この6月にEC(電子商取引)事業に参入したダイキン工業。同時期に、コミュニティサイト「ダイキンの考えるお店 Community」も開設し、顧客と直接の対話を始めた。家電量販店など既存販路への遠慮もあって、家電などを扱うメーカーは自社ECには二の足を踏む。それでもダイキンが踏み切ったのは、「消費者の声ではなく購入者の声」を直に聞き、買い換え時には再びダイキンを指名買いする顧客を囲うため。ブロガーによる100点満点コメントとの決別でもある。メーカー本来の在るべき姿へと同社の背中を押したのは、2つのエアコン用リモコンの開発だった。

 メーカーと消費者の関係は一般的にこれまで、間接的なつながりにとどまっていた。直接的な関係を持つ必要があまりなかったとも言える。高機能の製品を開発して、テレビCMを中心としたプロモーションをかける。GRP(延べ視聴率)を元に量販店と取り引きをして、店頭での棚割りが決まる。それを目にした消費者が、店舗で商品を購入する。こうした流れで、モノは売れてきた。

 しかし、そうした手法は効果を出しづらくなってきている。消費者は企業からの情報を鵜呑みにせず、価格比較サイトのクチコミやソーシャルメディアなども駆使して、多角的に情報を集め買い物をするのが当たり前になってきたからだ。

 そんな時代だからこそ、顧客とのつながりを強化して、自社製品のリピート購入につなげるCRM(顧客関係管理)の重要性が高まっている。大規模なプロモーションを展開して、商品を売りっぱなしにするのではなく、販売後も顧客と直接対話をして、関係を深めてリピート購入につなげる。あるいは顧客のニーズを正確に把握した上でのモノ作りにメーカーは取り組んでいくべきだろう。そうした活動に取り組み始めたのが、ダイキン工業だ。

直接顧客の声を聞くのがメーカーの原点

 同社が6月に開設したダイキンの考えるお店 Communityには製品の開発秘話、製品が紹介されたメディアの案内、そしてその商品に関するアンケートと過去のアンケートの回答結果などを掲載している。掲載した情報を案内するメールマガジンも配信しており、誰でも無料で登録できる。

「考えるお店 Community」のトップページ

 このコミュニティサイトを軸に顧客と対話をして、関係を強化する。「不満も含めて、真剣に意見を寄せてくれるような顧客と対話をしたい」と、空調営業本部事業戦略室商品企画担当課長の酒井茂孝氏。このサイトの担当者である。

 商品への感想を得るために、ブロガー向けのモニターキャンペーンなどを実施する企業も多い。ただしそれでは、「100点満点の答えしか返ってこない」ことを酒井氏は知っている。

 著名なブロガーであればそれだけ、商品情報はネット上に拡散し、広く知れ渡るところとなる。ただ、それだけのこと。とも考えられる。

 ブロガーと顧客の決定的な違いは、身銭を切っているかどうかだろう。自分のお金で買った人から直接、意見を聞きたいし対話もしたい。そう考えたダイキンの取り組みは、メーカーの原点とも言え、だからこそ注目に値する。実際、考えるお店 Communityのサイトでは、一般消費者へのアンケートだけではなく、購買者だけを集めたグループとの対話の実現を目指している。

 どうやって“真剣な顧客”を集めるのか。その手段にうってつけだったのが、6~7月にかけて相次ぎ発売した、2つのリモコンを活用することだった。旧機種のエアコンを“バージョンアップ”させる機能を持っている。

 1つが「soine」。このリモコンを使って旧型のエアコンを動作させると、人の睡眠の深さに合わせて、設定温度を自動で変化させることができる。2003年以降に発売したエアコンに対応している。

 もう1つが「ミハリモ」だ。東日本大震災以降、消費者の間で高まる節電志向に応えるために、soineをベースにプログラムを書き換え、わずか3カ月で開発した製品だ。時間ごとに設定温度を自動で変えたり停止したりできる。電力使用量のピーク時に自動的にエアコンを切る、といったことが可能になる。こちらは、1997年以降に発売したエアコンであれば利用できる。

 2つのリモコンは、今までにないコンセプトの商品だけに、予測販売台数は未知数だった。また、ミハリモについては、特に節電意欲が高まる今夏に発売するには、開発から生産まで3カ月程度しか猶予がない上に震災の直後ということもあって部品の確保もままならぬ時期だったため、大量生産も難しかった。

自社ECサイト立ち上げという必然

 ダイキン内部で持ち上がったアイデアが、自社でECサイト「ダイキンの考えるお店」を立ち上げて、このサイト限定で販売するというものだった。家電量販店などを経由せず、直接販売すれば、顧客の情報が直に手に入り、了承が得られれば使った感想なども取得できる。

 これまでは、既存の流通経路への配慮もあってネット通販への参入には二の足を踏んできた。ただ、自社サイト限定製品であれば、風当たりは強くないとも考えて、開設に踏み切った。

soineとミハリモは自社EC限定販売

 リモコンの価格はsoineが1万9800円、ミハリモは1万2800円。決して安くはない。つまり安くはない上に、これまでになかった旧機種をバージョンアップさせるという新しいコンセプトの製品にお金を払ってくれるような顧客は、ダイキン製品のファンである可能性が高い。

 だからこそ、使ってみた感想を尋ねた時には、詳細に回答してくれることが期待できた。もし製品に不満があればその意見をしっかり伝えてくれると考えられた。この購入者のグループは、一般消費者とは全く異なる集団と位置付けることができるわけだ。

 2つのリモコンは特殊なモノだけに、爆発的に売れることを期待しているわけではない。「100人が買ってくれれば、その100人としっかり関係を作って、感想や意見を取得していきたい」と酒井氏。その対話で支持を得られた際には、次世代のエアコンにsoineやミハリモの技術を搭載していきたいという。

 厳しい意見が寄せられれば、いきなりエアコンに搭載するのではなく、まずsoineやミハリモを改良して、今度は顧客にモニターとして使ってもらうこともできる。

 そもそもsoineとミハリモは、「これまで家電は売りっぱなしだった。その後壊れるまで、能動的に利用者に接客するようなことはしてこなかった」(酒井氏)という反省から生まれた製品だ。

 エアコンは、購入から買い替えまで通常なら10年以上はかかる。これまでのつながりと言えば、フィルターなどの消耗品を購入してもらう程度。しかし、それだけで強いファンになってくれるかどうかは疑わしい。

 壊れたときに買い換えてもらうのではなく、バージョンアップできる機器を開発することで、既に売った商品をベースにもう一度商売ができる。さらにその機器を使うことで、新しい価値を感じてもらえれば、満足度のさらなる向上にもつながる循環を生み出すことができる。

 「売りっぱなしで、その後の判断はお客さん任せ、ということはやめたい」。そう語る酒井氏の挑戦は始まったばかり。soineとミハリモの販売台数は現在のところ数百台にとどまる。しかし、この購入者と対話を続けながら、今後もこうした“アイデア製品”を開発して、自社ECで先行販売し、意見交換を続けていく。そうして「ダイキンは製品を買った後も、しっかりアフターケアをする企業」というイメージが定着すれば、自社にある他商品の購入や、買い換え時に再び選んでくれる優良顧客の獲得につながるだろう。