「1年間に200回以上のセミナーやトレーニングを開催していたが、細かな作業に追われて参加者を見込み客としてつなぎ止めることはできていなかった…」
財務会計、人事給与ソフト「SuperStream」シリーズを企画・販売するエス・エス・ジェイ(東京都中央区、SSJ)の山田誠マーケティング部部長は、2008年までの同社の施策をこう振り返る。

SSJはキヤノンITソリューションズの子会社で、「ERP(統合基幹業務システム)市場では国産製品としてはトップシェア」(山田氏)のベンダーとして、業界では知られた存在だ。SuperStreamシリーズは6000社以上への納入実績を誇る。
そんな同社だが、2008年まではデジタルマーケティングには手つかずだった。製品は約100社の販売代理店を通じて販売しており、マーケティング施策といえば「展示会」への出展、「カタログ」配布、「セミナー」開催が“三種の神器”だった。中でも力を入れていたのが、代理店に製品の特長を理解してもらうためのトレーニングや、見込み客開拓のための製品紹介セミナーだ。代理店主催も含めると、当時も今も1年間に合計200回以上も開催しているという。
しかし頼りの“神器”もさび付いてきた。消費者、企業を問わず、何か商品を買うときに、ネットを検索して検討商品をリストアップして、評判調査をするのは今や当たり前。なのに、2008年11月当時、Googleで「会計システム」と検索しても、SSJのサイトが表示されるのは36番目だった。これではセミナーの集客さえ困難だ。
そこで2009年、ジゾンのCMS(コンテンツ管理システム)「ハートコア」、そしてシャノンのセミナー受付・管理システム「スマートセミナー(現マーケティングプラットフォーム)」を導入して、デジタルマーケティングの強化に踏み切った。
具体的にはCMS導入、そして販売代理店のサイトとの相互リンクによるSEO(検索エンジン最適化)対策の強化、専門サイトへのネット広告出稿による資料請求の獲得、月1回のメールマガジン配信、アクセス解析の実施による販促策の改善などだ。サイトにはSuperStream導入事例の記事を月1回掲載し、昨年からはセミナー動画配信も開始してコンテンツを強化している。その結果、Googleでの「会計システム」の検索順位は4位まで上がっている。
メルマガ読者数は2009年は4000人だったが現在は8000人まで増え、セミナー集客の4割はメルマガ経由という効果を発揮している。「(ネット広告などで)新規に受講者を1人獲得するには3万円ぐらいかかる」(マーケティング部マーケティング企画課の中井雄一郎氏)ので経費削減の効果は大きい。
セミナー欠席者へもフォローのメール
セミナー運営をシステム化した結果、開催直前に送るリマインドメール、直後に送るフォローメールも自動化され、マーケティング部スタッフの負荷は軽減した。欠席者には「ぜひ次回には…」と送り、無断欠席の“ばつの悪さ”を軽減して次回への参加を促すきめ細かさだ。細かな作業が減った分、企画内容に注力できる。「国際会計基準(IFRS)」をテーマにしたセミナーなどは好評を博しているという。
こうした強化策により、2008年と2010年の実績を比べると、サイトのユニークユーザー数は2倍以上、資料請求数は5倍、セミナーについては、開催回数は同じだが参加人数は2倍に増えた。
当然システム投資は必要だが、山田氏は「3日間の展示会出展でも1回1000万円はかかる。(それとさほど変わらない金額で)展示会より継続的な効果が見込め、費用対効果も高いWebに投資した方がいい」と投資対効果を判断する。
ERP市場は国内外の数十社が市場を奪い合い、シェア2位でもその比率は1けただ。製品をIFRS対応させるための開発費が今後かかることを考えると、中小ベンダーは淘汰される可能性が高い。今は投資をためらって機会を損失するより積極的に打って出る段階だ。競争は厳しいが、SSJはデジタルマーケティングの強化により、年間350~400社の新規顧客獲得ペースを維持している。

今後は営業部隊との連携を強化する。7月末に「SSJマーケティングプラットフォーム」を立ち上げ、SuperStreamの競合製品を利用中の企業、商談中の企業、過去に商談経験がある企業、顧客企業、未開拓の企業、といった社内に散在するデータを、すべてセールスフォースに登録する。
これにより、例えば業界別シェアを分析して、SuperStreamのシェアが高いガス業界での未導入企業に各地域の販売代理店を通じて営業をするようなことが可能になるという。SSJはデジタルマーケティング活用の出遅れを一気に挽回し、ERP市場での生き残りを図る。