企業のスマートフォン対応が急速に進んでいる。ただその過程で、iPhone対応かAndroid対応か、また、サイトリニューアルかアプリ作成か、についてどう優先順位を付けて、どの程度社内のリソースを注ぐべきかに悩む企業は多い。

 こうしたスマートフォン対応戦略に1つの方向性を示したのが、地図サービス提供のマピオン(東京都港区)だ。この8月、スマートフォン用サイトをリニューアルした。HTML5関連技術を採用して、「Webアプリ」ともいえるスマートフォンアプリ並みの高機能を実装した。

ルート検索で課金開始

マピオンのスマートフォン用サイト

 新たに提供を始めたのが、ドライブ・徒歩ルート検索サービスだ。地図上に描画されたルートをたどって、目的地への道のりを調べることができる。定期的に現在地を取得して、移動すると地図の表示範囲も切り替えるナビ機能にも対応する。このルート検索の提供を機に、月額315円のプレミアムサービスを始めた。

 HTML5でサイトを構築することで、iPhoneでは利用できないFlashは使わずに、高機能なルート検索サービスを提供できている。つまり、1つのサービスで主要なAndroid端末とiPhoneの両方に対応可能となったわけだ。

 同社は既にiPhoneアプリとAndroidアプリも提供しており、スマートフォン対応は一通り済ませている。が、課金を始めたのはスマートフォン用サイトが初めて。モバイル向け地図の課金は同社事業の柱の1つで、パソコン用地図の広告事業、法人向け地図提供事業、ゲーム事業とある中でも収益性は高い。スマートフォン用サイトが、今後の同社の成長のけん引役となる。

 どうして、サイトを強化したリニューアルという選択となったのか。

 1つの理由は製作体制の問題だ。同社はサービスの内製を基本としており、開発人員は限られる。サイトのスマートフォン対応を始めた昨年12月の段階で、同社サイトへのスマートフォン経由のアクセスは、Android、iPhoneが半々の状況だったという。その結果、「アプリを両方作ると、それぞれの工数がかかる、両方に対応するなら(共用できる)Webサイトで対応しよう」(ビジネスソリューション事業部マピオンGの藤本亜矢子リーダー)という選択になったのだ。

 もう1つの理由は、競争環境と自社の強みを見極めた結果だ。

 スマートフォン用地図サービスの競争環境は厳しい。そもそも、AndroidもiPhoneも端末にはグーグルの地図アプリが初めから導入されている。「App Store」「Android Market」のようなアプリ配信サービスでは、個人も含めて世界各国の開発者が無数の地図、地域情報アプリを提供する。その中でどう戦っていくのか……。

検索からの流入を活用

 マピオンの強みを考えると、「PCサイトへは検索エンジンからの流入が結構多い。ユーザーが地名、スポット名を入れて訪問する。その流れをシームレスにスマートフォンのユーザー・PVに転換するには、Web対応を先にやった方が効果が早く出る」(ビジネスソリューション事業部マピオンGの園野淳一マネージャー)と考えるのは自然な流れだった。

 1997年開始の老舗ということもあり、検索エンジンからの導線は太い。パソコン用サイトの月間利用者(ユニークユーザー)数は1200万人に達する。さらに「マピオン電話帳」サービスの提供開始時など、外部の専門企業とともにSEO(検索エンジン最適化)対策に取り組んでもきた。

 スマートフォン用サイトのユニークユーザーは120万人で、PV(ページビュー)は200万とまだ規模は小さいが、新機能を追加するたびに利用は伸びているという。

 今年に入り、4人だった従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)向け「マピオンモバイル」のチームを2人に減らして、3人のスマートフォン対応チームを新設した。マピオンモバイルで人気の電車の乗り換え案内や天気予報などをスマートフォン用サイトでも提供し、その次にパソコン用サイトのサービスをスマートフォンでも展開して、できるだけ両者の差をなくす方針だ。多様な端末に対応するなど技術的なハードルは高いが、先行して蓄積してきたノウハウは今後生きてきそうだ。

 事業環境の変化もスマートフォン用サイトの課金サービスを後押しする。NTTドコモは今年中にも、自社の公式サイトに会員登録している従来型携帯電話の利用者がスマートフォンに乗り換えた場合でも、会員登録を引き継ぐようにするとみられている(KDDIは対応済み)。現在は一度解約する必要があるため、マピオンのような公式サイト運営企業にとっては、ユーザーのスマートフォンへの機種変更で、有料会員が減少する恐れがあった。パソコン用サイトのトラフィック誘導力、携帯電話用サイトの収益力、この2つを融合できればマピオンのスマートフォン事業は一気に拡大する可能性がある。