キヤノンは7月、企業ブランディングを目的とした動画配信サイト「Canon Premium Library」を開設した。動画配信であれば、「YouTube」などにチャンネルを開設した方が低コストで、より多くの視聴者を集める可能性がある。実際そうした企業もあるが、同社は自社サイト内での運営にこだわった。その背景には「コアブランディング」という、同社が重視するブランディング戦略がある。

動画配信サイト「Canon Premium Library

 Canon Premium Libraryでは、キヤノン創業期からの映像などをまとめた「コーポレートプロフィール」、デジタルカメラの映像処理技術などを紹介する「キヤノンテクノロジー」、子ども向け学習映像の「キッズ」など、5分野41本の映像を公開した。既にサイトで公開済みの映像を集約した側面もあるが、文化財の高精細な複製品を制作して寄贈する社会貢献活動「綴プロジェクト」の2本は初公開となる貴重なものだ。

 41本中18本はハイビジョン映像をベースにした高画質な映像で配信する。映像再生にはアドビシステムズのFlash技術を使うが、同技術を使えない「iPhone」「iPad」向けには別途サイトを用意した。

コアブランディングという考え方

 動画サイト開設の狙いは大きく2つある。

 1つは、「20年以上の前の16mmフィルムの時代から数えると制作本数は200本を超えるのではないか」(広報メディア部メディア制作課の中江達之課長)というほどの、既存の映像資産の再活用だ。工場見学、ショールーム、展示会用に映像を制作、上映する機会はあるが、これまでフル活用されてきたとは言い難い。

 キヤノンファンへのサービスであると同時に、「ワールドワイドのキヤノン社員にも見てもらう」(広報メディア部の村上潤一部長)ことで、社員の間でも理解が深まり、マーケティング活動が促進されるという効果も期待できる。

 もう1つの狙いは映像を見てもらうことで、「特定の商品だけでなく、キヤノンブランドを好きになってもらう」(村上氏)ことだ。

 キヤノングループのブランディング活動は、マーケティング活動を担うキヤノンマーケティング、そしてキヤノン内では各事業のビジネスユニット(BU)と広報メディア部が所属するコーポレートコミュニケーションセンターと3つの組織が担当する。そのため、ブランディング活動を階層化して、分業できるようにしている。

キヤノンにおけるブランディング階層とその実行企業・組織

 キヤノンマーケティングが担うのは「個別製品やサービスのブランドの浸透」で、各BUは「事業や個別ブランドの浸透」だ。そしてコーポレート部門は技術、環境、CSR(企業の社会的責任)といった「企業グループとしてのブランディング」を担う。コーポレート部門はさらに、消費者と心理的に深い関係を持ち、長期間にわたるブランディング活動も担当する。それが「コアブランディング」だ。

 コアブランディングの活動とは、「ブランドそのもののを深耕して信頼、親しみ、安心を持ってもらう活動であり、製品の幅広いコミュニケーション活動を下支えするもの」と村上氏は言う。商品のプロモーションは売り上げに直結するが、その場限りにもなりかねない。また、「3カ月間のキャンペーンの繰り返しでは消耗戦に陥るだけ」(村上氏)。

 コアブランディングによって、ふとしたときにキヤノンを思い出してもらう、購入商品の候補にキヤノンを挙げてもらう、選択してもらう。Canon Premium Libraryを、このコアブランディングを実現するためのサイトと位置づける。

「Canon Premium Library」はブランディングの根幹

 つまり、自社サイトでの動画配信にこだわったのは、Canon Premium Libraryがブランディングの根幹をなすためである。そもそも、「10年後も見られるものにする」(村上氏)ことを目指すのであれば、いつなくなるかも分からない他社のサイトに置くことはリスクも伴う。また、キヤノンは映像機器のメーカーでもあり、YouTubeなどでもハイビジョン映像の配信は可能だが、「エンコーディング(動画変換)を他人任せにはできない」(村上氏)というほど映像クオリティへこだわる。

 このこだわりは内容面にも及ぶ。カメラ技術を紹介する動画もあるが、「技術解説はPowerPointのような紙芝居やアニメーションではなく、映像ならではの表現で分かりやすく表現する」(中江氏)ことに気を配る。一部の愛好家や専門家ではなく、一般ユーザーの目線を意識して動画を制作している。長期的なブランディング活動という目的を意識して、テレビCMや製品発表会など製品プロモーションに直結するような映像はあえて入れていない。

 自社サイトへこだわるとはいえ、多くの人に見てもらうためにはソーシャルメディアの活用は無視できない。映像ページには「Twitter」と「Facebook」の共有ボタンを設置して、見た人が簡単に映像をSNSやミニブログ上で話題にできるようにした。その結果、サイト開設のニュースリリースを配信した7月21日と翌日の22日だけでなく、数日たった28日にも1日のページビューは2万を超え、同社が想定した以上のアクセスを集めた。28日は「どこかのブログやSNSなどで取り上げられたのだと思う」(村上氏)としており、クチコミ効果の正確な把握が今後の課題だ。

 人気の動画は「デジタルカメラができるまで」や、「70年歴史映像『A Tradition of Innovation』」「綴プロジェクト よみがえる建仁寺50面の障壁画」など幅広い。視聴数だけでなく平均視聴時間も考慮に入れて、今後の広報用映像の制作へ反映していく。グループ各社に個々の映像ページへの直接のリンクを促してアクセス数のさらなる増加、そしてプロモーションへの貢献も目指す。

 今後の最大の課題は英語版の提供だ。年内の公開を目指して準備を進めている。英語版サイトのアクセス数、映像の再生回数は日本語サイトよりけた違いに多く、ブランディングへの効果も大きくなる。英語版を世界各国のキヤノン現地法人に向けたショーケースとして、中国などへの展開も目指す。

電機・精密機器メーカーによる主な企業動画配信サイト
企業名サイト名URL
パナソニックチャンネルパナソニックhttp://ch.panasonic.co.jp/
キヤノンCanon Premium Libraryhttp://web.canon.jp/premium-lib/index.html
シャープ動画コンテンツhttp://www.sharp.co.jp/videos/index.html
ソニーSony Group Official Channel(YouTubeチャンネル)http://www.youtube.com/user/Sony
東芝VISION for INNOVATIONhttp://www.toshiba-innov.com/
日立製作所Hitachi Theaterhttp://www.film.hitachi.jp/
三菱電機キーテクノロジーhttp://www.mitsubishielectric.co.jp/me/key-technology/