成熟経済下にあって、人口も減少傾向にある日本市場。そこでは、既存顧客との関係を強めて顧客生涯価値(LTV)を最大化することが重要になる。一方、顧客がソーシャルメディアなどを通じて発する企業やブランドに対する評判は、他の消費者の購買行動を大きく左右するのが、この時代だ。

 そうした消費環境の変化を見据えて、パナソニックはネットを使ったCRM(顧客関係管理)に積極的に投資をしている。同社は会員制サイト「CLUB Panasonic」を2007年11月に開設し、会員数は数百万人、月間に数億PV(ページビュー)を数える。第三者機関からも高い評価を受けており、新規顧客の開拓やLTVの増加、さらには商品開発にまで貢献している。

CLUB Panasoicとパナソニック商品サイトのPV推移。ニールセン・ネットレイティングス調べ。調査対象者は家庭と職場のPCからのアクセス

 CLUB Panasonicの基本的な役割は、同社の顧客に対する総合窓口だ。購入した商品の製造番号などを「ご愛用者登録」コーナーで登録してもらい、その情報に基づきサポート情報を提供し、さらに関連商品や新商品の購入を促す。

 このサイトの運営目的は、2010年度には事業計画としても明文化された。
 「個客接点No.1経営:当社の幅広い商品群を活かしつつ、ITを駆使した新しい関係を構築し、個々のお客様、すなわち『個客』に提供する生涯価値の最大化を目指す」

 大坪文雄社長ら経営陣が、強く支持するプロジェクトでもある。

 ほぼすべての商品の取扱説明書からCLUB Panasonicへ誘導するほか、ネット広告も活用してパナソニック商品を持たない消費者にも登録してもらい、関係を深めていく。外部のソーシャルメディアもCLUB Panasonicに誘導する役割を担う。

 単なる商品登録サイトでは、会員登録や日々利用する動機は起こりづらい。そこでビンゴなどのゲーム、サイト利用で得られるポイントを使った懸賞応募、商品レビュー、ダイエットなどをテーマにしたコミュニティなどのコンテンツを提供。CRM推進室が運営するCLUB PanasonicのIDで、各事業部門が運営する写真共有サービスや健康管理サービスなども使えるようにして、毎日の利用を促している。

 こうした活動の結果、例えば日経BPコンサルティングが実施した「Webブランド調査2011-春夏」でCLUB Panasonicは20位(ネット専業を除くと8位)と家電メーカーでは最高位を得ている。パナソニック商品情報サイト(23位)をも上回る評価を得ている。

CRMサイトが生む3つの効果

 このサイトは、3つの成果を生み出している。既存顧客へのクロスセル、購買検討者の“後押し”、顧客の声の商品開発への反映である。

CLUB Panasonicは顧客とパナソニックの統一窓口となっている

 取り組みの1つが保有商品情報に基づいたレコメンドだ。

 メールやマイページを通じて案内する。例えば、テレビを買った顧客にはデジタルレコーダーの「DIGA」を案内する。また、数年前にデジタルカメラを購入した会員に対しては、その新製品を案内する。CLUB Panasonicでは、製品の評価・感想を集める目的で「モニター販売」を実施している。新商品を割安に買える可能性があるため、こうした企画を通じて商品をレコメンドすれば顧客の関心を集めやすい。

 購買を後押しする効果も出ている。
 「消費者は一般に、1年間で10万円分の家電製品を買うといわれる。が、CLUB Panasonic会員の1人当たりの(ご愛用者登録の)登録金額を集計すると1年当たりの増加額はその比ではない。登録ユーザーは一般の人より当社製品を多く買っている」(CRM推進室プランニングチームの中村愼一リーダー)。

 追加購買だけでなく、新規顧客の獲得にも貢献しているのが「みんなのレビュー」コーナーだ。29分野480品番の商品について、購入者アンケートと商品モニターを通じて実際に商品を購入した人の意見を集めて掲載する。

 アンケートはCLUB Panasonicのサイト上で案内したり、愛用者登録した人にメールを送ったりして集める。クチコミサイトに不慣れな人でも書きやすいように、商品ごとに6つの質問を用意してアンケート形式で書いてもらう。

 「この時代、宣伝サイトであっても、良い評価ばかりでは、それを見た他のお客さんは信じてくれない」(中村氏)と、悪い評価も掲載することにこだわる。ただ、回答するのは購入者なので、自分が買った商品の悪口を言いたくないとの感情からどうしても好意的なコメントが多いのが、むしろ悩みだ。デジカメなど、趣味の世界に近い商品へのクチコミが多い「価格.com」などとは違い、白物家電のレビューも多いのが特徴だ。

 クチコミ情報を集積した結果、「半分以上の(製品の)品番では、検索エンジンの結果が10位以内、『品番 評価』や『品番 レビュー』の検索では、ほぼ全品番が10位以内になる」(中村氏)とSEO(検索エンジン最適化)にも効果があり、みんなのレビューの訪問者の半数以上は検索エンジン経由となっている。

もはや商品企画に不可欠な存在

 会員向けには年間数百本のアンケートや、開発中の商品への意見募集会、ショールームでのイベントを実施して、参加者を募集する。愛用者登録の仕組みがあるため、特定商品の顧客を集めることも簡単だ。

 デジタルAVCマーケティング本部CRM推進室の山本雅通室長は、「調査は全部僕らのお客さん(会員)を通してやっている。その意味では、(パナソニックの)商品企画はCLUB Panasonicがないとできないといえるぐらい(各事業部が)使ってくれるようになった」と自負する。

 企業による会員制サイトとして確たる成果を上げているCLUB Panasonic。だが、山本氏はこれを最終形とは考えていない。「今は力業で会員を獲得している面もあるけど、これが自然と増えるようにしたい」と言う。現在はゲームや懸賞への参加目的で会員登録して、毎日のように利用する人も多い。しかしゲームが響かない層もいるし、今の会員にも飽きが来るのは間違いない。

 将来的には、自社製品と連携したネットサービスでCLUB Panasonicを使ってもらう姿を描いている。ネット経由で家庭のDIGAのに録画予約などができる「ディモーラ」や、血圧計と一緒に使える「健康日記」などのサービスはその一例となる。そこでは、例えばアップルの「iPhone」と「iTunes Store」の組み合わせがお手本となるかもしれない。ネットを通じた顧客との関係強化は、多くのメーカーにとっての課題でもある。クチコミの活用など、その先行事例としてパナソニックの取り組みに学ぶべきところは多い。

■修正履歴
記事掲載当初、CLUB Panasonicとパナソニック商品サイト全体のネット視聴率のグラフの凡例が入れ替わっておりました。お詫びして訂正します。 グラフは修正済みです。[2011/09/12 20:30]