すリーバイスは8月9日、世界24カ国同時展開のグローバルキャンペーン「GO FORTH」を開始した。「必要なのは自らの手で未来を作るその意思。迷わず踏み出せ」というメッセージの意図や狙いを米リーバイスのFacebookページを通じ解説する。そこに国内からアクセスすると、7月から日本語表示されるようにして1万件近い国内ファン数を獲得した。
グローバルマーケティングチーム メンズマーケティング部長の中道大輔氏は、「リーバイス発の情報に積極的にアクセスするファンは、ECサイトへの遷移率、購入率ともに高い」という。根強いファンとの交流がブランド再生のカギを握っている。

リーバイスが打ち出した市場打開策は、次のようなものである。
(1)価格競争との決別:総合スーパー(GMS)向けの低価格帯商品から撤退し、1万円以上の商品に特化する戦略を打ち出した。価格競争による消耗戦を回避し、百貨店や専門店などに販路を絞ってブランドの値崩れを防ぐ。
(2)リピート利用の創出:中道氏は高価格帯のターゲット層として「かつてよく購入した、リーバイスブランドに愛着のある30代から40代半ば」の掘り起こしを掲げる。この年代でジーンズに1万円注ぎ込める層とFacebookユーザー層は、確かに相性が良さそうだ。
(3)新規顧客・需要の開拓:(2)を通じて「カッコいい大人」を増やすことが、それに憧れる20代以下の若者を引き連れてくる図式を描いている。
読者の方ならお気づきかと思うが、これらリーバイスの戦略は、ジーンズあるいはアパレルに限らずECを手掛けるすべての企業にとって、実現したい項目であり、それができない悩み事にもなっている。
そこで本特集では、「新規顧客・需要を開拓したい」「リピート利用を促したい」「価格競争から決別したい」と考える企業に対し、それぞれの項目の先進事例をケーススタディとして紹介していく。また本誌11月号と12月号にかけて、「ソーシャルメディアとうまく連携したい」「自社店舗に誘導したい」「顧客の声を商品に生かしたい」と考える企業の方向けに、先進的に取り組む事例を詳報していく。
課題1 新規顧客・需要を開拓したい
【360度マーケティング】新規率7割の「クリニーク」、イベント絡めてアプローチ
米エスティローダーの高級化粧品ブランド「クリニーク」のECサイトは、実に利用者の70%が新規顧客だという。テレビCMや雑誌広告、バナー広告、SEO(検索エンジン最適化)や検索連動型広告、ソーシャルメディアの活用、タイアップ広告、リアルイベントといった、全方位から消費者へアプローチする、「360度マーケティング」を実施した結果といえる。
クリニークがECサイトを開設したのは2009年末のこと。百貨店に151店舗を持つクリニークだが、若い世代の百貨店離れ、高まる消費者のオンライン志向を背景に、ネット通販に乗り出した。百貨店ブランドでは珍しく顧客層は20代から30代が約6割を占める。新規顧客開拓を目的に開設した2011年6月期のECサイトの売上高は、販売目標を20%以上超える成果を上げている。

