新卒・中途採用支援などを請け負う人材サービス業界は、ソーシャルメディアの荒波にもまれている。新卒採用に「Facebook採用枠」を設けて、独自の採用活動を試行する企業が相次ぐ一方で、今秋には転職、中途採用に活用されるビジネス専用SNS「LinkedIn」が日本市場に上陸する。人材サービス業界のビジネスモデル自体が大きな変革を迫られている。そんな中、業界大手のインテリジェンスは、ソーシャルメディアを活用した対抗策を打ち出した。

 インテリジェンスは2006年7月に学生援護会を経営統合し、そこから2年間は自社への採用を積極化させた。社員3000人の規模ながら200~500人規模の新卒採用を続けたのである。大量採用のひずみから、「インテリジェンスは(転職支援サービスに)若いキャリアコンサルタントが多く、不信感を持った」などの不評が買う事態となってしまった。ネット上の風評は今でも検索すれば発見でき、不評の爪痕は消えたとは言い難いようだ。

 「ベテランのコンサルタントもいるのに、実態が伝わっていない」

 同社キャリアディビジョン事業企画統括部マーケティング企画部の三石原士氏はこう考え、コンサルタント1人ひとりの専門性を打ち出す取り組みを始めた。まずはコンサルタントのプロフィルページを作成し、公開した。「営業・販売・サービス系」「IT系エンジニア」「メディカル系」などの担当分野別に分けて、コンサルタントそれぞれに専門分野があることを明確にした。

 そして昨年10月に立ち上げたのが「Twitterプロジェクト」だ。事前準備の後、11月に4人のコンサルタントがTwitter活用を始めた。転職希望者のソーシャルメディア利用率が高いIT系、ネット系、金融系、そして専門知識が問われるメディカル系のコンサルタントの計4人が日々、Twitterで情報発信をしている。

223人から4人を厳選

 インテリジェンスはキャリアコンサルタントを223人(2010年9月時点)も抱えているにもかかわらず、Twitterを始めたのはたったの4人にとどまる。同社がソーシャルメディア活用で「量」より「質」を重視していることがその理由だ。

 インテリジェンスの競合サービスの1つ、「エイクエント」では全キャリアコンサルタントがTwitterアカウントを持ち、情報発信を始めている。インテリジェンスでも200人以上がTwitterを活用すれば大きなパワーになりそうだが、三石氏はあえてそうはしなかった。

 最も恐れたのは、「始めたものの、続けられない」というケースが多発することだった。そこで、「自分を“メディア化”できる素養がありそうな人から徐々に始め、その人たちを先生役にしてチームを強化していく」(三石氏)ことを狙い、4人に厳選したのだ。

 Twitterの使い方自体は、さほど難しくはない。ただそれをマーケティングや業務に活用するとなると事情は異なる。そこで、11月の開始前にはマーケティング企画部主催で、ソーシャルメディア全般、TwitterやFacebookなどを使ったパーソナルブランディング、遵守すべきソーシャルメディアガイドライン、効率的な情報収集方法、Twitterの基本操作といった様々な勉強会を重ねて、コンサルタントの活用を支援した。

●ソーシャルメディアガイドラインの内容例
・うそはつかない
・知っていることを情報発信する
・ミスがあったら、即訂正し、謝罪する
・mentionなど、声がかかった場合は、24時間以内に返信する

Twitterの専門家ではないという課題

 それでもスタート後に使い方が分からない、投稿意欲が高まらないといった問題は起こる。三石氏が個別に操作法をレクチャーしたり、コンサルタント同士でツイートの文体や内容について意見交換したりして、Twitter活用を推進した。キャリアコンサルタントは転職支援の専門家でも、Twitterの専門家ではない。手厚いサポートが必要となることが、始めてみて改めて分かった。

 Twitterを活用するコンサルタントの1人、金融業界を専門とする鶴岡秀行氏は現在1800人以上のフォロワーに向けて、金融業界を中心としたニュース、人材マーケットの動向、自身の私的な活動などについて、曜日に関係なくつぶやく。

 こうした投稿方針も、鶴岡氏をはじめとするコンサルタントと、三石氏が事前に打ち合わせをして決めたものだ。Twitter活用の目的は、コンサルタントの専門性を訴求すること。過去の転職相談者を想定してその人にアドバイスするようにツイートする。

 確かに、ツイートの中にコンサルタントのプライベートな情報を入れるかどうかの判断は難しい。が、転職希望者はコンサルタントに自分のすべてをさらけ出す。であれば、コンサルタントの人柄を事前に知っていた方が、転職希望者にとっても親近感が増し、安心して相談できるだろうという判断だ。

コミュニケーション率を注視

 徐々に成果は出始めている。コンサルタントは1年間に約300人をコンサルティングする。鶴岡氏の場合、そのうち約50人は過去にコンサルティングをした人などからの紹介で、これらは自分の力で獲得したものだ。その中に「Twitterで知った」と相談も舞い込むようになった。

 こうした成果を増やすため、何をKPI(重要業績評価指標)に置けばよいか。ここでも同社では「質」の指標を重視する。KPIの1つとしている「コミュニケーション率」は、一方通行の情報発信ではなく、フォロワーとのやり取りが活性化しているかどうかを見るものだ。自分の投稿のリツイート数と自分のIDを含んだ投稿数の合計を、自分の総投稿数で割って算出する。投稿が引用されたり、フォロワーと会話したりするほどコミュニケーション率は高くなる。

 コミュニケーション率の計測に当たっては、ソーシャルメディア活用支援のユニークビジョン(東京都渋谷区)のソーシャルメディア分析ツール「BELUGA(ベルーガ)」を使っている。インテリジェンスのコンサルタントの平均は25%程度だが、鶴岡氏は45%にも達するという。多忙なコンサルタントにとって、投稿数という「量」をむやみに増やすのは難しい。それより「質」の高い情報でフォロワーとのコミュニケーションを活性化することで専門性を理解し、さらに親近感を持ってもらうことを目指している。

ソーシャルメディア分析ツール「BELUGA(ベルーガ)」による分析例

 ソーシャルメディア上の友人関係や発信内容、その広がりを分析して、その人の影響力を図る指標「Klout」スコアも月1回チェックしている。三石氏は「ツイート内容やコミュニケーションの質は『やる気』次第。どんな小さな変化でもTwitterを活用して良かったと感じることを共有して、モチベーション維持に役立てたい」と語り、コミュニケーション率やKloutスコアの向上で、コンサルタントに活用意欲を高めてもらう。

 当初Twitterプロジェクトは今年3月までの予定だったが、反響が大きいため期間を延長した。4月からはコンサルタントのFacebook活用も始めた。コンサルタントが勉強会を企画してFacebookのイベント機能で参加者を募るような取り組みも始動している。Twitterの140字のコミュニケーションではできない深いコミュニケーション、関係作りの場として活用していく。

 先行して始めた4人の成功を見て、社内の他のコンサルタントからもTwitterを利用したいと手が挙がっている。ただ、事前研修や個別サポートに十分な時間を割かずにスタートすれば、数を追い求めた過去の二の舞になってしまう。そのため、人数を増やした第2フェーズが始まる今年10月に向けて、「質」にこだわりながら慎重に準備を進めている。

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