最大の成功事例が、美容液「ダーマ ホワイト CL302」と「ダーマ ホワイト シティ ブロック ポリュテクション 40」を舞台にした360度キャンペーンだ。期間中の2月末には2週間、オンライン限定サンプルを1万点配布した。
キャンペーンの目玉はクリニーク初の試みとなるランニングイベントへのブース出展だった。3月6日の「渋谷表参道 Women’s Run」では2400点のサンプルを用意。この種のイベントへの化粧品メーカーの出店は珍しかったこともあり行列も絶えなかった。
キャンペーン直後、ECサイトには両商品のカスタマーレビューがそれぞれ約600件も集まった。ダーマ ホワイト CL302は発売2年目を迎えた今春以降も前年の売り上げを上回る異例の好実績となり、クリニーク美容液の中で売り上げナンバーワンとなっている。
新規顧客の開拓に成功している理由について、エスティローダークリニーク事業部の日高千絵マーケティング本部長はこう語る。「全くの新規顧客というよりも、これまでの広告宣伝活動や、@cosmeのような化粧品のレビューサイトでクリニークに関心を持っている、でも百貨店には行かない人たちを取り込んだ結果です」。
サンプル配布や先行発売が有効
広告やイベントでアプローチした消費者をECサイトへ誘導するにはサンプル配布やサイトでの先行発売などが有効だ。5月の「BBクリーム30」発売時には、店頭での発売より1カ月ほど前にECサイトで販売を始めた。新商品への期待感を高めつつ、多数のレビューを集めながら、そしてリアル店舗での発売につなげた。
誘導した新規顧客を定着させる戦略にも余念がない。クリニークが目指す「サービス・アズ・ユー・ライク・イット(あなたのお気に召すままのサービス)」を、ECサイトでも実現する計画だ。パソコン、従来の携帯電話、スマートフォンと各デバイスに対応させて、店舗と同様に肌診断ができるツールを提供する仕掛けだ。
とりわけ需要の高い商品については、ライブチャットによる顧客対応を実施。ECサイトの注文過程では、購入者が欲しい新商品サンプルを自ら選ぶこともできる。店舗とECサイトでの購入体験をシームレスにつなげたことでクリニークのリピート率、コンバージョン率は着実に向上しているという。
クリニークのECサイト来訪者は現在パソコン経由が約7割で残りがモバイル経由。今後は店舗と通販サイトの相乗効果を高めながら、20代の顧客獲得に向けモバイル分野に注力するという。
【顧客想定しSEO】老舗シャツメーカー、女性狙い売上高を30~50%増
1924年創業の老舗シャツメーカー、柳田織物(東京都墨田区)が運営するECサイト「ozie(オジエ)」は今年1月のサイト刷新を機に、取りこぼしていた女性顧客の開拓に成功した。女性向けシャツの売り上げは前年比130~150%のペースで拡大を続けている。
柳田織物がECサイトを立ち上げたのは2002年と早かったこともあり、「レディース ワイシャツ」で検索すると、同社ECサイトが結果上位に表示される。ただ、かねて同社は男性用シャツが本業という意識が強く女性用にはあまり力を入れてこなかった。
サイト刷新をにらんだ分析で、コンサルティング会社ゴンウェブコンサルティング(東京都北区)に女性用シャツ販売に成長見込みを指摘され、柳田敏正専務は、ozieの顧客像に女性を加えることを決断する。

トップページで「メンズ」に並べて「レディース」のバナーを大きく設置して導線を強化。その先のページでは、シャツを着た女性の写真とともに「メンズ仕立ての上質」と掲載して品質を訴求する。コーディネート提案、企業理念、即日出荷の案内などコンテンツも新設・強化した。訪問者に「ここで買えば大丈夫」との安心感を与えることに成功し、コンバージョン率を大きく高め、売り上げを伸ばしている。
【販促企画でコラボ】ともに「顧客は若い女性」、ガシー・レンカーと夢展望
にきびケア用化粧品「プロアクティブ」を販売するガシー・レンカー・ジャパン(東京都品川区)は今夏、若い女性向けアパレルECサイト運営の夢展望(大阪府池田市)と販促企画を実施した。新規顧客の獲得が狙いだ。
「物が売れない今、競合と同じ販促チャネルや手法では奪い合いになるだけ。少しでも異なる層を狙いたい」
ガシー・レンカーのデジタル・マーケティング部加藤淳司マネージャーは、共同企画の目的をこう語る。「若い女性という顧客属性が一致しており、顧客へのメリットと、相互の顧客循環を考えて実施した」(夢展望)と思いは一致し、低コストの新規顧客獲得が可能になった。
ガシー・レンカーは7月中旬以降、顧客向けメールマガジンに夢展望の告知を3回掲載し、夢展望のECサイトへ誘導した。夢展望は7月15日に同サイトのモデルも務めるブロガーがプロアクティブを紹介するページを公開し、プロアクティブのECサイトへ誘導した。
これによる販売実績は明かさないがガシー・レンカーの加藤氏によれば、「今後も他業種と組んだ販促を実施していきたい。そう思えるだけの成果は得られた」。
ガシー・レンカーはテレビCMやインフォマーシャル、バナーやタイアップ広告で需要を喚起し、検索連動型広告やアフィリエイトサイトを通じて自社サイトへ誘導するのが、新規顧客を獲得する定石の手法だ。その出稿先には概ね夢展望も出稿しており、共同展開の価値があると判断した。ガシー・レンカーは契約するアフィリエイト・サービス・プロバイダー(ASP)のリンクシェア・ジャパンを通じて、夢展望へ共同販促を持ちかけた。
異業種の共同企画は、新規顧客獲得の販促手法の1つとして有望だ。ただ、費用対効果を厳密に追求するなら、得られる顧客数や売り上げを等しくする、もしくは広告料で相殺するなどの調整をする必要があるだろう。
後編(9月21日掲載)に続く